第47話

*


「買い物ってお前、何買うんだよ」


「そうですねぇ、来たるときに備えて、勝負服でも買いましょうかね」


「そんなの居る?」


「女の子にとって洋服は武器なんです! だから多い方が良いんです!」


「装備する奴がスライムだったら、あんまり意味ないだろ」


「だ・れ・が! スライムですか~?」


「いふぁい……すねるな……」


 初白は額に青筋を立てながら、俺の頬を抓ってくる。

 まぁ、今のは俺が悪いが、こいつ時々俺の事を先輩だと思ってないんじゃないか?


「たく、お前は俺を先輩だと思ってないのか?」


「まぁ………多少は先輩だと思ってますよ」


「多少ってなんだよ」


「まぁ、そんなどうでも良いことは置いておいて」


「どうでも良くはないだろ」


「あ、あのお店に入りましょう!」


「へいへい……」


 初白が指さしたのは、大手のアパレルショップだった。

 俺もたまに行くが、一人で行くか高弥としか行った事が無い。

 なんだか他の奴と入るのは新鮮だ。


「んで、何を買うんだ」


「まぁ特に決まってはないですね、良いのが合ったら先輩に買って貰う感じです」


「なんでそうなんだよ、絶対買わないからな」


「えぇ~良いじゃ無いですかぁ~可愛い後輩の好感度を上げるチャンスですよ」


「なんで俺がお前の好感度を上げなくちゃいけないんだよ」


「いやぁ~たまに先輩から私に熱い視線を……」


「それは気のせいか、お前の妄想だ、目を覚ませ」


「ギャグじゃないですか、もう……あ、これ似合います?」


 そう言って、初白はミニスカートを手に取る。


「あぁ、良いんじゃ無い?」


「そんな適当に返答しないで下さいよ」


「別に適当じゃねーよ、良いと思ったからそう言ったんだ」


「じゃあ、これは?」


 初白が次に持ってきたのは、青色のワンピースだった。

 まぁ、初白には青とか似合うしな……。

 さっきと同じ返答で良いだろう。


「あぁ、良いんじゃ無いか」


「だからぁ! そんな適当に返答しないで下さいよ!」


「いや、そんな事を言われてもなぁ……」


 本当に俺は良いと思ったから言っているのだが……。

 

「じゃあ、どこが良いんですか?」


「全体的に?」


「適当じゃないですか!」


「いや、俺は本当に……」


「まったく……もう良いです、少し待ってて下さい、二種類のうちどっちが良いかを聞く事にします」


 そう言って初白は店の奥に進んでいった。

 本当に良いと思ったんだが……女は良くわからないもんだ……。

 俺がそんな事を考えていると、俺は背後に視線を感じた。


「ん?」


 振り向くが、そこには誰も居なかった。

 他の客の視線だろうか?

 

「先輩!」


「ん?」


 そんな事を考えていると、初白が今度は二種類のスカートを持ってきた。


「どっちが似合うと思いますか?」


「う、うーむ……」


 赤のスカートと黒のスカートか……。

 まぁ、正直上にどんな服を着るかによっても印象は大分違うしな……。

 まぁ、どっちも似合っていると言えば似合っているし……。

 

「どっちも良い感じだと思うが」


「またそれですか! もう! いい加減ちゃんとした感想を下さいよ!」


「いや……俺は」


「もう、良いですよ、赤い方が欲しいのでこっちを買ってきます」


 初白は俺にそう言うと、頬を膨らませながらレジの方に向かっていった。

 なぜだ?

 俺はちゃんと自分の感想を言ったつもりなのだが……。

 

「面倒だなぁ……」


 女とは色々面倒だな……。


「そう言えば……あいつも同じ事を言ってたっけな……」


 レジに並ぶ初白を見ながら、俺はそんな事を思ってしまった。

 これじゃあ、高弥と同じだな……。

 あいつも昨日初白と出かけて、同じような事を思ったんだろうか?


「はぁ……なんだかなぁ……もう吹っ切れたと思ったんだが……」


 俺は中学時代の時の事を思い出しながら、初白の会計が終わるのを待った。 

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