第40話

「は、はい……」


「……中学三年の頃だった、平斗は暴力事件を起こしたんだ」


「え? 暴力事件……」


 私は真木先輩の話を聞いてもあまりピンとは来なかった。

 あの先輩が暴力事件?

 そんなのまったく想像できない。

 あの先輩は誰かに暴力を振るうようには見えない。


「同じ中学の同級生男子を三人、そして男子高校生を三人、平斗は一人で六人を相手にして無傷だったにも関わらず、相手の6人はボコボコだったらしい、しかも発見された時は全員意識が無かった」


「そ、それって本当ですか?」


 まさかあの先輩がそんな事をするなんて……。

 するどころか、出来るとも思えない。


「な、何かの間違いとかじゃ……」


「いや、平斗がその六人を相手にしている姿を見た人間が多数いるんだ」


「で、でも……それじゃあなんで先輩は女子生徒からあんなに敬遠されているんですか?」


「やられた同級生の一人の彼女が、平斗と仲が良かったんだ……それで、みんなは勝手に色々噂をし始めた。平斗のそいつに対する嫉妬だろうって……」


 あの島並先輩が嫉妬だけでそんな事をするだろうか?

 なんか、恋敵に意中の女の子を取られても「仕方ないな」って言って、諦めそうだけど……。

 本当に島並先輩がそんなことをしたのだろうか?


「まぁ、これはみんなが知ってる噂だよ、今じゃ噂に尾ひれや背びれがついて色々話が盛られてるけど」


「それで……」


「僕は真相を知ってる、でも初白さんにはまだ話せない……ごめん」


「あ、いえそんな……」


「………正直言うと……僕は君がどんな子なのか、知りたいんだ」


「え……」


 そ、それってどういう意味?

 も、もしかして、私の事が気になってるとかそう言う話!?

 だから私をデートに誘ったって事!!

 やぁ~ん、真木先輩も可愛いとこあるなぁ~。


「そ、そんなに私の事が知りたいんですかぁ?」


「ん? まぁ、そうだね……君にもいつか話すよ……その時が来たら……」


「え? あぁ……はい」


 真木先輩は真剣な表情を浮かべながら私にそう言った。

 一体、島並先輩の過去に何がったんだろ?


「ま、この話はこの辺にしておこうか、そろそろお昼だしね」


「あ、そうですね! 私、朝早く起きてお弁当作ってきました! 口に合えばいいんですけど……」


「なんか悪いね、じゃあ僕は飲み物を買ってくるから、少し待ってて」


「はい」


 そう言って、真木先輩はベンチから立ち上がり、自動販売機に飲み物を買いに行った。

 私はそんな先輩を見送った後、スマホを取り出して再び先輩からメッセージが来ていないかを確認する。


「ん? まだ返信来てない……もう! 島並先輩いつまで寝てるのよ!」


 いつもは遅くても一時間以内には返信を返す先輩が、今日は朝から全く連絡を返してこない。

 いつまで寝てるの?

 もしかして暇すぎて昼寝しかしてないとか?

 でも、朝は島並先輩がメッセージを送ってきてたし……。


「もしかして二度寝? この忙しい時にぃ~」


 全く!

 私の緊急事態にはすぐに対応してもらわないと困るわよ!

 私は島並先輩にそんな事を思いながら、先ほどの話を思い出す。


「あの先輩が男子6人を一人でボコボコになんて……本当にそんな事あり得るのかな……」


 なんというか、いつもやる気が無い感じで、なんだかんだで協力してくれた、口が悪い先輩がそんな事をするとは思えなかった。

 でも、それが事実だとしたら先輩には何か理由があってそんな事をしたのかもしれない。

 少し気になるなぁ……。


「今度先輩に直接聞いてみようかな?」


 私はそんな事を考えながら、真木先輩が帰って来るのを待った。

 今のところは良い感じでデートになっていると思う。

 学校で出来ない話とか、いつもと違う先輩とか見れて私は幸せだ。


「はぁ~今日が終わらないでほしい……」


 私は思わず一人でそんな事を呟いてしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る