第一章 ヒトラー暗殺計画
英国国防義勇軍からマンチェスター大学へ送られた手紙
前略
ようやく具体的な話に踏み込めるとわかり、ほっとしている。
連絡の通り、指定の日にサセックス州アイピング村、ポート・ストウの近くにある小さな宿に向かってくれ。看板には帽子とブーツが書いてあり、そのほかには何もない。
宿の名前は「透明人間」だ。
夕方あたりに店に入り、コーヒーでも飲みながら退屈そうな顔をしていれば、店の主人はきっとこんな話を始めるはずだ。
『ジャック・グリフィンという、顔を包帯で覆い、目を黒いサングラスで隠した奇妙な男がこの村を訪れたことがあったんだよ。
みんなして、なんだか変な奴だなあ、と思っていたんだが、彼が本当に変なのは、その恰好じゃなかった。
なんと彼は、姿の見えない透明人間だったんだ!
その彼は服を全部脱いで透明な姿となって、大変な騒動を巻き起こした。
警官を殺すだのなんだの、さまざまな悪行を果たしたんだよ。
だが、最後には警官と元同僚の科学者によって殺されてしまった。
どうも彼は、モノケインという薬でそうなったんだそうだ。
彼が暴れたのは、薬のせいで狂気のとりこになったからだとも、もともとの傲慢な性格からだとも言われている。
だがなんにしても、とんでもない事件だったよ!』
細部は違うかもしれないが、だいたい彼の話はいつもこんな感じだ。話そのものには聞き入らなくて良い。目的はその先にある。
この主人は3冊の日誌を持っている。
そこには大英帝国がナチス第三帝国を滅ぼすにあたり、極めて重要な情報が記載されている。先般も伝えた通り、内容の理解には専門的な知識が必要になるため、必ず薬学士を随伴すること。
日誌が本物であることを確認できたら、すぐに主人より譲り受けてほしい。
もちろん、内容は君の想像している通りだ。彼はこの日誌をもとに金儲けを考えているようだが、扱いきれまい。これを使うべきなのは我々なのだ。国防義勇軍の命令と伝えた上で断った場合は、殺しても構わない。
成功の連絡を心待ちにしている。
草々
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