第3話 プロローグ3 森の中

 大陸暦777年、またもシンメイ王国に魔王軍が侵略を始めだしていた。

 国境に近いところで、シンメイ王国の魔法騎士団と魔王軍が距離を取り、睨み合っている。

 


 「隊長‥‥‥魔王軍(あいつら)は何故動かないのですか?」



 髪を後ろで縛り、まだ新米らしい女性騎士団員が不安そうに問う。

 そのすぐ前に腕を組んで、魔王軍がいる方を見つめる、いかにも女性騎士団の隊長と思わしき鎧を着込んだ、女性が言う。



 「多分、警戒しているのね‥‥‥」

 「警戒‥‥‥ですか?」

 「ええ、一年前のあの出来事を」

 「一年前の?なんなんですかそれは?」

 「そうね、貴女は騎士団に入ったのは、一カ月前だから知らないが、ルイラ姫の事はしっているわよね」

 「‥‥‥はい。一年前の魔王軍侵略の時、魔王軍をほとんど消し去ったと。その時の立役者だったと聞いています」

 「そう‥‥‥それを魔王軍は恐れている」

 「そうなんですか‥‥‥その立役者のルイラ姫は今は何処に?」

 「あの時に酷い怪我をして、今も治療の為に城に居るわ」



 そう新米の女性騎士団員に言うと、女性騎士団の隊長は、まるで遠い目をし、一年前の事を思い出しながら、魔王軍が居る方角の方を見つめ直した。



 ‥‥‥あの時‥‥‥私は見た‥‥‥

 ルイラ姫を中心にして、多くのモンスター達と消えていく姿を‥‥‥まるで光に吸い込まれていく様に‥‥‥


 『確かに、今、ルイラ姫が居ないことが魔王軍(やつら)に知られるとどうなるか‥‥‥』


 

 女性騎士団の隊長は、心の中で呟いていた。

 あの一年前の魔王軍がシンメイ王国を侵略する時に、ルイラ姫が消えた事は、ごく一部の人しか知られていない。

 もし、この事が魔王軍に知られると、シンメイ王国の魔法騎士団と兵だけではどうする事も出来ない事は目に見えていた。

 そして、魔王軍も一年前のあの出来事はかなり恐怖に感じている。

 だから、シンメイ王国の表向きは、ルイラ姫が生きている事になっている。

 そうする事で、魔王軍侵略の進行を止める事ができるからだ。



 ‥‥‥だが‥‥‥いつまでも騙せるわけがない‥‥‥



 『兎に角、今は敵の情報が欲しい。第七部隊が上手く情報を掴めればよいが‥‥‥』



 城壁の外側に広がる高い木々が生い茂った森を心配そうに見つめ、女性の騎士団の隊長は、ポツリと呟いた。



 その魔法騎士団の第七部隊とは、戦闘より情報収集が主な任務。一年前の魔王軍侵略の折、いち早く気づいたのも、その第七部隊だった。だが魔法騎士団は、十年前には3000人程居た団員も今は400人程になってしまった。

 十年前の魔王軍侵略にて、魔法騎士団と兵の8割は、魔王軍侵略を阻止した替わりに、還らぬ人になった。




 ◇◇◇




 何処の森林‥‥‥いや木々が生い茂った森だろうか?‥‥‥。

 僅かに聞こえる鳥のさえずる声‥‥‥。

 僅かに聞こえる川のせせらぎの音‥‥‥。

 僅かに聞こえる風で木々の葉が重なる音‥‥‥。

 そして、所々に生い茂った木々の隙間から日差しの木漏れ日が地面を照らす。

 そんな場所で重なり合い倒れた2人の男女。

 

 


 『‥‥‥ウッ‥‥‥い、いったい‥‥‥何が起きたんだ?‥‥‥』



 コウは頭を右手で押さえると、薄目をあけた。

 ぼんやりと景色が目に入って来たが、寝起きの様な感じのコウは、まだおぼろげで、自分の状況がわからないでいた。

 そして、徐々に目が慣れてくると、高そうな木々が視界に入り込んで来て、自分が今は寝た状態である事に気づく。


 

 『‥‥‥何処だ?‥‥‥』



 コウは暫く考えていた。いったい何処だ?と。

 そうしていると、木漏れ日が徐々にコウの顔に降り注ぐ。

 

 

 「‥‥‥ま、眩しい‥‥‥」



 頭を押さえていた手で目を隠すと、だんだんと記憶が蘇ってくる。

 そして‥‥‥



 「‥‥‥そうだ!、俺と千代はあの妙な光に吸い込まれて‥‥‥!‥‥‥ち、千代は⁈」



 コウは自分が仰向けで寝ていて、起き上がろうとするが、体が重く、何故?と目を向けると、コウの体の上を覆いかぶさる様に、千代が気を失って寝ていた。



 「千代!‥‥‥よかった」



 千代の姿を見て、ホッと胸を撫で下ろすコウは、起こそうとした頭を元に戻した。

 そして、一つ小さな深呼吸をすると、考えた。



 『ここは何処なんだ?‥‥‥何故あの光が出たんだ?‥‥‥気を失う前のあの声はいったい?‥‥‥』



 コウがそう考え込んでいると、体の上で、もそっ、と動く感じがした。

 


 「‥‥‥う、う、うぅ‥‥‥」



 少しうなされながら、気を失った千代が気がついた。



 「千代、気がついたか?」

 「う、うぅ‥‥‥コ、コウ‥ちゃん?‥‥‥」

 「はあ〜っ、よかった気がついて。ところで千代‥‥‥」

 「‥‥‥うぅ、うん、なに?」



 気がついた千代にホッとするコウは、まだ頭がぼんやりとする千代に一言、



 「あのな、千代」

 「なによコウちゃん?」

 「えっと‥‥‥押し付けているんですけど‥‥‥」

 「だから何が?‥‥‥」

 「‥‥‥胸が」

 「えっ?胸?‥‥‥‥‥‥⁈!!」



 コウが千代にそう言うと、千代は自分の今の状態が視界に入り、徐々にわかって来ると、急に顔を赤らめ、



 「///コ///コ///コウちゃん///ど、どうなっているの?///どうして?‥‥こ、こんな‥///」

 「いや、それよりもそこからどいてもらうと嬉しいんだが」

 「///えっ!、あっ!ご、ごめんなさい///」


 

 そう言うと、千代はコウの上から直ぐにどくと、女の子座りで、コウの横に座った。

 やれやれとした表情のコウは、上半身を起こすし、千代に、



 「大丈夫か?千代」

 「う、うん‥‥‥所でコウちゃん、ここっていったい‥‥‥」

 「わからない‥‥‥所で千代」

 「うん?」

 「お前、少し重くなったか?」

 「へえ?‥‥‥」

 「千代?」



 コウのその一言に千代はふつふつと怒りが湧き上がると、それを察したコウが、しまったとした表情をする。



 「気を失って、気づいた女の子に言う第一声が‥‥‥」

 「ち、千代‥‥‥さん?」

 「コ、コ、コウちゃんの‥‥‥バカアアア!!!」



 本日、三度目の千代の怒りが、コウの腹を直撃。またも悶え苦しむコウは、苦しみながら、千代に頭を下げた。そして、コウは思う。千代には体重の事は言わないと。

 そんな2人の叫び声に、何かが遠くから叫ぶ音が聞こえて来た。

 それは‥‥‥2人が見た事も無い現実ではあり得なく、2人がこの世界を異世界と認識する程のものだった。

 

 


 



 

 


 


 

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