3
無理だ、と声が落ちた。
「そんなの無理だよ」
「そうかな」
「だって俺が大事にしたいのは、遥だけじゃないんだ。
雪彦の上から退くと、腕を引っ張って起こした。
「ゆき兄だって大事だよ」
「なんか、そう言わせちゃったみたいだね」
「言わせなもんか」
肩を竦ませて嵐志は押し倒してごめん、と謝罪した。何か飲むかと聞かれて、ソーダと答えた。
「俺は遥に逢いたい」
「そこでアンドロイドとか死者蘇生とか言わないところが嵐志くんらしいね」
「機械作るの頭使うもん。俺頭よくないし。それに死者蘇生とか、ミイラじゃん。グロいからやだ」
「ねぇ、嵐志くん。こんな話を知ってる?」
「なに?」
「
「……なんか気味悪い」
「続き聞くかい?」
「……聞く」
「いずれ時は経ち、娘の身体は朽ち果てる。それを恐れた医者は自らの技術で身体を取り繕う。眼孔に青い硝子を、肌に絹の布を。内臓にガーゼを。医者は恋を
「……ねぇ、これ怖い話?」
「その果てに作り上げられたのは
沈黙が落ちる。からん、と氷が溶ける音が虚しく響いた。
「……って、そんな歌を聴いたことがある」
嵐志はしばらく黙っていたけれど、やがてふるふると首を横に振った。
「やっぱり、俺は進む方がいい。でも、ゆき兄の言ってること、わかるよ」
ソーダをたっぷり入れ直したグラスを二つ持ってきた嵐志が言った。
「いない人はもういないから、そうやって過去に逃げたくなる気持ち。大樹兄者とおんなじだ」
そうか、と雪彦は嵐志の顔を見て察した。彼の母親が亡くなったとき、大樹はずっと部屋から出てこなかった。
「みんな、おなじなのかも……」
雪彦は呟いた。
誰だって誰かの死を経験する。その度に泣いて、傷ついて、もういないと実感して、虚しくなって、寂しくなって、その人の分までも生きようと、もう一度歩き出す。
「ゆき兄、俺、死なないよ」
「そうしてくれると
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます