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青居月祈
1章 七夕徒然
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それは涼しい夏の昼下がりのことだった。五つ年が離れた義弟に、珍しく夏祭りに誘われたのだ。
「
いつもなら元気よく扉を蹴破るかと思うくらいに勢いのいい義弟は、そんなふうに大人しくて、体調でも悪いのかと雪彦は心配した。けれど当の本人は「へいき」と言うだけで、その後はなにも語ろうとはしなかった。
雪彦は祭りをあまり経験したことがない。あるとしたら、
浴衣を着て玄関で彼を待つ。濃い灰色の羽織に
この義弟は、名前を
祭りと聞けば屋台を全て制覇するくらいがデフォルメの彼だが、それにしても本日はアンニュイが過ぎる。先ほど暴風と形容したのが、間違いみたいに聞こえるかもしれない。いつもはそうなのだ。ただ今日が違うだけ。
雪彦は五年前から、ある事情で一之瀬家で暮らし始めた。本来の姓は「
からころと音を立てながら歩いていると、よく近所の人に声を掛けられる。都心からも田舎からもちょうどいい具合の位置にある住宅街に一之瀬家はある。そこは良くも悪くも近所づきあいが多く、五年前に突如として現れた雪彦もすっかり馴染んでいた。それに【一之瀬家の四兄妹】といったら、この地域では有名だ。その三番目である嵐志を知らない者はいない。雪彦は愛想よく返事をしながら、義弟と共に駅に向かった。
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