第555話 外伝7部 第四章 5 葛藤
仕事を終えて帰ってきたラインハルトは不機嫌だった。
(一波乱あるな)
マリアンヌは覚悟する。
セントラルの件は国王から聞いたようだ。言いたいことはあるけれど、子供達の前では我慢しているらしい。その分、2人きりになったら荒れそうだなと思った。
予想通り、寝室で2人きりになるとラインハルトの不満爆発する。
「どういうことなんだ?」
マリアンヌに問うた。
「まあまあ。とりあえず、座って話をしましょう」
マリアンヌはカウチに座るように促す。自分が先に座り、ラインハルトが隣に座るのを待った。
ラインハルトは不満な顔をしつつ、マリアンヌの隣に座る。
「わたしに聞かれても困ります」
マリアンヌは質問に答えた。肩を竦める。
「心当たりはないので、わかりません」
首を横に振った。
「……」
ラインハルトは黙り込む。マリアンヌに当たるのは違うというのは自分でもわかっていた。だが、セントラルから呼び出しを受けたと聞いて、さすがのラインハルトも動揺する。
セントラルはある意味、治外法権だ。こちらからの手出しが一切出来ない。
それに、心配だからと自分がついて行くことも誰かを護衛につけることも不可能だ。セントラルには招かれた人間以外は入国出来ない。
「……はあ」
ラインハルトは大きなため息を吐いた。
そんな夫のことをマリアンヌは小さく笑う。
「たぶん、大丈夫ですよ」
囁いた。ポンポンとラインハルトの背中を軽く叩く。
「何故、そう思うんだ?」
ラインハルトは問うた。
「うーん……」
マリアンヌは考え込む。言葉を探した。
「ただの勘です。でも、セントラルは無理難題を吹っかけてくるような国ではないでしょう?」
逆にラインハルトに問う。
「それは……」
ラインハルトは言葉に詰まった。
王子とはいえ、セントラルのことはあまり知らない。謎の多い国だ。だが他国との調停役としてはどの国からも信頼が厚い。国同士のいざこざがほぼ起こらないのは、セントラルの尽力が大きかった。
公平で中立な国だと認識している。
「何故呼ばれたのかは謎だけど、そんなに悪いことは起こらないと思うのです」
マリアンヌは呟いた。そこには自分の希望も過分に入っている。
「だから拗ねるのは止めて、仲良くしましょう」
マリアンヌは手を広げた。抱きしめてと言うように、ラインハルトを呼ぶ。
「……誤魔化しているんじゃないか?」
ラインハルトは疑った。マリアンヌと距離を取る。
「? どういう意味です?」
マリアンヌは首を傾げた。
「本当は心当たりがあるが、黙っているわけではないんだな?」
ラインハルトは確認する。
「ないです。本当に、何故呼ばれているのか意味不明です」
マリアンヌは頷いた。
「そうか」
ラインハルトは複雑な顔をする。
「心配させて、こめんなさい」
マリアンヌは謝った。凹んでいるラインハルトに申し分けない気持ちになる。
「マリアンヌが悪いわけではないだろう?」
ラインハルトは苦く笑った。マリアンヌを一瞬、ぎゅっと抱きしめる。
直ぐに離れたと思ったら、抱え上げられた。
「ひゃっ」
驚いて、色気の無い声が出る。そのままベッドに運ばれた。
「結局、やることはやるんですね」
ベッドに横たえられたマリアンヌは苦笑する。
「馬車での移動中は身体が辛そうだったから我慢したんだ」
その言葉に、確かに移動中の宿では抱きしめられるくらいでそれ以上は何もなかったことをマリアンヌは思い出した。
「気遣ってくれていたんですね」
小さく笑う。
「私はそういう気遣いも出来ない獣に見えるのか?」
ラインハルトが心外だという顔をした。
(意外と獣ですよ)
そう思ったが、マリアンヌは口にしない。
「思っていません」
にっこりと微笑んだ。
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