第527話 外伝6部 第五章 2 品位




 国王は結局、孫娘のおねだりを叶えることにした。


 両親への同行をメリーアンは許される。


 その話を国王に呼びだされ、メリーアンは直接聞いた。


 喜びに目をキラキラさせる。




「ありがとうございます。国王陛下」




 きちんと礼を言った。スカートの端を掴んで、頭を下げる。




(こういうところ、本当にしっかりしている)




 祖父への礼ではなく、国王への礼という形を取るところにメリーアンの策士ぶりをマリアンヌは感じた。


 ちゃんと挨拶できますというところをしっかりアピールする。


 孫娘のそんな対応に国王は満足げな顔をした。




「アルス王国の姫として、恥ずかしくない行動を取るように」




 国王は一応、釘を刺す。


 姫として生まれたメリーアンへの目はたぶん厳しい。王族としての品位が問われることを覚悟するように言った。




「はい、陛下。肝に銘じます」




 メリーアンは返事をする。


 恭しく挨拶する姿を見て、付き添いで自分がついてくるの必要はあったのかとマリアンヌは考えてしまった。










 離宮に戻ったメリーアンは張り切った。


 乳母を呼び、二人で旅行に持っていく荷物をまとめ始める。


 それをマリアンヌは手持ち無沙汰で見ていた。


 指示は全てメリーアンが出すので、マリアンヌは必要ない。




(とりあえず、様子を見守ろう)




 マリアンヌはそう決めた。




「持っていく荷物を選別したら、一度呼んで」




 そう言うと、居間に向かう。メアリにお茶を用意してもらった。




「いいんですか? 放っておいて」




 メアリが不安な顔をする。


 9歳女児に旅行の準備なんて荷が重いのでは? という顔をした。




「でもあそこにいてもわたしの出番、ないのよね」




 メリーアンは初めから、母親に意見なんて求めていない。自分でさくさく準備を進めていた。




「荷造りする前に確認するから、その時に過不足があるか見れば十分でしょう。とりあえず、好きにさせるわ」




 マリアンヌは笑う。


 子供の自主性を育てるという名目で、放任することにした。


 他の子供達は家庭教師と勉強の時間なので、マリアンヌの時間はぽっかりと空く。


 まったり休むことにした。












 気づいたら転寝をしていたらしい。


 持っていく荷物を用意したというメリーアンに、マリアンヌは揺り起こされた。


 何を持っていくつもりなのか、部屋に確認しに行く。


 部屋にはドレスが結構な数、並べられていた。たたんで、荷造りすればいい状態になっている。




「これ、全部持っていくの?」




 マリアンヌは確認した。




「ええ」




 メリーアンは頷く。




「……多すぎない?」




 マリアンヌ困惑した。明らかに、自分が持っていくつもりのドレスより数が多い。倍近かった。




「多くはありません」




 メリーアンは反論する。


 ドレスを一つ一つ手にとって、何故それが必要なのか説明した。


 その説明は筋が通っていて、納得できるものだ。




「でも、長旅なのよ。他の人の荷物もあるからもっと数は押さえた方が……」




 マリアンヌは提案する。




「母様。それは違います」




 メリーアンの説教が始まった。




「わたしたちの一番の努めは王族として品位を保つことです。そのために必要なドレスや宝石は他の荷物より優先されます」




 きっぱり、言い切られる。




「むしろ、母様が持っていくドレスの数が少ないことの方が問題です」




 マリアンヌ自身の話に飛び火した。




「母様のドレスもわたしが選んで差し上げますわ」




 キラキラと目を輝かせて、言う。




「いえ、それは……」




 マリアンヌは断ろうとした。




「遠慮なさらないでください」




 それが遠慮ではないと知っていて、メリーアンはそう言う。にっこりと笑った。




(……強い)




 自分より娘の方が上手だと、マリアンヌは悟る。


 結局、娘に押し切られた。




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