第507話 外伝6部 第二章 2 宝探し





 宝探しは時間差でスタートする。前日の順位順に5分程度間隔を空けて一人ずつ部屋を出て行く。


 メアリは20番目のスタートだ。だいぶ遅い。タイムレースではないので、遅く出発しても別に問題はない。


 だが対象の令嬢は3人とも順位が上なので、先にスタートしていた。




(どうやって誘導すればいいのだろう?)




 メアリは悩む。考えたが、答えは出なかった。探す部屋の数は15~6ほどある。普通に考えて、人が探していない部屋を探そうとするだろう。令嬢達は散らばる可能性が高かった。




(まず、対象者の令嬢を探すところから始めなければいけないのか)




 メアリは気が遠くなる。思った以上に大変そうだ。マリアンヌが無理だったら諦めていいと言った意味を理解する。難しいことをマリアンヌはわかっていたらしい。




(相変わらず、変わった方だ)




 メアリは心の中で呟いた。マリアンヌは普通の貴族と考え方が異なる。自分が命令すれば平民はなんとかすると思い込んでいる貴族は多い。無理難題を言っている自覚さえ、もしかしたらないのかもしれない。


 マリアンヌはそういう無茶な命令を嫌った。出来ないと思ったら無理をしなくていいとよく言う。最初はそれを自分が過小評価されているようにメアリは感じた。しかし違うのだと、途中で気づく。気遣われているのだと知って感動した。マリアンヌは無自覚に優しさを垂れ流している。


 そんな人間を好きにならない方が難しい。マリアンヌのためになら多少の無茶はしたくなる。




 順番が来て、メアリはスタートした。


 廊下に出て、まずはどこに向かうか考える。捜索可能な範囲は今見渡せる廊下に沿った部屋と、突き当りを右に曲がった通路に沿った部屋。さらにその突き当りを右に曲がった通路沿いの部屋にいた。つまり、コの字型の通路に沿った部屋の全てだ。全ての部屋には見張りの騎士がついている。部屋のものを壊したり何か仕込んだりするような動きがないか監視するためと、見つけたカードを選ばない場合、元の場所にちゃんと戻すのかを確認するためだ。ちなみに、カードを持ったまま部屋を出た場合、自動的にそのカードを選んだことになる。その場合は部屋にいる騎士が令嬢を受付までエスコートすることになっていた。


 その際、無人になる部屋には鍵が掛けられて入れなくなる。入れない部屋にはカードがないので捜索できないシステムになっていた。部屋に2枚カードが隠されている場合は、見張りの騎士は2名になる。部屋にいる騎士の数が隠されているカードの数の指標にもなっていた。




(さて、どこにいるだろう?)




 とりあえず一番端までメアリは行ってみることにした。その途中、運よく3人のうちの一人を見かける。まずはその子に近づくことにした。その子を追いかけて部屋に入る。カードを探しながら、わざとぶつかった。




「あっ、ごめんなさい」




 メアリは謝る。




「いえ」




 相手はにっこり微笑んだ。


 彼女は他国の姫だ。アドリアンたちの後輩で、どこかおっとりしている。話しかけやすい雰囲気があった。




「もういろいろ見られたんですか?」




 メアリは話しかけてみる。




「いえ、何処から見たらいいのかわからなくて」




 彼女は困った顔をした。




「そうですよね。わたしもです」




 メアリは同意する。




「どの数字があたりなのかもわからないし、迷いますよね」




 そう続けた。




「それに、噂だとどこかの部屋に皇太子妃様がいらっしゃるそうですよ」




 こっそりと打ち明ける。




「え? それは話しかけてもいいのですか?」




 姫は驚いた顔をした。




「騎士以外の部屋の中にいる人物には話しかけてもいいという説明があったので、たぶん」




 メアリは少し曖昧に頷く。


 ルール説明の時、ルイスはそう言っていた。




「それはぜひ、お話をしてみたいですね」




 姫は乗り気な顔をする。アドリアンの母を見ておきたいと思うのは当然だ。




「そうですね」




 メアリは頷く。姫が自分でマリアンヌを探してくれそうでほっとした。マリアンヌのいる部屋のカードは簡単に見つからないようになっている。部屋が閉じられている可能性はなかった。


 だが、姫はメアリが予想しなかったことを言い出す。




「良かったら、一緒に皇太子妃様を探しませんか?」




 誘われて、メアリは驚いた。




「一緒にですか?」




 戸惑う。タイムレースではないものの、参加者はみんなライバルだ。一緒になんていわれるとは思わなかった。




「駄目ですか? 一人はちょっと心細くて」




 姫は苦く笑う。




「……いいですよ」




 なんだか断り難くて、メアリはOKしてしまった。


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