第506話 外伝6部 第二章 1 全てが試験





 勝ち残った25名は翌日、王宮に集められた。広間ではなく、大き目の部屋に通される。


 時間まではすこし早く、部屋の中で待つようにという指示をルイスが出した。


 責任者として、説明などの役目を負っている。


 ルイスが皇太子の側近であることを知っている貴族は多かった。彼の指示に皆 素直に従う。中にはルイスの顔を知らない令嬢もいたが、周りの空気を読む。


 特にトラブルもなかった。和やかな空気が漂う。


 しかし、用意された椅子は20人分しかなかった。座れない人が出ることに気づいた令嬢達は戸惑う顔をする。


 どのように対処するのか、メアリは見守った。


 選び取れる選択肢はいくつかある。


 誰も座らないというのが一番簡単かもしれない。


 使用人を呼び、足りない数を補填させるというのも手の一つだろう。


 だが、令嬢達の選択は違った。




「身分順に座ることにしませんか?」




 辺りを見回して、一人の令嬢が口を開く。公爵家の令嬢で、この中では一番、自分が偉いことを察したようだ。身分社会では上の者が口を開かなければ下のものは何も出来ない。


 ここには他国の姫や上級貴族もいるが、この場合はよそ者なので除くのが妥当だろう。


 それがわかっているから、姫たちは黙っている。


 自国の令嬢達の中では公爵令嬢の彼女が口を開くのが一番いい選択だ。




「そうですね。そうしましょう」




 ほっとしたように、誰かの声がそれに続く。必然的に、令嬢達は互いに名乗りあうことになった。


 その中で、他国の姫や上級貴族がいることが判明する。


 国外からの参加者がいることに、令嬢達は驚いた。事前にそういう説明は受けていない。だが、その説明がいるかといわれたら微妙なところだ。自分以外に誰が参加しようが、参加者たちには関係ない。


 令嬢達は動揺しても、騒いだりはしなかった。驚きを表に出さずに堪えるのが貴族だ。そういう意味で、令嬢達はちゃんと貴族らしく振舞う。


 メアリは少し感心した。


 そうこうしている間に、20人の席は埋まる。自己申告で、次は自分だろうと思う令嬢が手を上げて名乗るので、話が早かった。


 自分の方が爵位は上なら、その時点で申告する。


 最初から論外だと思っている平民は名乗るまでもなかった。メアリもその名乗らない組に入る。皇太子妃の侍女であると面は割れていないと思うが、目立ちたくなかったので助かった。


 席が決まってみんなが座った後、ルイスがやって来る。はかったようなそのタイミングに、メアリは少し背筋が寒くなった。


 ルイスは宝探しの説明をする。数字が書かれたカードを探すように指示した。書かれた数字はそのまま当たりになるわけではないことも話す。受付に行かないと、自分が見つけた数字が当たりなのかハズレなのかわからないことを告げられると、参加者はざわついた。本当に運なのかと、戸惑っている。




(本当の運任せではないけどね)




 メアリは心の中で呟いた。


 昨日は結局、3人のうちの誰にするのか答えは出なかった。そこで、本当に運に任せてみることになる。3人に対しては何もしないことにした。確率的には、3人のうち2人は受かる計算になる。それで落ちるような持っていない令嬢は妃に相応しくないだろうということになった。


 その代わり、落としたい人の方を決める。本人には問題がなくても、そのバックにある実家や家族が厄介な令嬢がいた。そういう令嬢はここで落ちてもらうことにする。運なら、落ちた令嬢の傷は浅い。


 冷たい話だが、国にとって害になる妃は必要なかった。


 落とされる令嬢は3人いる。その中の一人が、さっきの公爵家の令嬢だ。本人には何も問題がないが、彼女の場合は兄が厄介だ。妃になった場合は、とても面倒なことになるだろう。可哀想だが、落とすしかない。


 本人がちゃんとしているだけに、何とも後ろめたかった。


 尤も、落とすのはメアリの仕事ではない。それは受付で合否を教えるルイスの仕事だ。


 メアリの本日の仕事は別にある。




 実は今、マリアンヌは王宮の一室でお茶を飲んでいた。


 そこに、自分が候補者として選んだ三名をメアリは誘導することになっている。


 宝探しは王宮の中の決められた範囲の中を探すことになっていた。そこにいる人には話しかけてもいいことになっている。マリアンヌはメリーアンとお茶を飲みながら、参加者が来るのを待っていた。


 メリーアンはノリノリでマリアンヌに協力している。お妃様レースに興味津々のようだ。2人はスタートの部屋から3つ隣の部屋にいる。


 だが全ての令嬢が順繰りに部屋をまわるとは限らなかった。一番遠いところから探そうとする令嬢だって当然いるだろう。人が探していない場所を探す方が有利だ。




(どうやって、誘導しよう)




 メアリは考える。


 マリアンヌには無理して連れてくる必要はないと言われていた。不可能だと思ったら、早々に諦めろと指示されている。こちらが目星をつけていることに気づかれるのが一番不味い。


 だが出来るなら、メアリはマリアンヌに3人を引き合わせたかった。


 マリアンヌにも見定めて欲しい。


 自分ひとりで責任を負うのは、あまりに重かった。



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