第504話 外伝6部 第一章 4 裏工作
予選が終わりレースの参加者は半分に減った。
普段はおしとやかな高貴な令嬢達が早さを競って走る光景は観客を大いに湧かせる。
ゴールした順位が早い方が、明日の本戦一回目が有利になることはすでに告げられていた。明日は王宮の中での宝探しだが、今日、ゴールした順に時間差でスタートすることになっている。
最初に探せる方が有利なのは否めないので、みんな必死だ。
その姿に、街はお祭り騒ぎで盛り上がる。
そんな街の喧騒を背に、皇太子一家は王宮に戻った。
ルイスは勝ち残った25名の資料を持って離宮に向かう。
ラインハルト、マリアンヌ、アドリアン、オーレリアンの4人はその資料を眺めた。
誰が残ったのかを把握し、その中から残したい人がいれば選ぶことになる。明日はこの25名が15名に減ることになっていた。
明日のレースは王宮を使った宝探しだ。1から25まで数字が書かれた紙が隠されてあるのを探す。チャンスは一人一回。どの数字が当たりでどの数字がハズレなのかは、数字が書かれた紙を受付に持っていかないとわからないシステムになっている。
一見、ただの運に見えるがこちらでいくらでも合否を操作できた。合格させたい人間を選ぶことが出来る。
もっとも、こちらで操作するのはせいぜい、一人か二人だ。それ以外は本当に運なので、運試しの意味合いは強い。
妃としてやっていくには運だって必要だと、マリアンヌは思っている。
チャレンジできるのは一人一回なので、必ずしも見つけた紙をそのままま素直に受付に持って行かなくてもいい。別の数字が書かれた紙を探すのも本人の自由だ。ただし、その場合は最初に見つけた紙は元の場所に戻さなければならない。キープしたまま別の紙を探すことは出来なかった。そういうことをした場合は失格になる。
「さて、気になる子はいるかしら?」
マリアンヌはアドリアンに尋ねた。
25名の資料がテーブルのうえには散乱している。
「気になるわけじゃないけど、知っている名前がある」
アドリアンは答えた。
「寄宿学校の後輩だ」
アドリアンは一枚の資料を摘み上げる。それは他国の姫のものだった。
「この子は同級生だよ」
オーレリアンが違う子の資料を指す。そちらは他国の上級貴族の令嬢だ。
「他国からの参加者は、寄宿学校時代の知り合いってことかしら?」
マリアンヌは2人に確認する。
「そうとも限らない」
オーレリアンは首を横に振った。
「この子は知らない」
そう言ってマリアンヌに手渡したのは14歳の他国の姫の資料だ。
「年齢に開きがあるから、会っていないのかもしれないわね」
マリアンヌは納得する。
「それなのに、どうして応募してきたのかしら? まだ若いのに」
首を傾げた。
「アドリアン様は美しすぎる王子様で有名だからではないですか?」
ルイスが答える。
「え? そうなの?」
マリアンヌは驚いた。そんな噂、どこで流れているのだろう。初耳だ。
「何故、驚くんですか?」
ルイスは苦笑する。
「母やシエルに似た顔が綺麗なのはもちろん知っているわ。わたしは見慣れてしまったけれど。でも、性格があれだからそういう噂になっているとは思わなかったの」
実の母なのに、なかなか酷いことを言った。
「容姿に性格は関係ないですからね」
ルイスはルイスで酷いことを言う。
「2人とも言いすぎです。アドリアンは優しい良い子ですよ」
オーレリアンはフォローした。
「オーレリアンに言われても……」
マリアンヌは苦笑する。オーレリアンに対してアドリアンが冷たい態度を取るわけがない。
「まあ、でも。そういうことなら、夢見る14歳のお姫様には出来れば明日でご退場願いたいわね。うっかり選ばれて、現実を知ってがっかりさせるのは可哀想よ。14歳なら、これからいくでも相手がいるでしょう。もっと幸せになれる相手と結ばれた方がいいと思うわ」
真顔で、よそ様の姫の心配をする。
「そんなに息子が信用出来ないのか?」
ラインハルトは苦笑した。マリアンヌやルイスに言いたい放題言われている息子を哀れに思う。
「結婚相手としては信用できません」
マリアンヌは言い切った。
「でも人としてや王としては悪くないと思っています。だから、妻としてではなく国を守る母としての覚悟が出来ている人が嫁に来てくれたらいいのにと思っています」
自分の望みを口にする。
「それは……。簡単なことではないだろうね」
ラインハルトは困った顔をした。
「そうですよね」
マリアンヌは頷く。
「だから、難しいのです」
ため息を吐いた。
「それにしても、お妃様レースの開催って準備も大変だけど、それ以上にこういう裏工作が大変なのね。わたしの時もそうだったのですか?」
マリアンヌは問う。ラインハルトを見た。
「いえ。マリアンヌ様の場合はかなり早い段階でマリアンヌ様を残すことを王子が決められていたので、意外と楽でした」
ラインハルトではなく、ルイスが答えた。残したい相手が決まっているなら、動くのは容易い。今回は誰を残すのか決まっていないので、面倒なだけだ。
「そうなんですか?」
マリアンヌはラインハルトを見る。
「その話は今、関係ないだろう」
ラインハルトは照れた。そっぽを向く。
そんなラインハルトにマリアンヌは絡んだ。楽しそうに、追求を始める。
「……」
「……」
いちゃつきだした両親に、アドリアンとオーレリアンは呆れた顔をした。
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