第339話 外伝 第六章 3 フェイク





 オーレリアンの話を聞く限り、密入国は無理そうだった。


 マリアンヌは可能性を二つ、考えてみる。




 一つは壁を越えて、もしくは厳重に管理された国境門を抜けて、相手が浸入しているバターン。


 こちらは最悪な状況だ。


 相手の方がこちらより上手と言うことになる。


 今後の外交を考えると、頭が痛い。




 もう一つは、全てがフェイクであるパターン。


 他国からの侵入者なんて、本当は存在していないのかもしれない。


 全てが仕組まれたことで、誰かが他国からの侵入者があったように見せかけている可能性だ。


 その場合、仕組んだ人間は一人しか思い浮かばない。


 最高に腹立たしいが、状況としては一番いいパターンだ。


 そんなことをするわけがないと否定出来ないのは、苦しいところだけれど。




「オーレリアンは国境の壁を越えて侵入者が入り込むことはありえないと思っているのよね?」




 マリアンヌは確認する。




「思っています」




 オーレリアンは頷いた。


 簡単に越えられるような壁は作っていない。


 あれから長い時が経っているが、修繕や管理をきちんとしていれば壁は健在なはずだ。


 賢王の遺言がちゃんと実行されていれば、大丈夫だろう。




「……」




 マリアンヌは黙り込んだ。




「全て、フェイクだと思う?」




 オーレリアンの意見を聞く。


 アドリアンは一緒に話を聞いているが、わかっていない顔をしていた。


 7歳児ならそれが普通だろう。


 だが、オーレリアンの中身は賢王だ。


 適切な返答が返ってくることを期待する。


 少なくとも、他国や国境に関する情報は自分よりオーレリアンの方が持っているだろう。


 他国との外交を控えることに決めた張本人だ。




「はい」




 オーレリアンは静かに頷く。




「そもそも、話の流れが可笑しくないですか?」




 首を傾げた。




「正体不明の侵入者が貴族でないとして、それを他国の人間だと決め付けるのは早計です。確かに、そういう可能性はあります。だが、それを検証するには時間が必要です。国境の壁を越えて侵入者があったと考えるより、平民が城に浸入したと考える方が妥当ではないですか?」




 マリアンヌに問う。




「ああ、それだわ」




 マリアンヌは頷いた。


 最初からずっと、マリアンヌは引っ掛かるものを感じていた。


 だが自分が何に引っ掛かっているのか、わからない。


 そのことにもやもやしていた。


 その引っ掛かりが何だったのか、気づく。




「他国の侵入者である可能性を示唆したのはわたしよ。でも、それをきちんと検証もせずに鵜呑みにしたことに違和感を覚えたの。あの国王様が、裏も取らずに納得するなんてありえない。でも、簡単に検証できるわけがないのよ。国境はどこも王都から遠いのですもの」




 他国の可能性を口にした時、マリアンヌは国境が壁で仕切られているなんて知らなかった。


 ヨーロッパの国々を頭の中でイメージする。


 山を登っていたら、いつの間にか国境を越えて隣国に入っていたとかそういう感じだ。


 国境を越えて浸入するのがそこまで難しいことだと思っていない。


 だから、他国の人間の可能性も考えた。


 ラインハルトやルイズが国境についてどこまで知っているかは定かではないが、国王が壁のことも知らないはずがない。


 他国の侵入は容易ではないことも知っていたはずだ。


 それなのに、あっさり他国浸入説を受け入れるのは可笑しい。




「大使の話も出来過ぎよね。外交という国にとって重要なことをいくら国王でも独断で決められるわけがない。重臣たちと会議を開いて決める案件だわ。でも、それを国王は独断で決めた。もともと、そういう話がどこからか出ていて、検討されていたと考えるのが自然よね」




 マリアンヌはオーレリアンを見た。




「……」




 オーレリアンは答えない。


 憶測で答えていい内容ではなかった。


 だが、どこからかそういう要望が上がっていたことは十分に考えられる。


 重臣たちと秘密裏に、検討していた可能性もあった。




「どうするのですか?」




 オーレリアンは問う。


 マリアンヌを見つめた。




「何が?」




 マリアンヌは問い返す。




「大使の件です」




 オーレリアンは答えた。




「そうね……」




 マリアンヌは考える。


 沈黙が続いた。






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