第166話 第五部 第二章 2 綺麗な人
シエルも行くならとメアリも同行することになった。
わたしたちは4人でぞろぞろと国王の執務室に向かう。
当然、とても目立った。
ラインハルトも目立つが、それに負けず劣らずシエルも目立つ。
あれは誰だとこそこそ囁かれているのが聞こえた。
(ああ、うん。気になるよね)
わたしは彼らの気持ちが理解できる。
わたしも同じ立場なら、やはりあれは誰だろうと仲間と話すだろう。
シエルのことが知りたくなる。
そこにさらに見た目は美少女のメアリが加わっていた。
視線を集めないわけがない。
わたし以外は全員美形という状況に、囲まれているわたしはなんだか居心地が悪かった。
周りの視線が少しばかり痛い。
(自分の容姿についてこんな思いをするのは久々だな)
わたしは心の中でぼやいた。
でもこういう扱いには慣れている。
母が生きていた時は、『あの母親の娘なのに……』と言われ続けた。
わたしが前世の記憶を持たないただの子供だったら、拗ねてぐれたかも知れない。
だが見た目は子供でも中身は大人だったわたしはそのことにたいして傷つかなかった。
地味で普通の見た目なのは仕方ない。
その他大勢のわたしにとっては、容姿端麗で人目を引くより目立たない自分の外見の方がしっくりきた。
化粧で女性はいくらでも化けられることも知っている。
美人になりたければそういう努力をすればいい。
だが、わたしは美人になりたいと思ったことがなかった。
だから努力はしていない。
姉より弟の方が美人だと言われても、悔しいと思うよりむしろシエルの可愛さを自慢したいくらいだ。
そこそこ普通の自分の容姿に周りの評価はともかく、わたし本人は満足している。
そんなことを考えている間に、執務室に着いた。
トントントン。
ラインハルトがノックする。
ガチャリ。
ドアが開き、アントンの父親が顔を出した。
「どうぞ」
中に入れてくれる。
シエルとメアリを残して、わたしとラインハルトは部屋に入った。
「おはようございます」
ラインハルトが国王に挨拶する。
その半歩後ろで、わたしも挨拶した。
小さく頭を下げて顔を上げたら、国王と目が合った。
見つめられている。
(あっ。嫌な予感がする)
反射的に身構えてしまった。
ポンポコには今までも無茶振りされている。
そんなわたしに国王は苦く笑った。
警戒していることがわかったらしい。
「今日か明日の昼、昼食を馳走になろうと思うんだが、どうかね?」
国王はにこりと笑った。
招待しろと言う。
わたしはちらりとラインハルトを見た。
「……」
ラインハルトは困惑を顔に浮かべている。
どうすると言いたげにわたしを見た。
わたしはこくりと頷く。
断れるわけもない。
何か話したいことがあるのだろう。
「では、後で招待状をお送りします」
ラインハルトは答えた。
「いや、その必要はない」
国王は首を横に振る。
「父親が息子夫婦と昼食を食べるのにいちいち招待状を出すのはおかしな話だろう?」
そう言った。
確かにその通りだが、今まではそういう流れが普通だったのでラインハルトは困っている。
「では……」
ちらりとわたしを見た。
今日でいいと、わたしは頷く。
先延ばしにするのは好きではない。
やらなければいけないことはさっさと終わらせしまいたかった。
「では、本日の昼食は父上もご一緒に」
ラインハルトは微笑む。
「ああ、楽しみにしているよ」
国王は頷いた。
わたしとラインハルトは挨拶を終えて部屋を出る。
扉の外で待っていたシエルとメアリは微妙な顔をしているわたしとラインハルトを見て、首を傾げた。
ラインハルトと別れ、わたしはシエルにエスコートされて離宮に向かった。
メアリもすぐ後ろを歩いている。
2人がなんとなく緊張している気配をわたしは感じていた。
周囲を気にしているのがわかる。
結婚式が終わり、正式に王族の一員になれば安全であるようなことを言われたが、どうやらそれは違ったらしい。
そう簡単に気持ちは切り替えられないということだろうと思った。
刺し違える覚悟があれば狙うことは出来るなと思っていたのでそれほど驚きはない。
しかしこんな場所では問うことも出来なかった。
どこで誰か聞き耳を立てているかわからない。
黙って、わたしは離宮に急いだ。
「お帰りなさいませ」
アントンが出迎えてくれる。
その顔を見て、苦笑が洩れた。
「今日の昼食に国王様を招待することになりました」
わたしは告げる。
「えっ?」
アントンは戸惑う顔をした。
「何かありましたのでしょうか?」
心配する。
その気持ちはよくわかった。
シエルやメアリも初耳なので、驚いている。
「さあ? 昼食に招待しろと言われただけだから」
わからないと、わたしは首を横に振った。
「……」
アントンはなんとも困った顔をする。
そんな顔になる気持ちはわたしもよくわかった。
わたしもさっき、同じ気持ちになった。
アントンに親近感を覚える。
「とりあえず、昼食のメニューをクロウと相談しようと思うの」
わたしの言葉に、アントンは苦く笑った。
もう、わたしが厨房に入ることは諦めている。
「そうですね」
ただ、頷いた。
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