第45話 第二部 第三章 4 お茶の時間





 わたしにはずっとルイスに聞きたいことがあった。


 だがなかなかそのタイミングが掴めない。


 待っていてくれたならちょうどいいと、わたしはルイスをお茶に誘うことにした。


 そんなに暇ではない――と断られることを実は覚悟していた。


 しかし、意外にもあっさりとルイスは誘いに乗ってくれる。


 お茶の用意をメイドがしてくれる様子をぼんやりとわたしは眺めた。


 お茶の種類もお茶菓子もルイスが勝手に決める。


 わたしには一度も何がいいか聞いてくれなかった。


 それを少し寂しく思う。




「ルイス様って顔はいいのにモテないでしょう?」




 わたしは思ったことをそのまま口にした。


 ルイスはいらっとした顔でわたしを見る。




「喧嘩を売っているのですか?」




 静かな声で問われた。




「いえ。ただ感想を口にしただけです」




 わたしは首を横に振る。




「女性とお茶を飲むときは、面倒でも一度、相手の女性に希望を聞いた方が良いと思います」




 提案した。




「聞いてもどうせ答えないのに?」




 ルイスは鼻で笑う。


 今までは聞いても答えない女性ばかりを相手にしていたようだ。


 貴方のお好きなもので構いません――とか、言われていたのだろう。


 いかにも貴族の女性が言いそうだ。




「答えなくても、聞いたという事実が大切なのです。女性は小さなことを大きく受け取るものです。あの人はわたしのことを気にしてくださったのだわ――と、女性はときめくのです。そもそも、お茶席でのやりとりなんてわたしはちゃんと貴女のことを気にしていますよ、見ていますよ、というアピールでしかないのですから、相手が答えてくれるかどうかなんてどうでもいいんですよ」




 諭す。


 ルイスは黙ってわたしの話を聞いていた。




「せっかく相手の好みを把握し、それをチョイスする心遣いが出来るですから。それ最大限アピールしなくては損でしょう? 女性は味方につけておくと後々、助かります。女は自分が好きな相手には寛大で、嫌いな相手には厳しいものですから。公平なんてどこにもないのです。どうせなら贔屓されておくべきです」




 ルイスが選んだ茶葉と菓子を見ながら、わたしは続ける。


 それはどれもわたしが好んで手を伸ばしたものだ。


 覚えているのだろう。


 だがその気遣いが相手に伝わらなければ意味がない。


 些細なことで女は相手の印象を変える。


 理屈ではなく本能で動く女性にはアピールの仕方も重要だ。




「今後、気をつけます」




 ルイスは素直にそう言った。


 一件頑固そうに見えて、ルイスは意外と柔軟だ。


 自分に理がないと思えば、さっと引く。


 自分の考えに固執しないのはルイスの美徳だろう。




 わたしたちはしばらく、お茶とお菓子を楽しんだ。


 特に会話は無かったが、気まずくもない。


 わたしはお茶のお替りを頼んだ。


 メイドはお湯を取りに退室する。


 部屋にはわたしとルイスの二人だけになった。




「ところで」




 わたしは話を切り出す。




「王様がわたしに会おうとしない、本当の理由はなんですか?」




 ルイスに尋ねた。




「年齢が離れているからなんて、そんな単純な話ではないのでしょう?」




 小さく首を傾げる。


 最初から、わたしは違和感を覚えていた。




「何故、そう思うんです?」




 ルイスは質問に答えず、聞き返す。




「そんな単純な話なら、事前にルイス様やラインハルト様が手を打たないわけがないからです。国王は年齢差なんて気にする方ではないのではないですか?」




 わたしは自分の予想を口にした。


 二人が後手に回ったことがどうにも解せない。


 不測の事態が起こったのだろう。




「対外的な理由が必要だから、年の差を持ち出してきたのでしょう?」




 わたしの質問にルイスは黙って頷いた。


 王がわたしとの面会を断っているのは周知の事実だ。


 周囲は当然、その理由を知りたがる。


 隠せば余計な憶測を生むだけだ。


 それなら、こちらに都合のいい答えを提示しておくほうがいい。


 ルイスやラインハルトならそう考えると思った。


 一番周りを納得させやすい理由が年の差だったに違いない。


 わたしが年上なのは事実なので、疑われようもなかった。




「それで、結局は何なのですか?」




 時間を気にしながら、わたしは尋ねる。


 早くしないと、せっかく追い払ったメイドが戻って来てしまう




「わからない」




 ルイスはため息をついた。


 わたしはイラッとする。


 眉をしかめてルイスを睨んだ。


 だが、ルイスは首を横に振る。




「嘘じゃない。本当にわからないんだ」




 お手上げという顔をした。




「わかっているなら、とっくに手は打っている。わからないから、困っているんだ。王の耳に誰かが何かを吹き込んだのは間違いないだろう。だがそれが誰なのかも何かもわからない」




 ため息をつく。




「なるほど」




 わたしは頷いた。


 そこにメイドがお湯を持って戻ってくる。


 お茶のお替りを淹れてくれた。


 わたしはまったりとお茶を楽しむ。


 大公家の話などで時間を潰した。








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