第23話 第五章 1 両手に持てるもの
三日目。
(今日で最後だな~)
そんなことを暢気に考えながら、わたし馬車に揺られる。
初日は大渋滞だった道も三日目になるとかなり余裕があった。
その代わり、沿道には見学の人が列を成している。
残った25名の誰かが将来、王妃になるのだ。
興味を持つのは当然かもしれない。
外を眺めると逆に覗き込まれるので景色を眺めることも出来ず、わたしはちょっと時間を持て余していた。
暇だから、聞いておこうかなと思って口を開く。
「第三王子ってどんな方?」
人ではなく方と呼ぶ。
わたしなりにちょっと気を遣った。
「珍しいな。興味があるのか?」
アルフレットは意外な顔をする。
「それはまあ。お妃様レースに出ているわけだし」
わたしがなんとなく言い訳すると、アルフレットはふっと笑った。
「そういうことは初日に聞くものだろう?」
尤もなことを言われる。
「何かあったのか?」
心配された。
わたしの周りは心配性が多い気がする。
(もしかして、わたしが信用されていないと言うことなのかしら?)
思い当たることはなくもないので、少し凹んだ。
「別に、何も。ただ、王子のことをあまり良く見ていなかったことに気づいたの。なんか、影が薄いのよね」
わたしは首を傾げる。
主役であるはずの王子はいつも遠くにいた。
参加者は近くに行ける機会がある。
けれど付添い人やその他は王子には近づけないようになっていた。
それは防犯上は当然のことかもしれない。
21世紀なら、SPをぞろぞろ引き連れている立場だ。
誰でも王子に近づける方が可笑しい。
「私は第二王子の側近だから第三王子についてはそれほど詳しくないが、ルイスの主だからな。弟は乳兄弟として小さな頃から私といるより多くの時間を王子と過ごしている。そういうことで察しろ」
アルフレットは苦く笑った。
(なるほど。腹黒系か)
わたしは妙に納得する。
ふむふむと頷いていると、アルフレットにじっと見つめられた。
「何?」
わたしは尋ねる。
「なんか心配だなと思って」
アルフレットは真面目な顔でため息をついた。
(心配されるようなこと、何かあったかしら?)
わたしは首を傾げる。
そんな私にアルフレットのため息は深まった。
「お前は変なところでお節介で、情に脆くて、流されやすい。厄介ごとを拾ってくるなよ」
釘を刺される。
「アルフレット様はシエルに似てきたわね」
わたしは笑った。
「わたしにはみんなを助けられるほどの器はないわ。わたしが掴めるものなんて、たった二つよ。手は二本しかないのだから。その内の一つは家族ですでに埋まっている。空いているのは一つだけ。さすがに縁もゆかりもない王子様をそこに入れることは出来ないわ。わたしにとって大切なのはわたしに関わった人たちで、知らない人を助ける余裕まではないのよ」
手をにぎにぎする。
世界を救うとかいうレベルの話は主役もしくは勇者にお願いしたい。
わたしが守れるのは家族までだ。
その他大勢に期待しすぎないで欲しい。
「ちなみにアルフレットも家族の中に入れてあるから安心して。ルークもユーリもお祖父様も。ついでだからルイスも入れておいてあげるわ。従兄弟ですもの。あと、セバスとか屋敷のメイドや使用人とかも入れちゃうわね。従者としてついてきてくれたアークももちろんだけど」
わたしは指折り数えた。
家族の枠はだいぶ広くなってしまう。
「その調子だと、国の民全てを最終的には救いそうだな」
アルフレットに笑われ、わたしも苦笑した。
「ちょっとでも関わっちゃうと、斬り捨てられないのよ。知らない他人なら平気なのに、知ってしまったら、わたしの中で他人ではなくなってしまう。自分でも厄介だな~って思うけど、幸せになるならみんなで幸せになりたいの。幸せが10個あるなら、それを独り占めするより10人で一個ずつわけてみんなで幸せになれたほうが、素敵じゃない?」
問いかけると、アルフレットは困った顔をする。
「理想論だな」
ずばり言われた。
「うん。わたしもそう思う」
わたしは素直に頷く。
自分でも、そんなのは理想で現実的ではないことはわかっていた。
だが、諦めたらそこで試合終了だと安西先生も言っている。
前世で読んだマンガのセリフが頭の中に浮かんだ。
「でも諦めることはいつでも出来るから、とりあえずは諦めないということから始めてみるわ」
自分でもちょっといいことを言ったと思う。
だがアルフレットはただ苦笑いしているだけだった。
「それはお妃も諦めないと言うことか?」
突っ込まれる。
「いや、そこは華麗にリタイアしてくる」
わたしは即答した。
「最後の10人に残ると目立つから、今日あたりでフェードアウトする」
意気込む。
「そうなるといいがな」
アルフレットは全くわたしの言葉を信じなかった。
「王子に見初められたりしたらどうするつもりだ?」
問われる。
わたしはちょっとぎくりとした。
引っかかることがないわけじゃない。
だがそれをまさかと何度も打ち消していた。
悪いことは想像すると、それが現実になるようで怖い。
「シエルもアルフレット様もわたしを過大評価しているところがあるよね。わたしは一目ぼれされるタイプでは決してないから。たまたま見かけて恋に落ちましたなんて言われても信じないわ。何か裏があるとしか思えない」
わたしはきっぱりと言った。
上手い話に乗るつもりはない。
「お前がそう思うなら、それでいい。頑張れよ」
アルフレットは投げやりな応援をしてくれた。
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