その他大勢のわたしの平穏無事な貴族生活

みらい さつき

第1話 プロローグ 1 お妃様レース

 中世ヨーロッパ(?)アルス王国 ―王の間―








 その日、国王はひどく頭を悩ませていた。


 いや、正確に言えばその日だけではない。


 第三王子が16歳の誕生日を迎えてから3年、国王はずっと頭を悩ませていた。


 第三王子はとても出来のいい子だ。


 眉目秀麗で頭脳明晰。


 上の二人の兄たちも悪くないが、末っ子の第三王子は飛びぬけて優秀だ。


 第三王子が国王になれば、国は安泰だろう。


 周りの者も皆、そう確信していた。


 しかし、王位継承者になるためには条件がある。


 権力の安定した継承のため、国王が退位する時点で結婚して子供がいる王子しか次期王にはなれない。


 第一王子は第三王子より10歳も年上で、王妃が二人いる既婚者だ。


 この国では王は五人まで。


 王子などの王族は三人まで妻を娶ることが出来る。


 第一王子には息子が一人と娘が四人いた。


 第二王子もすでに結婚している。


 妃は一人だが、双子の息子たちがいた。


 第一王子も第二王子も、王位継承者としての条件をクリアしている。


 だが、第三王子は19歳になったというのに、未だに独身だ。


 この国では貴族は16歳で成人を迎える。


 成人すると共に結婚するのは貴族では普通だ。


 第一王子も第二王子も成人して間もなく結婚し、跡継ぎの子供を作る。


 王位継承者となるために必要なことだからだ。


 国王は第三王子も成人したら直ぐに結婚すると思っていた。


 子供を作り、跡継ぎになってくれることを信じて疑わない。


 しかし、王子は結婚しなかった。


 王子の側近を問い詰めると、相手を探していると言われる。


 慎重に相手を選んでいるのだと、国王は納得した。


 第三王子の妃は将来、王妃となる女性だ。


 慎重に選ぶのも良いと、急かさずに見守る。


 だが半年が過ぎ、1年が過ぎても、王子は結婚する気配を見せなかった。


 さすがに、相手を探していると言うのは言い訳に過ぎなかったことに国王も気づく。


 それからは矢のような催促を始めた。


 第三王子にはなんとしても結婚し、子供を作ってもらわなければ困る。


 次期王となり、国を栄えさせて欲しいのだ。


 だが王子はのらりくらりと国王の催促を交わす。


 それが2年、3年と続いた。


 とうとう、国王はキレる。


 100人のお妃候補を集めるから、その中から何人でも好きなだけ相手を選べと王子に迫った。


 100人もいれば気に入る者が見つかるだろうと、王子の許可も得ずに勝手にお妃様レースの開催を決める。


 国中に知らせを出した。


 王子の耳にお妃様レースの話が入った時には、すでにその話で市中は持ちきりになっていた。


 貴族だけではなく、平民の娘も参加可能になっており、城下町は活気づく。


 場合によっては、第一王子、第二王子の妃になることも可能と噂が噂を呼んだ。


 貴族の令嬢は参加費無料だが、平民でもバカ高い参加費を支払うことが出来るなら、参加できるらしい。


 参加費の高さは平民の参加を豪商の娘などに絞るためと、その参加費で経費を賄うという一石二鳥を狙っていた。


 盛り上がる市中の様子を見て、王子もさすがに中止には出来なくなる。


 覚悟を決めるしかなかった。


 お妃様レースの開催を認める。


 ただし、妃の選抜方法は自分で決めたいと国王に掛け合った。


 元々第三王子を溺愛している王は第三王子が妃を娶るなら文句はない。


 選別は王子に一任することにした。


 こうして、前代未聞のお妃様レースの開催が決まる。


 その噂はあっという間に国中に広まった。


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