胡麻の廃屋 25
「どうすればいいんですか?」
廃屋の台所、家主だった女性の溶解が進み所々で骨が露出する亡骸。
横座りするセーラー服を着た声の主である少女の膝からつま先を赤褐色の濁った液体が浸している。
指示を仰ぐより許しを乞うに近い表情を上下黒のスーツ姿。細く釣り上がった目の坊主頭の男に向けている。
力関係は一目で把握できる。
少女は男に命すら握られているようだ。
「難しい事ではない。お前は巣の中でその時を待て」
口調をそのまま表したような鋭い目は背中から蜘蛛の腕を生やす少女を冷たく見下している。
「この亡骸は無かったことにする。大河からほんの一滴を除いたところでなんの差支えがあるという」
男は視界の亡骸に手を
「忌まわしき反逆者を捕まえろ」
私にどうしろと!どうして私が!拒めば命消される理不尽な命令にわんわん泣く幼き女郎蜘蛛を残して男の姿は塵の1つも残さず消えた。
「覗き見とはお行儀が悪い子だ」
耳元の囁き声で現世に引き戻された。
唐突な夢だった。
最後の一言がリアル過ぎてまだ耳がざわついている。
「どうするよこれ」
二人して大粒の涙を流す女郎蜘蛛を見下ろしている。
顔が所々剥がれて本当の顔である複眼がちらりと出ている。
「私だって!私だって!」
切れ切れの呼吸での精一杯の反論が痛々しい。
視界の端で白木さんが上体を起こした。
「終わったみたいやな」
さっきまで居なかったのに。当たり前のような顔をしていつの間にかレディさんが居る。
「編集長!なんて事してくれたんですか!憑き代なんて聞いてないですよ!にゅるっとですよ!つるんと入る感覚がもう!」
わー!と埃を散らして台所の入口のレディさんに駆け寄る白木さんの頭には真っ白な猫耳。ジャージのズボンの腰からは真白で細長い尻尾が3本。
「知らんわ」
「にゃーーあぁあん!」
まんま猫の鳴き声。
「まだ生きてたのかよその馬鹿猫」
その篠崎さんの冷たい目は白木さんに向けられている。
「そら簡単にはくたばらんやろ化け猫なんやから」
「馬鹿でも化けでもなくて!何度もいってますが真似猫です!」
「知らんわ」
「にゃーあぁああん!この世に生を受けて十数年、物の怪として200年生きてるのにぃ!」
泣き喚く白木さんのそっと篠崎さんは忍びより右手の人差し指を頭のてっぺんから背筋へつつつと滑らして尻尾の先へ。
「あぁ!この大っ嫌いな触り方は!」
180度くるり回って驚愕の表情が張りついている。
「思い出したか?」
その目に青い憤怒の炎あり。
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