クリームソーダの向こう側 9

昔、一度だけ家族揃って隣県の遊園地で遊んだ事があった。

休日返上で働く父が、たまの休暇を家族サービスに充てたのだ。

暗い内の出発で、車内は学校や友達の話で盛り上がり、ルームミラー越しに運転席の父親が、珍しく嬉しいそうな顔をしていた。

楽しかった。他の家族と同様に誰もが笑顔でずっとここに居たいと、昼食で泣いた。

最後にジェットコースターに乗ったんだ。

一列に二席で父は母と、姉ふたり。僕の隣には誰も座らなかった。

本当は怖かったんだ。乗りたくなかった。だけど、皆が楽しそうだから言えなかった。

ずっと目を瞑って、暗闇の中を猛スピードで駆け抜けた。

猛スピードで落ちてゆく暗闇から聞こえるのは、ぼやけてはいるが悲鳴や怒号に命乞い。

発生源に向かって落ちてゆく。

「怪異の因果をしっかり見てこい!」

遠くから響く声が一筋の光となって世界を切り裂いた。

日差しが照りつける境内。参道の両脇に袴を着た人たちが立っている。

視線の先には、社殿を背をにした巫女さん。

側に赤子を抱く坊さんがお経を読み上げている。

何かの儀式なのか、厳かな雰囲気だ。

読経が終ると、巫女さんは懐から短刀を取り出し太陽へ掲げると、自ら胸へひと突き。

参道に流れ出た血が端から乾いてゆく。誰も目を逸らさず見届けると、動かなくなった巫女さんを社殿の中へと運んでいった。赤子はずっと泣いている。

秋の頃か。

境内の木々は紅葉して、四つ身を着た子供達が隠れんぼをして遊んでいたり、年配の方が社殿に手を合わせている。

短刀を突いた巫女さんが、社殿の中から外を愛おしそうに見つめている。

雪が積もっている。

境内で遊ぶ子供達も参拝する人もいない。

少し朽ちた社殿から、巫女さんは寂しそうに外を見ている。

空が燃えている。

辺りには空襲警報が響き渡っている。

ぼろぼろになった社殿が燃えている。

金色の髪の女の子が一人、公園で遊んでいる。

巫女さんが触れると、姿が消えた。

女の子は、パンチパーマの女の人に手を引かれて、公園から出ていった。

黒髪の女の子が一人、公園で遊んでいる。

雑木林から出てきた男が、女の子を追いかける。

巫女さんは、男を短刀でバラバラにした。

逃げた女の子は公園から出た直後、姿が消えた。

女の子は、パンチパーマの女の人と金髪の女の人に手を引かれて公園から出ていった。

三人の後を狐が追いかけていった。


「どうやって此処へ来たの?そんな事、どうでもいいわ。全部、見たでしょ?私は神様に捧げる生贄になったの。怖かった。苦しかった。痛かった。あの子ともっと一緒に生きていたかった!」

空は赤と黒が渦状に混ざり、叫びに呼応して刻々と姿を変えている。

巫女さんは、僕が立っている参道の先にいる。

両脇には、鉾や杖を手にした人達と動物達が取り巻いている。

「皆、祀られる存在だった。もう誰も覚えていない。」

表情がない。無だ。

「だから悔しい!皆に忘れられて、私はなんの為に死んだとゆうのだ!」

「でも、嬉しい事もあった。私の血は絶えていなかった。篠崎あさひ。目の前で襲われるあの子をこちらに拐ったのだ。私の子孫。」

天を仰ぐ目には、暗い歓びが宿っていた。










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