クリームソーダの向こう側 7

レディと杉原は、遠回りしながら確実に春日公園へ向かっている。

高層ビルに西へ沈む太陽が切り取られてゆく。直にすべて呑まれて、代わりに星がぽつぽつ出てくるだろう。

さっきまで勢いよく話していたレディの顔は、緊張で固まっている。

杉原に話しかけないのは、その表情を見られたくないからか。

下ばかり見て歩く杉原と気付かない内に距離が狭まっていたのだ。

必然的に二人はぶつかった。

これから先が思いやれる。

住宅街に佇む公園は金網フェンスで囲まれているのではなく、隔離されていると言った方がしっくりくる。

首吊り自殺、焼身自殺、服毒自殺、リンチ殺人。

例の事件の後もここで人が亡くなる事が絶えず、人が立ち寄らなくなった。

これより先に間違っても入らないように、フェンスは設置されているのだ。

そこへ二人は足を踏み入れる。

一歩踏み込む度に、視界がぼやけてゆく。

ついには煙も全て弾かれてしまったようだ。

「レディ、杉原。死ぬなよ。」

レディには間際の声が聞こえたかもしれない。

私は留守を預かっている案内所で、煙草に火を点けた。

落ち着かない。

出ているのが耳だけで済んでいるのが幸いだ。


事前に情報を得た為に、ただの荒れ果てた夕方の公園なのに何か居るのかと疑い深くなる。

唐風に煽られた電線の風切り音が、口からだらだらと涎を垂らす怪物の鳴き声に。太い木の幹の向こうからこちらを見ている妄想がぱんぱんに膨らんでゆく。

動物園の檻の臭い。鉄さびの臭い。ガスの臭い。焦げた肉の臭い。

誰かが僕達を指さして囁いている。笑っている。罵っている。泣いている。

ありもしないと分かっていても、妄想の膨らみが抑えられない。

「杉ちゃん、大丈夫や!うちがついとるから!だから最後までうちを信じて顔をあげろ!」

一喝されて、レディさんを見る。

力強い表情だか、泣き出すのを我慢する顔にも見える。

「ハウツーその2覚えとるか?目に見えるのが正しいと思うな!周りをよく観察しろ!」

「よく覚えています!」

レディさんを肯定する。

「惑わされるから私がええって叫ぶまで目を閉じや!音に集中するんや!」

何も聞こえない。

「いいか。奴等は恐怖を利用して取り付く。心を無にするんや。何も考えるな。しじまってやつや。」

「杉原!目をあけぇ!」

言われた通りに、ばっと目を開ける。

「アホ!うちが言うたんちゃうわぁ!」

雑木林の奥からガリッガリッと音を立てながらそれは現れた。

分かる限りでは、犬や猫に雀や烏。カジュアルなチェックの服や真っ白な着物を着た人間。林檎や蜜柑等の果物。あらゆるものをバラバラにして、1つの団子にしたかび臭い化け物。

「杉ちゃん!周りを見ろ!」

言葉に従って、目線は化け物から周りの景色に移る。

公園の周りを囲っていた家々が、ずっと小さくなっていた。

「公園を丸ごと異界にしたんか!篠ちゃん拐った時より更に堕ちたな!お前さんも、元々は守り神様やったのになぁ!」

























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