第4話 私が世界を変えてやる
§§§ メディペド社長室 ヒューム
リリスとのメディブラッド定例ミーティングの時間だ。メディブラッドの研究開発を始めて3年。ようやくリリースの目処がたった。特にサンプルAとドラキュもんを得たのは大きい。後1年もあればメディブラッドシリーズの初めての製品であるメディブラッドαを販売できるだろう。
ようやくこの世界を変えられる。このメディブラッドシリーズで、、、
「ヒューム社長。失礼致します。メディブラッドの進捗報告になります」
「リリスさん。お待ちしていました」
リリスはメディブラッドのプロジェクトリーダーだ。このプロジェクト初期段階でこの製品開発に関わりたいとのことで面接にきた。社内ベンチャーとして公募したが、良い人材が集まらなかった中、ドラキュラの知識と薬学の知識を持つ彼女が面接にきたため、すぐ採用に至った。
彼女はリーダーとして、開発者として、非常に優秀だ。しかし、優しすぎるのが彼女の欠点である。最近は情が出てきたのか、サンプルAの体を気遣うような発言が増えている。 多くの人間を救うためには、犠牲はついてまわることを彼女は分かっていない。
「ドラキュもんが開発した自動血液採取装置の評価が完了しました。全て問題ありません」
「なるほど」
「ドラキュもんはよく頑張っています。自動血液採取装置の追加機能として、サンプルの消耗を減らせるよう、針を刺しても痛みが起こらないようにしています」
「それは素晴らしいですね!」
サンプルAを気遣う必要はない。私なら生ず殺さずの状態にする、、、サンプルAの体調が良くなれば、逃亡のリスクが出てくる。
「セキュリティには十分に気をつけるようお願いしますね」
「はい。サンプルAがいる部屋は、関係者でも勤務時間しか入れないよう、ロックをかけていますし、警備員も配置しております。監視カメラもあり問題ないかと」
「よかったです」
サンプルA単体では逃亡の可能性はないな。リスクとしては、ドラキュもんが逃亡を手助けすることぐらいか、、、その時の備えをしておかなければ……
「ドラキュもんはサンプルAとは仲良くやっていますか。」
「仲良くやっていますよ。どちらかというとサンプルAにいいように言われていますが、、、毎日のように気持ち悪いって」
「仲良くやれていてよかったです。ドラキュもんは面白いですね」
ドラキュもんは頭脳明晰だが、承認の欲求に飢えている印象がある、サンプルAが気持ち悪いと言えば言うほど、ドラキュもんは彼女の承認を得たくて必死になるだろう……ドラキュもんがサンプルAの逃亡に手を貸す可能性がある。今はまだドラキュもんの頭脳が必要だが、早めに処分しなければ……
「サンプルAと同じ血液生産能力が高い人間の量産は進めそうですか」
「はい。ドラキュもんがサンプルAの遺伝子情報を分析していて、ほぼ完了しています。並行して成長促進剤の開発も進んでおりますので、分析が完了すれば量産化の目処は立ちます」
「順調そうで良かったです」
「ただ、コストがまだ目標を達成していません。それとサンプルAを量産して、そこから血液を採取し販売するのは非人道な行為ですので、マーケティングの反応を見るためのプロトタイプとし、本格的な販売は血液単体での培養が成功してから進めさせていただきたいです」
「もちろんですよ!わかりました。リリスさん引き続きお願いします」
「では、失礼いたします」
計画よりだいぶ進捗が早い。ドラキュもんは予想以上に頭がいい。反旗を翻すと厄介な事になりそうだ。はじめからコストと血液培養については、達成できなくてもいい目標だ。ドラキュもんに期待していた役割はもう済んでいる。用済みだ。リリスも処分して問題ない。これからは優秀な従業員ではなく、従順な従業員に任せるほうがリスクが少なくて済む。
アスカにドラキュもんとリリスの処理を任せるか……
「アスカ。私だ。ドラキュもんとリリスを処分してほしい。まず、先にドラキュもんから頼む」
「わかったわ。今度の土曜日にドラキュもんを処分するわ。その一ヶ月後にリリスを処分する」
「よろしく頼む」
「ヒューム。あまり思いつめないでね」
「ああ。ありがとう」
今できることはこれくらいか、、、
私は1人になって、自分の使命を再確認する。
ドラキュラは殲滅するべき悪である。悪を滅ぼすのが正義だ。
そのためには如何なる犠牲も厭わない。
この世界は2つの種族でなりたっている。人間とドラキュラだ。
ドラキュラは、人間の血を吸い驚異の身体能力を持つため人間は抵抗できずドラキュラに支配されている。今は、科学の力でドラキュラの生活を豊かにしていることと、人間の血を吸わないと生きていけないため、共存関係をなんとか保っている状態た。
人間はドラキュラの餌になるために生まれてきたのか……
私の母はドラキュラの操り人形となるために生まれてきたのか……
ドラキュラに血を吸われた人間はそのドラキュラの従者、つまり操り人形となる。ドラキュラの中には人間との争いを好まないものもおり、そのようなドラキュラは従者した人間の血を吸うことで争いを避けていた。
そのようなドラキュラに私の母は従者にされた。父はドラキュラの驚異に対抗する組織ノーアに所属しており、そのドラキュラから母を救うべく討伐に向かったが、操られた母からの攻撃に対して、無抵抗のまま殺された。
ドラキュラがいる限りは、平和は訪れない……
ただ、私の思いとは裏腹にドラキュラは人間界に進出している。元々は人間界とドラキュラ界は、完全に分かれていた。しかし、資本主義の拡がりと共に、経済活動を共同で行うこととなり、多くのドラキュラが人間界に暮らし始めている。外見でドラキュラと人間を区別することは難しく、もうドラキュラを殲滅することは不可能だと言われているのが現実だ。その中で私は従者を元に戻す薬を開発し、それで得た資金でメディペドを設立した。
私がこの世界を変えてやる。そのためには如何なる犠牲も厭わない。
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