ドラキュラブラッド株式会社 ~血液製作はじめました~

ペンギン

第1章 メディペド株式会社

第1話 ぼく、ドラキュもん

「あんなコミュ障がよく一流企業のメディペドにはいれたものだ。ドラキュラっていう噂もあるらしい」


「どうせコネだろ。ヒューム社長の推薦で決まったみたいだ。配属先は新設されたドラキュラが飲む血液を作る部署らしい。医療メーカの我々の会社にふさわしくない部署だ。リリスさんのお気に入りだし、なんかムカつくよな」


 今日も朝から悪口が聞こえてしまった。ぼく、ドラキュもん。地獄耳だ。よく名前が変と言われる。


 でも、この名前は母様がいろんな秘密道具を持つアニメキャラみたいに、みんなの役に立つ子に育ってほしいという思いがつまっているからすごく気に入ってる。


 みんなと仲良くしたいけど、昔から何故か一人ぼっち。みんな僕を避けるんだ。


 やっとメディブラッド部についた。ここで僕は血液開発をしている。


 さぁ、気持ちを切り替えて、今日も頑張るぞ!


「おはようございます……」


 あいさつはなんだか恥ずかしくて大きな声で言えない。誰か僕に声かけてくれないかな……


 あっリリス部長がこっちにくる!


 ウェーブのかかった亜麻色の髪……ぷっくりしたほっぺ。スベスベの白い肌。全てを包んでくれる笑顔……今日も綺麗だな~付き合いたい……血を吸いたくてヨダレでる……


「おはよう。ドラキュもん。開発進捗はどう?」

「はい!順調であります!自動血液採取装置が完成しました!」


 ドラキュもん 開発グッズ その100

 自動血液採取装置!その名も"採取くん"

 これは人体から血液を瞬時に採取できる装置なんだ。体の至るところに針を刺し、そこから1分で致死量ギリギリまで血液を採取する。良い子は使用しちゃだめな装置だ。


「血管検知するためにAIを用いた画像診断と、針を挿入し血管に届いた時点で止めるための触覚センサの精度調整に苦労しました。あと致死量ぎりぎり・・・」


「もう報告は結構。計画よりも早く出来ているみたいね。さっそくサンプルでの実験に入って頂戴。ドラキュもん。よくやったわね」


「ありがとうございます!がんばりました♪」


 リリス部長が褒めてくれた。あの女は僕のことが好きかもしれない。ちょっとだけなら付き合ってやってもいい。


「リッリリス部長!あっあっあっあの、あの今度、おしょおっとお食時で」

「次の打ち合わせがあるわ。それじゃ頑張ってね♪」


 ……ふっ打ち合わせならしょうがない。


 さぁ、リリス部長に言われたとおり、サンプルを用いて採取くんの評価をしよう。実験室にGOだ!


 実験室は、メディペド最上階にある社長室の1つ下、99階にある。社長直下のプロジェクトだから、社長がいつでも確認できるよう、社長室の1番近くに設置されてる。

メディペドは、全長900 mの高層ビルで、実験室から見る景色は絶景だけど、それとは逆にここからは、絶対に逃げることが出来ないとも感じさせられる。


 僕は、実験室は苦手だ。頑丈なセキュリティがされていて、サンプルAを幽閉している。なんだか牢獄のようなところだ。拷問で使用するような道具がたくさん置かれていて、この実験室で恐ろしい実験が繰り返されていたことを物語っていた。こんな道具は使いたくない……


 幽閉されているサンプルAはすごく可愛い。淡紫の髪がふわっとしてるし、目がくりくりしてる。付き合いたい。でも、いつも実験体にされてて可愛そうだ。実験しているのは、ほとんど僕なんだけど……


 サンプルAには特徴があって、人間にも関わらず異常に血液生産能力が高いんだ。だから、ドラキュラ用の血液を採取する上で、これ以上最適な生物はいない。僕の出世に必要な存在。


 すごく可愛くて便利で可愛そうな存在……それがサンプルA……


「おはよう。サンプルAは元気してた?」

「……」

「元気なさそうだね」

「……」


 うわーん。いつもどおりの無視。初めて会ったのは半年前……その日からいつも朝はこんな感じ。


「じゃあ、早速、評価をはじめよう!今回は自動血液採取装置の設計バリデーションをします!設計バリデーションは、実際の使用環境で、要求通り動くのかを確認することだよ。なので、この自動血液採取装置の中に入ってください!」


「……これは何をする装置なんですか?」

「まぁ気にせず入って入って」

「嫌です」

「そうですよね」


 うーん。困った……無理やりさせるのは良くない。手荒な真似はしたくないけど……


「きみはもう助からない。分かっているだろう。諦めたほうが楽になるよ」

「黙れ。キモやろう」

「……」


 ビリビリくんを使うしかない。


 ドラキュもん 開発グッズ その50 ビリビリくん

 護身用グッズ。これをあてられた相手は失神する。悪用しちゃダメな道具だ。


「えい!」


 失神させちゃった。ごめんね……

 よし!採取くんにサンプルAを乗せよう。はやく実験を成功させてリリス部長に褒められたいな♪


 スイッチON!


 よし。順調に針が刺さっていってる。血管のところでうまく止まるかな?よし。止まった。バッチリだ。


 あっ!サンプルAが起きた!


「針が刺さってるんだから動いたらだめだよ。針がめり込むから」

「痛い!人でなし!」


 ぼくはドラキュラだから、人ではないんだけど、そんなふうに言われたら傷つく。


「動かないで。ほらっ痛くないでしょ?失神させたのも一瞬だったでしょ。抵抗している姿を見せたら、会社の怖い人に君は消されてしまう。だから仕方ないんだよ」

「動かないなんて無理よ」

「なるほど。確かにそのとおりだなー」

「もうっ!腹立つ!痛っ」

「ごめんよ。人の動きに合わせて、針が動くようにしないといけないね」

「し……」


 血液を吸われて、サンプルA失神しちゃった。


 評価結果はまずまずだな。人の動きに合わせて針を動かすようソフトウェアを変更しようかな。

 そしたら痛くなくなるから、サンプルAも喜んでくれるかも!


「ドラキュもん。実験の調子はどう?」


 あっリリス部長!様子を見に来るなんて、僕のことがそんなに気になるんですね!


「バッチリです!失神した段階で血液採取も止まってますし、サンプルAの消耗も少ないです。サンプルAを長く使えます!」

「そう、、、」


 あれっ褒めてくれない。なんか間違ったかな?それともツンデレかな?


「ドラキュもん。ご苦労さま。社長に順調と報告するわ」

「じゃじゃあ、リッリリス部長!あっあっあっあの、あの今から、いい、いあい、あいっしょにきゅ休憩で」

「社長との打ち合わせの時間だわ。じゃあまた明日」


 ……ふっ社長からの連絡から仕方ない。サンプルAを戻すか。


 あっサンプルA起きてた。


「ありがとう。君のおかげで、僕はみんなから認められる存在になれそうだ」


 僕のことめっちゃ睨んでる……


「消耗が少ないって、私を消耗品とでも思ってるの!?この人殺し!」

「そんなこと言われても、人はたくさん死んでるじゃないか。人間は日々、ドラキュラの餌になってる。メディブラットが出来たら、少しはそれが減るかもね。君たちには犠牲になってもらうけど……」

「悪夢よ」

「ごめん。……そうだね」


 そう、この世界はまるで悪夢のようだ。禄なもんじゃない。人間とその血を吸うドラキュラがいて、今も色んな場所で争いが起こっている。

 でも、それがこの世界の日常なんだ。僕は今を生きることで精一杯。だからもう君のことを救うことは出来ないんだ。


 そんな僕が世界を変えたいと望むなんて……このときは夢にも思っていなかったんだ……

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