~暇を持て余した神々の遊び~ 異種族入交の大乱戦

霜月

第0戦 : 暇を持て余した神々の遊び

『神』それは人々が生み出した幻想。『神』それは人々がすがる希望。『神』それは全ての誕生の起源。『神』それは頂点に君臨する存在。『神』それは―――それは――――――


 そこは過去か未来か,はたまた現在か,そんな時間という概念から隔絶されたその場所には存在していた。

 自分たち以外の生命が一切いないその場所で奴らはあまりにも深刻そうに,しかしまるであまりにも軽々しく


「それじゃあ今回はアチシの内容で決定ということでOK?」


 恒例の会議を行っていた。

 恒例と言っても数か月・数年単位で行われるものではなく,数千年間隔で行われるその会議は死ぬことのない奴ら―――『神』にとっては生死に―――死ぬことはないが―――関わるといっても大袈裟な表現ではなかった。


「で,どうするんだ。適当に寄せ集めてくればいいのか?」

「ノンノンノンですね。適当では面白くなーいのです。選べるのは各々だけ,そしてそれはであることが条件でーす」


 神Bの問いに神Aは答える。そして神Aは勝手にルールを追加した。


「勿論,優勝者には景品を上げちゃいまーす。なんと,その,景品は,『次回のの決定権』でーす。OK?」


 突拍子もない提案。普段の場でこんなことを言っていたなら絶対に袋叩きになるであろう内容。しかし今回の神Aの内容はその発言を許すことの出来る内容。否,その発言の―――景品のために考えた可能性も高い。

 故に誰も天使Aに対して意見を呈することはなかった。


「OKということで,うーんどうしよっかな…。まぁいいや皆が選び終わったら開始ということで解散!」


 ―――――――――それはまるで命の尊さを知らない子ども。もしくは道徳を学ぶことなく成熟した大人であった。


 しかしそんな言葉が当てはまるはずもない。何故なら奴らは『神』なのだから。


 ********************


 一体ここは何処なのだろうか。学校で授業を受けていたはずなのに。まったく見覚えのない場所に白詰雪シロツメユキは状況が全く理解できない状態で立っていた。

 それも当然の反応だ。何故なら本当に突然だったから。学校で授業を受けていて,瞬きをしたらこの場所に―――何もない真っ新な,只々果てしなく無の続く場所にいたのだから。

 拉致されたのか―――あんな一瞬で?ならばVR―――頭を触っても機械がついている様子はない。だとしたら夢―――授業中に眠ってしまった?だとしてもこの場所が夢なのだとしたらこれ程にまで非現実的な状況に説明がつく。

 だが,今まで夢を見た中で夢を夢と自覚できたことがあっただろうか。その答は「ない」―――今の今まで一度たりとも夢を夢と自覚できたことなんてない。今回がその記念すべき一回目なのかもしれないが―――ユキはそんな考えを頭の中から殴り捨てた。

 だがしかし,そうは言ってもユキもこの状況を理解できたわけではない。出ることのない答を考えていると何処から現れたのか,突如眼前に少女が現れた。


「ヒャアッ!」


 まるでどっきり番組のような登場の仕方に,ユキは驚きの声を上げた。


「アッハッハ,驚きました?驚きました?」


 ユキは再度驚いた―――否驚愕した。

 何故なら眼前の少女が宙に浮いていたから。それだけではない。頭上の光輪に背中に生えた光の翼―――およそ人間ではないであろうその姿に,ユキは驚きを隠せなかった。

 傍目に見るから感じる。それは作り物ではなく本物の―――生きている物体なのだと。


「アッアッ……」


 声も上げられず,ただ指すことしかできない。

 しかしそんなユキを無視して


「それじゃあ時間がないからサクッと説明するね」


 少女は語り始める。これから行われる最悪のゲームについて―――何の悪意もなく罪悪感もなく。


「今から貴女には殺し合いのゲームをしてもらいます。ちなみに企画したのはア・チ・シ。すごいでしょー,ねぇすごいですよね,すごいですよn―――」


「待って」とユキは手を突き出し少女の喋りを遮った。


「何を君は言っているの?」


 至極真っ当な意見だった。考えなくてもわかることだ。『殺し合いをしろ』なんて言われて「はいわかりました」なんていう馬鹿は普通はいない。

 そしてユキは普通に分類される人間だった。世間一般に普通と称されるであろう家庭に産まれ,普通に健康に育ち,普通に学校に通い,普通に普通を重ね,流行に敏感でおしゃれ好きな,仲の良い友達のいる女子高生をしている。

 しかし,そんな普通を生きている普通の言葉が届くのは普通の相手だけ。相手が異常ならば届きようがないのだ。

 そう,今ユキが話している相手は異常なのだ。唐突に訳の分からない場所に召喚し殺し合いをしろなどとのたまう。ましてや自分が主催者だと言わんばかりの発言,まともである方がおかしいというものだ。


「はぁ~,しらけちゃいますよーもー」


 ユキの発言で機嫌を損ねたのか,少女は頬を膨らませながら重力なんて存在しないかのようにユキの周囲を飛んだ。


「貴女は駒に選ばれたのですよ。いいですか?もう一度言いますよ。貴女にはゲームに参加してもらいます。そこで頑張って生き残ってください。以上でーす」


 何度説明されたってわかるものか。先ずそもそも説明が説明になっていないのだ。「こうしろ」「あぁしろ」と言うだけのな相手に理解させる気のないような説明。


「いい加減にして!」

「……………」


 ユキは怒鳴った。怒鳴ってどうにかなるのかは分からないけれど怒鳴らずにはいられなかった。

 だがしかしその声は異常者には届かない―――かに思えた。


「そんなに帰りたいの?」

「帰りたいって……,帰れることなら帰りたいけど。だけどそれよりもアタシはちゃんとした説明が欲しいの。あなたは何者で,ここは何処か,そしてなんで殺し合いなんてしなければならないのかを」

「そっか,そうだよね。うんうん不安なんですね」


 初めて成立した―――と思われる―――意思疎通。

 だが次の瞬間ユキは少女の姿を見た時と同等かそれ以上の衝撃を受ける。

 後悔した。もし素直に言うことを聞いていれば―――そんなことを思ったがもう遅い。少女が手をかざすと何処から来たのか巨大な球体が現れた。

 うっすらと透けて見える球体の中にいたのはユキの妹だった。五つ年の離れた妹の紫音シオンが何故ここにいるのか。否,それよりも重要なことは何故少女が妹を召喚したのかである。

 考えたくなかった。だが脳は順次に結論付けてしまった。その理由は―――


「許すわけないじゃないですか。いいですか。もし貴女が拒否をすればここでこの方を殺します。そしてそのあと貴女も殺します」


 あまりにも非道,あまりにも身勝手な言動に涙が出そうだった。拒否権なんて最初からなかったのだ。

 戦わなければ二人とも死ぬ。逆にユキが戦えば,ユキ自身は死んでしまうかもしれないが妹は生きることが出来る。いや,本当にそうなのだろうか。


「それと貴女がゲーム中に死んでもこの方は殺しますからね」

「……」


 少女の言葉にユキは唇を噛むことしかできなかった。

 自分の命は今この時点で自分一人のモノではなくなってしまった。

 だったらもう覚悟を決めるしかない。夢ではないこの現実で,クソったれなこの人知を超えた力を持つ少女のいうことに従うほかない。


『やるしか……ない』


 ユキは自分の頬を全力でたたいた。ジーンと長い痛みが走る。


「OK,やる気になってくれたみたいですねー。嬉しいですよ」


 と満面の笑みで少女は言う。そして手をかざすと


「それじゃあ貴女にスペシャルなプレゼントを上げます」


 手のひらから光り輝く玉が現れユキの胸の中へと飛び込んでいった。

 突然のプレゼントを受け取り,慌てふためいたユキだったが,身体には何のダメージもない。それどころか少し身体が暖かくなり心が落ち着いた気がした。


「フッフー,今貴女に渡したのは『天恵』きっとゲームを有利にしてくれるはずですよ」


『天恵』がどのようなものなのか聞いたところで,どうせちゃんとした説明はしてもらえないだろう。何がどう有利になるのかはまだ分からないけれど,少女の発言を信じるならば外あるものではないということだ。だったらありがたく受け取っておいたほうが良い。


「あっ最後に,今回はー『獣人』『魔法使いウィザード』『鬼人オーガ』『妖精エルフ』『人魚マーメイド』『小人ドワーフ』『半馬人ケンタウロス』『鳥人ハーピー』『吸血鬼ヴァンパイア』が参加していまーす。頑張ってねー。言葉もちゃんと通じるようにしておくからー」

「えっ…」


 耳を疑った。それもそのはず,獣人に吸血鬼,どれも聞いたことがあったがそれは人間が生み出した架空の生物たちだ。もしも本当にそれらが存在しているのだとしたら,今から戦うのだとしたら,非力な人間が勝てる相手などではない。


「待っ―――」


 伸ばした手は届かず,彼女は戦地へと送り込まれる。最後に映ったのは少女の純粋な笑顔。


 ――――――無意味な殺し合いが幕を開ける――――――


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