幼馴染が二人いるせいで、俺の青春は詰んでいる。

紅山 槙

プロローグ 夢


 "男女の友情は成立するか?"


 これは永遠に語りつがれる議題らしい。

 そもそも、何を基準にして、友情と愛情をわけるべきか。問題はそこからだと思うけど。


 じゃあ、逆説的な命題はどうだろう。

 "同性の友情は成立するか?"

 絶対の自信をもって、Yesといえるだろうか?


 今、俺の目の前に、幼馴染の二人がいる。


 ひとりは黒い短髪がよく似合う、快活で強気な女の子。

 もうひとりは褐色肌で、長いブロンドの髪をなびかせるバイリンガル少女。


 夕焼けが木や地面を橙色に溶かす中、二人は見つめ合っている。その空間には、まぎれもなく"友情"という言葉はなかった。


 何故か黒猫になっている俺は、ひょいと二本の長い影にはさまって、青と金の異彩の瞳で、女の子たちの顔を見上げてみる。


 "男女の友情は成立するか?"


 俺の答えはNOだ。

 ああ、何故なら。

 俺は二人の間に、入れない。


 ホモ・サピエンスから離脱して猫にでもならないかぎり、俺の存在は許されないのだ。


「……あ、あのね……私、萌乃子のこと……」


 褐色肌のほうが口をひらく。

 その瞳は潤み、頬は桃色に染まっていた。


「……うん。あたしも、ずっとルシアのこと……」


 黒髪の少女も涙腺が緩んでいる。長年の呪縛から解き放たれたように、優しく笑う。


「……にゃあ……」


 相思相愛を伝えるキーワードは、寂しそうな猫の鳴き声で隠された。





ーーーーーーー

ーーーー

ーーー






 という夢を見たんだ。

 ……うん。結局、何だったんだろうな?


 夢というものは訳がわからない。

 何の根拠もなく、猫=俺だと思ったりさ。


 ゲームみたいに自分を客観的にみることもあるから、人の脳というのは神秘でできている。


 ついでにいうと、自分の瞳の色、見えてたよね? 何故オッドアイ? 幽体離脱? 俺の意識は、一体どこに??


 びび、びび、と地味な目覚ましが鳴った。

アラームを止めて、音の主を引っ掴む。

六時四十分。変な目覚めだったが、身支度を整えて外に出るにはちょうどいい起床時刻だ。


 外は夜明けたばかり。しゃしゃっとカーテンを開くと、薄い太陽の光が、俺の部屋にほわりと立ち込める。


「よし。本日もいい天気」


 超簡略版ラジオ体操。天井に向かって腕を伸ばして、深呼吸。それからパジャマを脱ぎ捨てた。


 俺、灯堀優真とうぼり ゆうまの平凡なる日常は、今日も始まる。

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