そして、少女は望まれない。

自ら命を絶ったはずの、私は何故だか転生というものを果たしたらしい。いきなり視界に入ってきた、地球ではありえない髪と目の色に恐怖を覚えた。



 一瞬、死に損なってぶたれたりでもするのかと思ったのに、私は抱きかかえられた。




『××××』

『××××――』




 理解できない言葉を放つのは、一組の男女に、その二人にそっくりな一人の少女。



 怖い、と思った。ただただ、怖いと。どうしてこのような状況になっているのか、さっぱりわからなかった。



 私は、ただ帰りたかっただけだ。お母さんとお父さんが居る場所に。帰れないって諦めたから死んで、それなのに、どうしてまだ、悪夢が続くの――?

 苦しいと思いながらも、深く考える事が出来ずに私は眠りについてしまう。














 そうして、私が生まれてから数年がたった。転生というものをしてしまったらしい。それも、また異世界で。私は日本での記憶があるし、日本語が根付いてるから中々喋る事が出来ない。言葉を理解するのも難しい。



 少ししかわからない。それに、怖いのだ。どれだけ現世の母親らしい人が微笑んでも、苦しいのだ。これは、トラウマなんだろうと思う。異世界にトリップしてしまった時の、トラウマ。



 怖くて怖くて、口を開けない。それに言葉が中々理解できない。わからない、んだ。そう、私にとって母国語は日本語だもん。わからないよ……。

 あまりにも喋らず、子供らしくない私を両親も、生まれた時傍に居た姉らしい少女も、使用人も不気味がっていた。



 でも、怖いんだよ。喋れないんだ。苦しいんだ。お母さんに会いたい。お父さんに会いたい。友達に会いたい。知らない人は、怖い。



 トリップした時と同じだ。私は異常だと見られてる。周りからすれば、私は異常。



 どうして、どうして、記憶を消してくれなかったんだろう。覚えていたくない。異世界にトリップしてた時の記憶を。



 携帯小説とかで、転生しても言葉に困ったりしてないけど、それはきっと物語の世界だから何だと思う。そう、現実はそんなに甘くない。

 動かないんだ、顔の筋肉が。私は天才でも何でもないし、バカだから、言語を新しく覚えるなんて難しいよ。



 ここが異世界だという事実が怖い。髪や目の色が地球ではありえないのが怖い。思い出すんだ。奴隷にされた時の事を、買われて苦しかった日々を。

 過去の事が、私を現世で生きにくくしている。

 皆、私を変な目で見る。でも私は…、怖くて怖くて、笑えない。

 安心できない。わからない。どうしたらいいかわからない。でも、生きていくしかない…。

 誰にも理解されないだろう、私の気持ちを私はその日から『日本語』で日記につづる事にした。










『はじめての日記を書こうと思う。

 今、生まれてからこの世界で正確に何年たったのかはわからない。日本の年月で数えれば、大体三年ぐらいたったと思う。

 言葉も少ししか理解できない。笑えない。現世の家族らしい人が怖い。私は帰りたかっただけなのに。帰れないから死んだのに、どうして、まだ、異世界に居るんだろう?

 どうせなら、記憶を全て無くしてくれていればよかったのに。どうして、記憶を持ったまま私は此処に居るんだろう。

 お母さん、お父さん……。会いたいよ。』









 日記をつけ始めてから、数年がたった。私はその頃に、少しだけこの世界の事を知っていた。年の数え方もわかって、私が今ちょうど6歳だという事がわかった。言葉も理解することだけは少し出来るようになっていた。でも、喋る人がいないし、人と会話をするのが怖い私は言葉を口にしていない。それに、まだ喋るのも苦手だ。



 もうこの頃にはすっかり、私はできそこない扱いされていた。そりゃ、そうだ。言葉を理解するのも遅ければ、魔力もほとんど持っていない。加えて、精霊に嫌われていた。



 魔法は、精霊の力を使って発現するものだ。それなのに、私は精霊に嫌われている。四つ上の姉がいっていた。精霊に好かれて、現世の両親に好かれてる姉が。

 『精霊もあなたをこの世界にあってはならないものっていってるわ』って。

 蔑むように私を見た目は忘れられない。


 この世界にあってはならないもの、かとただ思う。赤ちゃんの頃見た彼女は確かに笑っていたのに、私がおかしかったから、彼女はこんな目を浮かべている。ああ、どうして記憶を持ったまま私は此処に居るの…?




 私はできそこないで、精霊に嫌われている。だから、この頃には家が公爵家だって気付いてたけど、誰もが私を異常な目で見る。



 それに、私はどうしても今も怖いんだ。色々なものが。







『お母さん、お父さん…。二人の姿がかすんでいくよ。大切だった人達、今は何をしてますか。

 会いたい。抱きしめてもらいたい。そしたら、私はきっと幸せなのに。

 ここは怖い。どうして、私は記憶を失って転生しなかったんだろう。もし、記憶がなかったならば、きっと姉も両親も、嫌な気持ちにもならなかったんだろうに。こんなことにならなかったんだろうに。

 人の髪の色も目の色も怖くて仕方がない。ずっと、胸がバクバクしてて、怖い。余計に文字や言葉を覚えるのが、恐怖心で遅くなってる気がする。私は今メアリっていう、公爵家の女の子なのに。どうして、過去の私の方が、こんなに根強く残ってるんだろう。

 前世の記憶なんていらなかった。そうしたら、ただの普通の子供のメアリとして私は生きれたのかな?

 結局やっぱり、都合よく救いが来るなんて物語の中だけなんだろうって思った。

 笑い方がわからないんだ。もう、涙も出てこない。頬が動かない。私はどうすればいいの。怖いよ、怖いよ、お母さん、お父さん。今はもう、私はメアリで、犬塚奈美っていう女の子じゃないのに、会いたい、帰りたい。帰ってもどうしようもないことわかってるけど、それを望んでしまう』












 あれからまた四年がたった。私は、10歳になる。ようやく文字が少し理解できるようになったのと、聞く分に関しては問題なくなっていて、噂話を集めた結果、精霊に愛されない理由がわかった気がした。



 この世界で死んだ魂は、この世界でまた生まれ変わるものらしい。そういう存在は世界に受け入れられていて、無条件に少なからず精霊に愛される。世界には、召喚なんていう魔法もあって、その場合の異世界へのトリップは、神様が受け入れるからこそ、精霊も受け入れるんだって。



 そう、だから、召喚でも何でもなしにこの世界に来てしまった私は、世界に受け入れられていないんだ。神様が私を認めていない。精霊が私を愛さない。そう、姉がいっていたように、私はきっと世界や精霊からすればあってはいけない、異端なのだ。



 この世界で死んだ魂は、この世界で生まれ変わるなんていう事実全然知らなかった。トリップした私は言葉なんて何も理解できなかった。だって、十六年もずっと日本語を話してたんだ、ずっと。英語だって苦手だし、外国語なんて覚えられない、そんな高校生だった。勉強が苦手で、毎日が楽しくて笑ってた、こんなことになるなんて全然考えてなかった、私…。

 乾いた笑みが零れる。


 召喚、だったらきっとよかったのにね。私のは神様も予期しない、トリップ。世界が望まずにこの世界に入った、異端。









『世界が望まなかったかもしれないけど、私も望んでなかったよ。私はあの場所で、家族と、友達と暮らしていければそれでよかったんだ。大切な人達が、あそこにいたんだ。大好きな人達が、あそこにいたんだ。

 それなのに、私が望んでもいないのにこの世界に来たのに、どうして終わらないの? もしかしてこれはまた死んでも終わらないのかな。私はずっとずっと此処にいなきゃいけないの?

 世界が望まなかったっていうなら、私を帰してくれればよかったのに!! 私を家族の元に帰してくれればよかったのに……。精霊は私を嫌ってる。魔力なんてほとんど持ってない。それは異常な事。だから私は、冷たい目で見られてしまう。怖いよ、人って。異常なものを排除しようとするんだ。精霊にとったら私は世界に紛れ込んだ侵入者なのかもしれないね…。姉がね、両親に私を捨てるようにいってたの聞いたんだ。もしかしたら、私は家から捨てられるのかもね』









 12歳になった。両親に珍しく呼び出されたから、想像はしてたけど、



 「出ていけ」



 って一言で、情けで武器である剣を与えて森に捨てるって、ひどいよね。



 まぁ、私が行けなかったんだろうけど。もっと器用にうまく、立ち回れたらもっと違ったんだろうね。そんな事わかってるけどさ。怖かったからそんな事できなかった。



 暗い森の中を歩く。人がいない事が楽だった。暗闇は怖いけれども、誰もいない事に安心した。こんなことに安心している時点で私はきっとおかしいのだろうと、ただ思う。



 それにしても、追い出したいと姉がいったのは二年前。二年間も引き延ばされたのが寧ろ驚くぐらいだった。



 死にたく、ないなぁ。死んだらまた、この世界に生まれるんだ。望まれないままに。来世の私が記憶を持ってようと持ってまいときっと世界に望まれないんだろうな。



 ―――死にたくない、死にたくない、死にたくない。



 そんな思いにかられていたら、声が響いたの。



『―――力が、欲しいか?』



 それはきっと、悪い声だって気付いてた。でも縋ったよ、欲しかったから。死にたくなかったんだ。


 ――――それは、悪しきものと呼ばれる悪魔の誘い。







『私はその日、人ではなくなった。悪魔と契約を果たした。

 死にたくなかったから。契約したの。悪魔と契約したモノは落ち人って呼ばれるんだって。悪魔――シュバルツは私の心を見たらしいの。人が渇望する心を悪魔は見て、そうして契約を囁きかけるんだって。

 躊躇いもせずに、狂ってるわけでもなく、頷く人はいないってシュバルツは私を面白そうに見ていた。神様なんて信じても仕方ない。この世界では、信仰が深いけれども、私は神なんて信じない。

 だって、祈ったからって助けてくれるわけではないでしょう? 知らないうちに紛れ込んでも、救ってくれるわけではないでしょう? 物語の世界みたいに、巻き込まれたから加護するなんてそんなの居るわけないのよ。だって、現実はそんなに甘くないもの』












 10年がたった。森の中で私はシュバルツと暮らしている。私は12の姿のままだ。落ち人になった人はその当時の姿でずっと生き続けるんだって。



 シュバルツは出会った頃と何だか変わった気がする。私に過保護なんだ。私に優しいんだ。私の前世の話も笑わずに聞いてくれてたんだ。



 優しくされたのは、本当に久しぶりだった。悪魔だろうと何だろうと、10年も私の傍で、危害を加えずにいてくれてるんだ。頭をなでてくれた時の優しい顔に涙があふれた。

 久しぶりに顔に感情が出たんだ。私は幸せだと思った。人ではなくなってしまったけど、幸せなんだって思ったの。



 シュバルツがいってた。落ち人は、大抵神様とやらの協力によって召喚された勇者に殺される魔王になるんだって。

 この世界に魔王が繁盛に現れるのは、落ち人になってしまったからなんだって。悪魔は精霊と敵対してる。人の心を惑わして落とすんだって。だから、そういう存在は存在してはいけないんだって。



 落ち人は、人に魔王と認識されなくても殺されるものなんだって。神も精霊も悪を許さないらしいよ?

 だったら、人間をどうして許してるんだろう? 理不尽をどうして許すんだろう? 人だから? 人はよくて悪魔は駄目で。人はよくて落ち人は駄目。それはどうしてなんだろう。



 悪魔は死ねない魂とも言えるんだって。聖なるチカラによって動けないほど弱くされる事はあるらしいけど、悪魔の核は消えないんだって。生まれた悪魔は時折弱められながらそれでもかすかに命を持って、存在してるんだって。











『シュバルツは、悲しそうにいってた。私を殺されたくないっていってた。悪魔だけれども、シュバルツは優しいよ。世界に弾かれたもの同士だからかもしれないね。悪魔も、落ち人も、神様や精霊は存在を許したくないらしいから。

 人は神を信じてる。人は精霊を信じてる。

 正義は神や精霊で、悪は私やシュバルツ。

 いつか、私は勇者なんてものに殺される魔王となるのかな? それともただの落ち人として殺されてしまうのかな』











 それから、また50年がたった。私たちは相変わらず森の奥で、静かに暮らしていた。だけどね、噂が届いたの。




 私を殺すために召喚されたんだって、勇者が。シュバルツの力を弱めるために召喚されたんだって、勇者が。


 落ち人も悪魔もそこに存在も許されないらしいけど、それならどうして生み出されるんだろう。12歳の姿のままの私とシュバルツはもう覚悟してるよ。だってね、召喚される勇者っていうのは、落ち人を見つける才能があるんだって。だから、一定周期で勇者は召喚されて、世界に存在する落ち人を殺して、悪魔の力を弱めるんだって。



 私とシュバルツは見つけられるだろう、きっと近いうちに。

 死にたくないよ、それでも戦わなきゃ私は死んで、シュバルツは弱まって人の姿をとることさえできなくなってしまうんだ。




「…シュバルツ、私は世界に望まれない侵入者だからさ。もしね、私が死んだら―――」




 そうして、私は、一つの約束をしたの。シュバルツと。ずっと一緒に居た、大切な悪魔との約束を。














『召喚された勇者はきっと幸せ者。生まれた故郷から離されたとはいっても、世界に受け入れられてるもの。居場所があるんだもの。私とは違う。世界に放り出された、私とは違う……。

 きっと言葉も通じるんだろう。テンプレ通り高校生なのかな、正義感の強い。羨ましいよ、過去に私は放り出されたから。

 受け居られる場所と、居場所があって、意思疎通が出来る。『召喚された勇者』なら、世界の異端ときっとみなされないんだろう。

 もう前世の知り合いの顔なんてうろ覚えなの。大切だったのに。ずっと覚えていたかった、両親の顔さえもうろ覚えなの。帰りたかったよ、帰れるなら。お母さんの、お父さんのもとに。

 勇者がどんな境遇にいたかはわからないけど、羨ましいという気持ちもあるんだ』











 勇者が召喚されて二年がたった。次々と落ち人や悪魔を狩っていってるらしいよ、勇者は。女の子なんだって。それで正義感が強いんだって。『女子高生』だったんだって。怖いけど、世界のために頑張ってる優しい子なんだって。

 何でだろう。同じ女子高生で、おそらく同じ世界から来たのにどうして私と彼女はこんなに違ったんだろう。精霊に沢山愛されて、神に沢山愛されてるんだって。

 私たちを排除するために、神がよんだ子。世界を平和にするために、神が呼んだ子。




「…大丈夫か」



 昔の私と彼女を比べて、理不尽で妬ましくて、そんな表情をしていた私にシュバルツが問いかける。



「…大丈夫だよ」




 そう、平気。もう、私の中では60年以上前の事だもの。平気だよ、そう、平気。

 私はもう前世よりも長く生きてる。私にとって、きっと今は『メアリ』が占める割合が多いんだろう。でもまぁ、日本語の日記をつけ続けているから、それは忘れていないけれども。



 感じた思いに蓋をして、不安を隠してシュバルツの手を握った。









『私と彼女は、どうしてこんなに違うんだろう? どうして彼女は受け入れられて、私は受け入れられないんだろう。

 …考えても仕方ない事何てわかってるけれど、過去の記憶が消えてくれない。私は、覚えてるんだ。ずっと。いきなり奴隷商人に連れ攫われて、男に買われた記憶も、心配そうに見ていた瞳が異常なものを見るようになった記憶も。この世界は言葉は一つだから、通じないのは、おかしかったんだ。

 召喚された勇者には、言葉が通じるように神様がしてくれるんだって。神様は、贔屓するものだよ。神様は平等なんかじゃない。それなのに、どうして皆神を信仰するんだろう、それが不思議』

















 勇者がやってきたの。




「――――…か……な」




 その勇者を私は知ってたの。小学五年生だった頃しか知らないけど、面影で、声でわかった。勇者は、私の、前世の妹だった。

 妹であって、大好きな家族だった、犬塚香奈だった。どうして、彼女なの。どうして、香奈なの。



 名前を呼んだ私に、香奈は唖然とする。でも、周りに悪魔は心が読めるとかいって決意したように香奈が私に剣を向ける。あっちの世界は、そんなに時がたってないのかもしれない。香奈香奈、私は、奈美だよ。あなたのお姉ちゃんの。

 いっても、きっと伝わらないよね、わかってる。12歳の姿の私を殺すのをためらうように私を見る、香奈。





「メアリ…」

「うん……」




 心が読めるシュバルツは、わかったの。目の前に居るのが、私が時々話していた妹だって。綺麗になったね、香奈。久しぶりだね、香奈。会えてうれしいよ、香奈。でもこんな形で会いたくなかったよ、香奈。



 攻撃できない、できないよ。大好きな妹に攻撃なんてできないよ。そんな私の気持ちに気付いたらしいシュバルツは私を抱えて逃げてくれた。ごめんね、シュバルツ。戦おうって、そして生きようって決めたのに。やらなきゃやられるってわかってるのに。




「……ごめんね、シュバルツ」







 逃げた先、力を少しだけ弱められてしまったシュバルツに私は必死に謝る。心の中でけりをつけなきゃ。前世と今は違う。私は、もう犬塚奈美じゃない。私は、メアリ。落ち人の、メアリ……。








『香奈、香奈。会えてうれしかったよ。大切だった、大好きだった妹。ずっと会いたい、と思ってた。あの場所に帰りたい、って思ってた。

 大きくなったね、綺麗になったね。『犬塚奈美』として再会出来ればよかったのに。本当に、世界は理不尽。

 シュバルツ、ごめんね。ごめんね。気持ちに整理をつけるから。倒せないなら私が死んで、シュバルツが弱まる。倒すって事は妹に手をかけるって事になる。

 …………決めなきゃ、どっちか。やらなきゃやられる』










 逃げてたけど、やっぱり見つかった。私はその時にはもう、決意してた。どうするか。



 だから、私は悪魔(シュバルツ)の力を借りて、人に凶悪とされる闇の力を使うの。ごめんね、香奈。大好きよ。でも、私は死にたくないの。ごめんね、シュバルツと一緒にいたいの。




 手に闇の力によって形成された長剣を握る。




 闇が私の体を覆い尽くす。脅えたような目。お姉ちゃん、お姉ちゃんと慕っていた瞳は、ない。そう、『犬塚美奈』はもういない。私はメアリ。落ち人。



 聖剣のせいで、シュバルツの力が弱まるの。シュバルツが消えるのも、私が死ぬのも嫌なの。


 犬塚美奈を忘れて、相手を敵と思って、動いた。

 けれども、駄目だった。戦いをしたくないとでも言う風に罪悪感に顔を歪める香奈に、一瞬隙が出来てしまった。




『お姉ちゃん』



 そうよんでいた、笑顔が、頭をよぎってしまった。

 そうして、私のお腹に突き刺さるの。聖剣が。それと同時に力が抜けていくのがわかる。血が溢れ出て、意識が朦朧としていくのがわかる。





「―――ル、ツ」



 意識が消えていく、ああ、死ぬんだなって感覚を感じる中で、私はずっと一緒に居てくれた悪魔に呼びかける。



「――見、………け、て。やく……そ、だ…よ」




 すっかりと力を弱められてしまって、小さな黒い石へと姿を変えてしまったシュバルツに視線を向けて、ただ、必死に言葉を告げる。もう、そこに考えるだけの力はないかもしれない。それでも、伝えるの。



 ―――シュバルツ。見つけて。約束だよ。

 ただその言葉を。




 そうして、私は香奈にとどめをさされて、意識を無くす。

 脳に浮かんでいたのは、ただ一つの約束。



 ―――…シュバルツ、私は世界に望まれない侵入者だからさ。もしね、私が死んだら―――、生まれ変わった私を見つけて。

 ―――きっと相変わらず、世界に、精霊に愛されない私が生まれるはずだから。

 ―――――ねぇ、約束よ。私を見つけて。そして、また傍にいて。独りぼっちは嫌だから。

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