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第82話 F級の僕は、光の巫女の居場所を探る事にする
第82話 F級の僕は、光の巫女の居場所を探る事にする
5月21日 木曜日4
部屋に戻ると、ノエル様が声を掛けてきた。
「勇者様、お疲れさまでした。お昼まで時間もありますし、ゆっくりお
ノエル様が、後ろに控える女官達に何かを告げた。
女官達が、部屋の隅に積まれていた、光の武具一式を収めていた箱を、僕の傍まで運んできた。
「勇者様がお召しになってらっしゃる武具一式、午後、神樹に昇られるまで、こちらで保管させて下さい」
光の武具一式は、元々アールヴ神樹王国の所有物。
特に反対する理由も見つからない僕は、装備を脱ぐと、女官達にそれらを手渡した。
女官達が、大切そうに、武具一式を箱に収めていくのを眺めながら、僕は、ノエル様に話しかけた。
「少しお聞きしたい事があるのですが」
「何でしょうか?」
「街に出てみても宜しいでしょうか?」
僕の言葉に、ノエル様がにっこり微笑んだ。
「分かりました。それでは、街を案内できる者を廊下に
まあ、ここは王宮。
僕が、ふらっと街に出掛けてまた戻って来る、というわけにはいかないのだろう。
僕は、ノエル様に頭を下げた。
「お心遣い、感謝します」
ノエル様や女官達が部屋を去り、一人になった僕は、ベッドの上に寝転がった。
そして、今朝の一連の出来事を思い起こしてみた。
神樹の間。
なぜか光の巫女の代役を務めたノエル様。
そして、聞こえなかった創世神イシュタルの声。
ノエル様の用意した、“僕と一緒に神樹を登る”パーティーメンバー。
あそこには、あのガラクさんも居合わせた……
やはり、何かがおかしい。
ノエミちゃんは、本当に体調を崩しているのだろうか?
ここは、無理矢理にでもノエミちゃんに会いに行くべきでは無いだろうか?
でも、普通にノエミちゃんに会わせて欲しいって言っても、多分、絶対会えないよね……
その時、僕の心の中に、突拍子もない考えが
もしかしたら、ノエミちゃんに会えるかも。
僕が、今閃いた考えについて、思いを巡らそうとした矢先に、誰かが扉をノックした。
―――コンコン
扉を開けると、そこにはアリアが一人で立っていた。
「アリア? よく一人で来れたね」
「そりゃ、昨日含めて二度も往復すれば、道くらい覚えるよ。それより、朝はどこに出掛けてたの? あの後、一回ここ来たけど、廊下に立ってたメイドさんに、タカシ様はお留守です~って言われちゃったよ?」
「ちょっと、ノエル様に呼び出されてね……」
僕は、アリアを部屋の中に招き入れた。
アリアは、ベッドの縁に腰かけると、改めてたずねてきた。
「それで、ノエル様の用事って?」
アリアには、どこまで話そうか?
結局、いつかは全てを話す時が来るだろうけれど、それは、やはり、僕自身が、自分の置かれた状況について、もっときちんと把握した時にしたい。
「僕に、神樹第110層に登って、神様に会ってきてくれって。それで、その時同行するパーティーメンバーだって人達を紹介されて……」
僕の話が終わるのを待たずに、アリアが声を上げた。
「待って待って! 話が飛び過ぎてるよ? どこがどう繋がって、いきなり、タカシが神様に会いに行かなきゃならなくなってるの?」
やはり、少しは説明する必要があるか……
「ノエル様は、どうやら僕の事を……“勇者”だと思ってるみたいなんだ」
僕の言葉を聞いたアリアは、目をこれ以上ないくらい見開いた。
「勇……者?」
「うん」
アリアは、難しい顔をしたまま考え込んでしまった。
「アリア?」
アリアは、はっとしたように顔を上げた。
「あ、ごめん。いきなり勇者だなんて言葉聞いたから」
「そうだよね。やっぱり、おかしいよね」
僕が勇者だなんて話、僕自身が一番おかしいと感じてるわけだし。
僕は、適当にこの話題を流そうと試みた。
しかし、意外に、アリアが、何かに納得したような顔になった。
「タカシが、勇者……有り得るかも」
「えっ? どうして?」
「だって、タカシって、記憶喪失なんでしょ? それに、獲得経験値やアイテムドロップ率おかしいし、レベルもガンガン上がって、スキルも謎に取得しちゃうし……やっぱり、普通とは違うよね」
「そうだね……」
アリアに指摘されるまでも無く、僕は実にイレギュラーな存在だ。
恐らく、地球上でただ一人、レベルを上げ、ステータスを上昇させる事が出来る存在。
レベルや経験値が元々存在するこの異世界イスディフイにおいても、異常な速度でレベルを上げ、都合良くスキルを獲得出来てしまう存在。
そんな事を考えていると、アリアが慌てたように口を開いた。
「あ、でも、普通と違うから、どうとかって無いから」
「えっ?」
「勇者だか何だか分かんないけど、タカシはタカシだから」
僕は、思わずアリアの顔を見た。
アリアの顔には、若干不安そうな表情が浮かんでいた。
どうやら、自分の言動で、僕を傷付けてないか、気にしているようだ。
だから、僕は出来るだけアリアを安心させようと、笑顔で話しかけた。
「アリア、ありがとう」
アリアの顔にホッとしたような表情が浮かんでいた。
話が一段落ついた所で、僕は、改めて、先程考えていた、“ノエミちゃんに会えそうな方法”の概略について、アリアに話してみる事にした。
「上手くいくかな? その方法で」
僕の“作戦”を聞いたアリアが、
「まあ、ダメもとで。リスクも低いと思うし」
「それにしても、タカシって、ホント、いつの間にか色々出来るようになってるんだね」
話が
廊下には、メイド姿の女官が一人立っていた。
緑色の髪を綺麗に編みこんだ、美しいエルフの女性だ。
先程、ノエル様が話していた、“街を案内してくれる女官”だろう。
彼女は、僕等の姿を目にすると一礼した。
「タカシ様、街にお出かけになられますか?」
「街に出る前に、この王宮内の案内ってお願いできますか?」
彼女は、少し首を傾げた。
「王宮内で、どこか行かれたい場所、ございますか?」
「ほら、僕もアリアも、昨日、ここに着いて、
彼女は、少し戸惑ったような表情になったが、すぐに笑顔になった。
「かしこまりました。それでは、ご案内しますね」
彼女は、歩きながら、自己紹介をしてくれた。
名前は、レティアさん。
この王宮で女官として勤めて、40年になる。
見た目が20代の彼女で、40年勤務と言う事は……
心の中で、彼女の実年齢を推測しようとした僕に、彼女がにっこり微笑んだ。
「英雄とは、女性の年齢を詮索されない方の事を指すそうですよ?」
僕は、思わず苦笑した。
レティアさんは、歩きながら、王宮内の構造や施設について、色々説明してくれた。
それに対して、主にアリアが色々質問をぶつけて行く。
僕は、二人の会話を聞いている素振りを見せながら、心の中で、エレンに呼びかけた。
『エレン、聞こえる?』
すぐに、頭の中に、彼女の声が返ってきた。
『どうしたの? こんな昼間から』
『ちょっと、聞いてみたい事があって』
『何?』
『エレンは、そこから、ノエミちゃんが王宮内のどこにいるかって探ったりできない?』
『……出来ない』
これは、想定内の返事だ。
エレンは、昨日、王宮内には特殊な結界が施されている、と話していた。
『じゃあさ、僕が今いる場所は分かる?』
『分かる』
これも、想定内の返事だ。
今までのエレンの行動パターンから推測すれば、彼女は、転移する目標地点の状況を、遠隔視か何かの能力で、ある程度把握できているはず。
僕は、最後の質問を試みた。
この問いに対するエレンの答えで、僕の次に取るべき行動は決まる。
『エレンは、僕が今いる場所には、転移しようと思ったら出来るんだよね?』
『出来る……だけど、あなたの傍に王宮のエルフがいるから今は無理』
『大丈夫。今すぐ転移してきて欲しいって話じゃないから』
『……?』
エレンが、戸惑っているのが伝わってきた。
多分、僕の質問の意図が分からないのだろう。
『エレンが、転移できない場所、例えば、昨夜の地下牢みたいな場所に近付いたら、教えてくれないかな?』
『……分かった』
ノエミちゃんが、この王宮内にいるとしたら、それは、エレンが簡単には転移できない場所、特殊な結界に守られた場所だろう。
だから、これで、ある程度、ノエミちゃんがいそうな場所を絞れるはず。
こうして、午前中いっぱいを使って、僕とアリアは、王宮内を隅々まで案内してもらった。
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