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第40話 F級の僕は、皆の前でインベントリから素材を取り出す
第40話 F級の僕は、皆の前でインベントリから素材を取り出す
5月16日 土曜日5
部屋に入ってきたノエミちゃんに、僕は椅子に掛けるよう
椅子に腰を下ろした彼女は、固い表情のまま切り出した。
「タカシ様、この前タカシ様を連れ去った方の顔や姿、教えて頂けないですか?」
僕は、少し考えた。
エレンについて、どこまで話そう?
彼女からは、何も口止めされていない。
おまけに、冷静に考えたら、僕は、純粋な“被害者”でもある。
無理矢理拉致されて、唐突に強力なモンスターと戦わされたり、意味不明にレベルを上げろと強要されたり……
だから、本来なら、全て話して構わないはずだ。
しかし……
エレンの真の
飛躍的なレベルアップも出来た。
強力な武器や防具も提供してくれた。
そして今日、彼女のお陰で、インベントリも使えるようになった。
僕の心の中では、いつの間にか、エレンは、迷惑な“加害者”では無く、何かの“同志”に近い立ち位置になってしまっていた。
どちらにせよ、エレンの顔や姿、ノエミちゃんに伝えても、支障は無いだろう。
「見た目は、僕より少し年下位の女の子だよ。黒髪で……そうそう、頭の両脇に角が生えてたな。角は、突き出した感じじゃ無くて、羊の角みたいに丸まっていて……」
僕の説明を聞いたノエミちゃんが、ポツリと呟いた。
「やはり魔族……」
ノエミちゃんの様子から察するに、エレンは、やはり魔族なのだろう。
って、やはり?
ノエミちゃんは、僕からエレンの話を聞く前に、僕を連れ去ったのは、魔族だと分かっていた、という事だろうか?
「ノエミちゃん、やはりって?」
僕の問い掛けに、ノエミちゃんは、ハッとしたように顔を上げた。
「申し訳ございません。タカシ様が連れ去られた後、連れ去った者の痕跡を、私の力で少し探らせて頂きました。それで、連れ去った者が魔族である事が分かりました」
「力って、もしかして?」
「はい。タカシ様に、他の方々には伏せて下さい、とお願いした私の力です」
ノエミちゃんの力……
僕は、ノエミちゃんが、崩れた洞窟を元に戻したり、道案成してくれる光る何かを呼び出したりしていた事を思い出した。
「そう言えば、ノエミちゃんの力って、魔法とかスキルの一種なの?」
「魔法ともスキルとも違います。その……いつか必ずご説明しますので、少しお待ち頂けませんか?」
「ごめんね。そういう約束だったね」
「ありがとうございます。それで……」
ノエミちゃんは、少し言い淀んだ後、言葉を続けた。
「その者は、どのような瞳をしていましたか?」
「瞳?」
「何か、特徴は御座いませんでしたか?」
特徴……
あ、そう言えば……
「左右の瞳の色が違ったよ。確か……」
僕の言葉をノエミちゃんが引き継いだ。
「右目が赤く、左目が黄緑……」
「? よく分ったね」
「そんな……」
ノエミちゃんは、まるで、とんでもなく衝撃的な事を聞いてしまったような顔をして、そのまま絶句してしまった。
「ノエミちゃん?」
彼女は、大きく息をつくと、僕に向き直った。
「タカシ様、その者は、タカシ様に何か要求してこなかったですか?」
「要求?」
「例えば……従え、とか」
「従え? 家来になれって事?」
「家来と言いますか......まあ、そんな感じの要求です」
エレンは、確かに色々要求――ステータス見せろとか、早くレベルを上げろとか――してはきたが、彼女から、家来になれとは言われた事は無い、はず。
「う~ん、特にそんな事は言われなかったよ」
「そう……ですか」
ノエミちゃんは、何かを考えているようであった。
「タカシ様は、何度か、その者に拉致されてらっしゃいますよね?」
「そうだね。いつも唐突に現れて、連れ去られちゃってるね」
僕は少し苦笑した。
本当に、エレンは、いつも唐突に現れる。
「という事は、今後も拉致される可能性はありますよね?」
「どうだろう……」
まあ、拉致と言うか、今晩も、僕のレベル上げのためのモンスター狩りに、一緒に行く約束をしてしまっている。
ノエミちゃんが、思いつめたような顔をして、僕に話しかけてきた。
「タカシ様、お願いがあるのですが」
「何?」
「今夜からお傍で、タカシ様をお守りさせて貰えないでしょうか?」
「今夜からお傍でって……ええっ!?」
それは、同じ部屋で泊るという事だろうか?
「それは、さすがにまずいよ? ノエミちゃんみたいに綺麗な女の子が傍にいたら、寝られなくなるというか、なんというか……」
「私の事は、その辺の……家具か何かと思って頂ければ」
「いやいや、それは無理だよ」
「そう……ですか……」
ノエミちゃんは、目に見えてしょんぼりしてしまった。
「ごめんね。その……拉致されないように気をつけるからさ」
僕が、自分でも説得力ゼロと分かる言葉で、ノエミちゃんを慰めていると、階下から階段を駆け上がってくる音が響いてきた。
―――ドドドドド
そして、その音が、僕の部屋の扉の前で止まった直後……
―――バン!
大きな音を立てて、扉が開かれた。
そして、入ってきた人物が、顔を涙でぐしゃぐしゃにしながら、僕の胸に飛び込んできた。
「ダガジ~~!」
「アリア!?」
アリアは、僕の胸の中でひとしきり泣きじゃくった後、落ち着いたのか、顔を上げた。
「良かった、無事で。心配したんだよ?」
「ごめんね。でも、こうしてまた戻って来れたし、今回もラッキーだったというか」
「あれから、どうなったの?」
アリアに問われた僕は、マテオさん達に語ったのと同じ内容の話をした。
僕の話を聞き終わったアリアは、不思議そうな顔になった。
「でも、その魔族の女、一体、何が目的で、タカシに付き
「さあ……?」
「タカシは、その魔族の女に目を付けられる覚えって無いの?」
「心当たりが無いから困ってると言うか……」
アリアには、そう返事したけれど、実は、心当たり、無きにしも
エレンに初めて僕のステータスを見せた時、彼女は、こう言っていた。
『見付けた』と
多分、僕のステータスの何か――もしかしたら、スキル【異世界転移】――が、エレンの関心を引いたのだろう。
理由は、さっぱり不明ではあるけれども。
話が、一段落した所で、僕は、今回、この世界に来た目的の一つを果たす事にした。
「ところでアリア、素材を買い取ってくれる所、知らない?」
「素材? モンスターのドロップアイテム?」
「そうそう」
「ギルドで受けた依頼以外の素材なら、道具屋さんに持って行けば、買い取ってもらえるよ……って、タカシ、何か売れそうな素材、持ってるの?」
「うん」
答えてから、僕はしばし
そして、アリアとノエミちゃんの様子を確認してみた。
彼女達の視線に変化は見られない。
インベントリのポップアップが見えてないのか、元々、珍しくもなんともないのか……
ところが、僕がインベントリに右手を突っ込むと、アリアが目を見張った。
「タ、タカシ!? 腕が……」
「腕?」
僕の右腕は、肘から先が、インベントリにめり込んで見えなくなっていた。
「ああ、ちょっとインベントリを呼び出してるんだけど、もしかしたら、アリアには見えてない?」
「インベントリですって!?」
アリアが、大きく
「どうしたの?」
「どうしたのもこうしたのも無いわよ! なんで、タカシ、インベントリ使えるの?」
「いや~、偶然使えるようになって……」
僕は、どう説明しようか考えながら、ともかく、収納していたヘルハウンドの牙18個とキラーバットの翼23枚を、ドサドサ、と取り出した。
「え~~~~!!??」
アリアが、目を白黒させながら、絶叫した。
「どうした!? またあいつか!?」
アリアの声が届いたのであろう、マテオさんの大きな声が聞こえて来た。
続いて、勢いよく階段を駆け上がってくる音が響いてきた。
―――ドドドドド
そして、思い切り開かれる部屋の扉
―――バン!
右手に斧を構えたマテオさんが、僕の部屋に飛び込んできた。
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