18.ブリキのきこり王と機械化兵団

 ブリキのきこりの述懐。


 邪悪な魔女は、私の斧に呪文をかけました。

 私が一生懸命に木を切っていると、突然、斧がすべって、左脚を切り落としてしまったのです。


 片脚では木こりの仕事を続けることはできません。

 どうしようかと途方にくれていると、私は知り合いのブリキ職人の事を思い出しました。

 酒の席で、彼が、

「もし、その斧で手足を切ってしまったら、私がブリキでつげかえてやろう」

 と言っていたことを思いだしたのです。

 そこでブリキ職人のところへ行くと、彼は笑っていとも簡単に私の新しい左足をブリキで作り上げ、そして左足の根元からしっかりと付けてくれました。

 少し慣れるまで時間はかかりましたが、一旦慣れてしまえば、この脚は非常に具合が良かった。生身の時よりハイスペックだったのです。

 しっかりと接地面に対して踏み込めますし、なんだか以前の足より力が出る感じがします。

 その上、ブリキ製の足を持っているのは付近でも私くらいです。

 噂を聞きつけた木こりや危険な仕事に従事する職人達が話を聞きにやってきました。

 けれども、あの邪悪な東の魔女は、私のブリキの左足にとても腹をたてました。

 私と結婚する予定のマンチキンの娘、その唯一の家族である娘の老婆は、死ぬまであの娘を自分に隷従させたいでしょうし、私と娘の結婚を阻むように依頼された東の魔女としても、その沽券に関わるからです。


 私が、また木を切りはじめると、またもや斧がすべって今度は、右足を切り落としました。また私はブリキ職人に頼んで、今度は右足をブリキ製にしてもらいました。

 そのすぐ後に、魔法のかかった斧は次々と私の腕を切り落としてしまいました。

 この頃になると、私はどちらかというと、自分の体が切り落とされるのがへっちゃらになってしまいまして、ブリキ職人に新しいブリキの腕をつけてもらいました。

 すると邪悪な魔女は憤慨して、またしても斧をすべらせて、今度はなんと私の頭を切り落としました。

 この時は、流石に途方に暮れました。

 薄れ行く意識の中で、これで自分もおしまいかなと思っていると、運良くその日訪ねてくれたブリキ職人が、新しい頭をブリキで作ってくれたのです。


 これであの邪悪な魔女を、完全に出し抜いてやったと思い、私は安心して木こりの仕事に精を出しました。

 しかし私は、あの魔女がどれほど邪悪か見くびっていました。

 魔女は、また斧をすべらせました。

 今度は胴体が切り裂かれ、体が中央から切断されてしまいました。

 息も絶え絶えな私の所に、またもやブリキ職人が駆けつけてくれて、ブリキで胴体を作って、すべてのブリキの腕や脚や頭を関節でくっつけてくれました。

 そうして、私の体はすべてブリキ製になってしまいました。

 しかし、それこそが、あの邪悪な魔女の策略だったのです。

 魔女は、美しいマンチキンの娘への愛を消す新しい方法を考え出していたのでした。 

 全身ブリキ化した私の体は、以前の数十倍のマンパワーを発揮します。

 しかし、すべてがブリキとなって心が無くなってしまった私は、あの美しいマンチキンの娘への愛が完全になくなり、結婚なんかどうでもよくなってしまっていたのです。

 

参考:

The Wizard of Oz

https://www.genpaku.org/oz/wizoz.html

著者 ライマン・フランク・ボーム

訳者 武田正代、山形浩生

※一部、文章をに手を加えています。


 オズの魔法使いは、1900年にアメリカの作家によって作られた作品である。

 今からおよそ120年前、1世紀ちょっと前である。

 1900年というと日本は明治33年。この4年後に日露戦争勃発。

 都心では路面電車が走っていたが、自動車はまだ実験段階だった。

 まあ、時代感はさておいて、この部分を呼んでいると、ブリキのキコリの話ってSFだなぁと思ってしまう。全身義体化、つまりサイボーグになったときの人と心のあり方的な話になっているなと。

 全身をブリキにしてしまったことによって、自分には心が無くなってしまったと思うブリキ。

 これって、全身義体化で、自分が人間なのかどうなのか、心があるのかどうなのかなんて、ウィリアム・ギブスン作「ニューロマンサー」とか、士郎正宗作「攻殻機動隊」に通じるものがあるよなぁなんて思ったのだ。

 なんで、ちょっと本文から引用して、手を加えて載せてみました。

 ちなみに、攻殻機動隊はニューロマンサーをオマージュして作成されているし、全米で初めて上位に入った日本のビデオとして有名。

 あの大ヒット映画「マトリクス」のウォシャウスキー姉妹も参考にしている。

 これまた余談だけど、マトリクスは、レゲエ文化、ジャマイカ解放の歴史的な部分もインスパイアされているので、色々調べていくと面白い。

 すべての始まりは、実は、ブリキの木こりから発しているのではないかななんて思った今日この頃。

 というわけで、長めの閑話休題。


 さてさて、ノーム王の大迷宮に向かう俺たちは、途中、ウィンキーの国の国王である、ブリキの木こりに会いに行くことになった。

 まあ、迷宮に行くにはウィンキーの国を通らなければならず、ついでに寄っていくことにしたんだよね。

 賢王として名高いブリキの木こりに会って、何らかの支援をお願いできるかもしれないし、オズの国の情勢を聞き出すことができるかもしれない。

 現在、オズ王から心をもらってそのブリキの胸に内蔵して、ウィンキーの国で安定した治政を行っているはずのブリキのキコリ。

 しかし、俺たちの目の前には、身長は優に5メートルはあるであろう、現代的な曲線フォルムのチタン製の強化装甲で覆われた、ブリキ王というかチタン製の巨大サイボーグが立ちはだかっていた。周りにある人々を圧するその圧倒的な偉容。手に呪われているであろう巨大な斧を地面に突き立てている。

 そして、チタン王の背後には、無数のサイボーグ達が、こちらもまた斧を持って控えている。王とは違い造作のないシンプルな白面に赤い単眼、機械化兵団といった感じだ。

「貴様達の噂は知っているぞ。カーレを支配する魔女を倒したそうだな」

 俺たちを睥睨しながら、チタン王はその偉容にあった野太い声でこちらを

圧してくる。

 しかし、俺も負けてはいられない。

 首をひねってポキリと鳴らすと、王の前と立ちはだかる。

「あんたが、ブリキ王か。ブリキ製ではないんだな」

 葉巻を持った手で、ブリキ王の太ももをコンコンと叩いてみる。

「わ、ばか、やめろスパイク」

 完全にびびっちゃってるクーガが俺の背中をひっぱる。

「なぜ、王とわかって、跪かない?」

 赤い巨大な複眼がギラリと俺のことを睨む。

「はっ!男に跪く趣味は無いんでね」

 俺は葉巻の煙を王に吐きかける。

「どうやら、力でわからせないといけないようだな」

 チタン製の王が巨大な斧を掲げると、背後に控えたサイボーグ達が一斉に戦闘態勢に入るのがわかった。


To be continued

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