11.カーレの地下の巨大下水道
「まず、カーレを逃れ、サンサス殿の城で体制を整えましょう」
「うがぁああああ~がうあー」
目立ちすぎるヒノノ二トントラック、キッドを隠すために入り込んだ、カーレ市街地地下にある巨大な下水路。
とんでもない悪臭が鼻をつくが、しばらくするとそれも慣れてきた。
周囲の警戒を行いつつ、俺は一緒に逃げてきたシャムの元部下達のリーダー、フランカーと今後の行動について作戦会議をおこなっていた。
フランカーによると、ここから北に向かうとサンサスの本拠地となっている城があるそうだ。
「しかし、サンサスをあのままにして行くのは…」
「がうわぁあううう~~」
キッドのサイドウィンドから振り返り見た、サンサスの様子が頭から離れない俺。
シャムの所から早く助け出さないと。
「あの呪いを解くには、サンサス様クラスの魔法使いでないとできません」
「うるぐあ~ぐわぁうわぁ~」
「うるさい!」
俺はクーガの頭をひっぱたく。
「がうわぁああ!!」
と、こちらに牙を剥き出して飛びかかろうとするが、首に付けられた鎖がガシャリと鳴って動きを封じる。
「まったく、このバカが。いつ噛まれたんだよ!噛まれても大丈夫とか言ってなかったっけ!?」
もう一度頭をはたく。
がうわぁ~~と首をかしげるクーガ。
このかかし娘はあの騒ぎの中、なんでか知らんが、グールに噛まれていた。
なんでそんな所を噛まれたのか、お尻の部分にくっきりとグールの歯形が付いている。
狭い運転席でグール化したクーガをドラゴンのやつが焼き殺そうとするのをすんでの所で止めたりと大騒ぎだった。
こいつの呪いも解かないといけないのか…めんどくせいなーもうー。
前途を考え頭を抱える俺。一回燃やして灰にしてみるか。灰から不死鳥のように復活しないかね。ほら火の鳥みたいにさ。
俺が蹴飛ばすと、シャムに裏切られた兵士達の方へ向かっていく。
もともと、シャムとは本当に仲の良かった魔法使いだったためか、兵達のクーガの扱いは丁重だった。
今も丁寧にハールバードの柄で遠くに押し返しているw
そうそう、あの場から逃げ出してきた兵は五名。
リーダーはフランカーと言い、元はオズ王のところで衛兵をしていたそうだ。
五人とも行くところがないのでとりあえず行動を共にすることになった。
もちろん、一緒にいる間は、こちらの行動にも協力してもらうことを約束している。兵としての練度も高いので心強い。
彼らも、シャムに捨て駒にされたと分かったときはさすがに落ち込んでいた。
わかるよ、その気持ち。俺も上司と会社に捨て駒にされたと分かったとき、どんだけ落ち込んだか…
なんか、同情する分、親近感もあるんだよね。
フランカーは今のところつとめてまじめに接してくれるし、年齢も少し後輩くらいの感じなので一緒に仕事はしやすそうだな。
がううわぁああ~と、そこら辺のウロウロしているクーガを横目で見る。
「北門から出るって言っても、北門を開けるための全部の呪文を知っているこいつはこんなだしなぁ」
「となると、カーレで呪文を知る者を探さないとなりませんな」
頭の上からため息が聞こえる。そうそう、再開を果たしたドラゴンはしっかりまた俺の頭の上だ。
一旦、北門を目指すべきか、カーレ内でシャムに匹敵する魔法使いを見つけ出して協力を仰ぐか、それとも…
そういえば、クーガも一応、悪い大魔法使いではあるんだよな。
「こいつの呪いを解けば、サンサスの呪いも解けるんだよな」
うおおおおぉぉぉ…
だから、うるさいって!
もう一度クーガをはたこうと振り向くと、何か様子がおかしいぞ。
クーガがしきりと、下水口の奥から遠ざかろうとしている。
頭の上のドラゴンがキッドの屋根へと飛び、暗い下水口の奥を見つめた。
女の子?!所々につぎはぎの当たった質素な服を着た少女が、下水に膝までつかりながら必死でこちらに走ってくる。
盲目なのか、その目は閉じられているが、足取りはしっかりしている。俺たちの存在がはっきりとわかるのか、恐怖に引きつった顔で時々後ろを振り返り必死でこちらに向かってきた。
目が閉じられてる…なんか、思い当たることがあるな。もしや…
「た、助けて!!」
息も絶え絶えで、こちらに倒れ込んでくる少女を俺は抱き留める。
赤い燃えるような髪、全体的に尖った顔立ちと長い耳、ダークエルフのような黒い肌。お願いだから、こちら向いて目を開けないでね。
フランカーの部下に預けて、後方に下がらせる。
うおおおぉおぉおお…
もう一度、今度ははっきりと、奥から超重低音のうなり声が聞こえた。
目に見えるような異臭がこちらにはっきりと吹き付けてくる。
臭いなんてもんじゃない。目が開けていられないほどきつい。吐き気を懸命に抑え、口元を腕で覆って下水口の闇をにらみ付ける。
闇の奥からにじみ出るように、ねずみ色の巨体が現れる。
胴体のほとんどをしめる目と大きな口、裂けた指先すべてに鋭い歯が立ち並んでいる。巨大な尾を闇の底から引きづるようにして、ゆっくりとこちらに向かってきた。
カーレで二番目くらいに会いたくない相手、その名は…
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