8.どちかと言えば、ヘルシング!!!+++

「ウェスカァ~~~~!!!」

 城内の広い階段下のフロア。洋館を思わせるそれっぽい雰囲気の場所で、思わず叫んでみた。

 何事かと、サンサスとクーガ、白鬢老人と兵達がこちらを見ている。

 俺はそしらぬ振りで、MP5の弾倉を交換した。

 ぶっちゃけ、城内は、怪しい洋館やラクーンシティなんかより、ひどい有様になっていた。

 ノーム王の不死者と呼ばれるゾンビ達は、頭を吹き飛ばせば死ぬ点は一緒。なんだけど、運動能力が高いので、どちらかといえば食人鬼、グールって感じだった。

 統率された行動もある程度可能。運動性能は、走り、飛び、喰らいつく。

 ぶっちゃけ、強すぎ。

 どこかに指揮官がいるらしく、倒した兵士から装備を剥ぎ取り、重装甲のグールを前面に出して隊列を組んで進んでくる。

 耐久力が高い上、鎧や盾などの装甲を付けて押し込まれるとひとたまりもなかった。

 喰われた兵や一般人がどんどん隊列に加わっていく。

 俺たちがここまで来れたのは、サンサスと白鬢の老人…ロータグ、そして近衛兵達の実力があってこそだった。

 まあ、俺ももちろん、キッドのバンボディから持ってきた、ドイツの名サブマシンガン、H&K MP5で頑張ってみたけどね。残り弾倉が一本なので、撃ち尽くしたら後はマテバとクイックローダー(マテバの予備弾倉)二つを残すのみ。こんな事ならあの日本刀とアサルトライフルももってくれば良かったかな。

 幸か不幸か、銀玉鉄砲とかコクサイのM16とか、ダッグハント、オペレーションウルフから始まり、バーチャコップ、タイムクライシス等々を遊び倒し、バーチャコップでは各ステージ90%以上出せる自称”のび太君”の俺は、けっこう的確にグールの脳天を打ち抜いて前衛の援護に貢献していた。

 俺はチャンバー内の一発と弾倉の残りの三二発、的確に脳天にぶち込むため、セレクターがセミオートになっているか確認する。

 まあ、しかし現代兵器は音がうるさくてウザい上、反動がすごいので気をつけないと。フレンドリーファイヤーだけはごめんだ。

 あと、いくらゾンビ、いや、グールとはいえ人間と変わらぬ容姿の彼らを撃つのは正直気持ち良いものではなかった。

 あっちもマジな感じのゾンビ容姿で牙むき出し、よだれダラダラで飛びかかってくるので、こっちもだんだんアドレナリンが高まって知らず知らずのうちに「カイカンっ!…」な感じ(さすがに古いか)になってしまうのが、どうにもやるせない。

 キッドとドラゴンも心配だけど、まああの二人なら大丈夫だと、今は考えないようにしている。

 しっかしオズの国ってもう少しファンタジーでファンシーで「おかねなんかちょっとでフワフワっ!」(だから古いって)って感じだと思ってたんだけど、何この、どちらかと言えばヘルシングな感じ。

「インテグラ様」

 思わずそう声をかけると、

「誰だそいつは?」

 サンサスが怪訝な顔でこちらを振り向く。流石に疲労の色が隠せない。

「グールの指揮官のいそうなところまで、後どれくらいなんだ?」

「後二フロア下、地下墓所のあたりにいるようだ」

 分断され各個にわかれてしまった兵達を助け、指揮しつつ、中央指揮室を中心に防御陣を形成。

 グールの部隊をそちらにひきつけつつ、精鋭のみで構成された別働隊として、俺たちは敵の指揮官の場所へと向かっていた。

 中央指揮室に敵の大半が惹き付けられており、俺たちはクーガの案内で抜け道や秘密通路を通ってきたので、偶発的な遭遇戦はあったものの、誰もグールになることなくここまで来ることができた。

 サンサスの指揮能力の高さと大群を指揮するのに有効な意思伝達、視界共有等の魔法、そして、兵の練度の高さもあいまって、ここまでは順調そうだ。

「次はここに隠し通路があるのだ」

 なんだか楽しそうに鎧もつけずに壁面に駆け寄り、隠し扉の仕掛けをいじりだすシャム。

「おまえは城内のいたる所に抜け穴を掘りまくって…アリンコかよ」

 俺とサンサスがシャムに近寄ったその時だった。

 ぽっかりと空いた隠し通路、その黒い口蓋の様な穴から突然、吐き出されるように数体のグールが飛び出してきた。

 反射的に、俺はサンサスとクーガを跳ね飛ばし、顔面に迫るグールを左腕でガードする。

 がぶりと俺の肘部分がなくなる。

 痛みはなく、その光景はまるでスローモーションのよう。

 ゆっくりとしかし確実に動いた俺の右腕は、腰のマテバを引き抜き、パチリとセイフティを外すと、続けざまに三体のグールの眉間を打ち抜いた。

 すると、ものすごい速さでこちらに踏み込んできたサンサスのレイピアが一閃。

 俺の肘から先の腕が、あっけなく切り飛ばされた。

 迎撃されたグールと、同時に床に落ちる。

「ぐああー、腕がぁ!腕がぁ!」

 ムスカように騒ぐ俺。今思うと恥ずいわー。まず、脇に何か挟んで止血だろうに。まあ、無理か。

 すかさず、口の中で小さく魔法をつぶやいたサンサスが切られた断面に手をあて魔法で止血する。

 襲ってきたたいまつを直接押しつけられるような痛みが急激に引いたその時だった。

 黒い、墨を溶かしたような、苦痛と快楽その双方を混ぜ合わせたような感覚が俺を襲ってきた。

 鼻と口に肉の腐ったような、ひどい臭いがたちこめ、全身が狂ったように痙攣する。

「スパイク!抗え!抗うんだ!」

 なんでか知らんがクーガが叫んでいるみたい。

 うるさいわ。

 なんか、心地いいね。このまま身を委ねて、世界中が黒い虚無に飲み込まれてしまえばいい。

 今だバブル中毒の足の引っ張り合いしかできない役員どもも、上役の顔色しか覗えないプロパー管理職も、それに迎合する新卒の若手もみんなみんな飲み込まれるがいい。ざまーみろ。

 ゆっくりと、そして確実に、皮膚、筋肉、脂肪が腐り、脳が腫れ、歯という歯がせりあがり…

 そこではっと気がつく。

 や、やばいぞ!きーのこ人間になっちゃうぞ!いや違った、ゾンビー、いや、グールーになっちゃうぞ!

 臨死体験ならぬ、ゾンビ化、グール化初体験。

 どこからともなく筋肉少女帯の「キノコパワー」が聞こえてくる。

 どこか僕を、連れて行ってくれっ!

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