2.東の魔女とメロンと鳥人間
皆さんは、自分の死について深く考えたことがあるだろうか?
俺は今、落下するバニラトラックの中で死と直面せざるを得なかった。
死後の世界。
「死後の世界はあ~るんです。死ぬのはち~っとも怖くないんです」
とか言っていた昭和の名優、丹波哲郎。知らない人は、お父さん、お母さんい聞いてみよう。
何かの昭和懐古番組でも見た気がするが、彼はお花畑を越えて大霊界に行けたのだろうか。
そうそう、デーモン閣下のものまねがとても面白かったっけ。
とかそういうことでなく、ようは死ぬ瞬間、痛いかどうかがけっこう重要だったりする。
できれば、苦しまずに一瞬で死にたいと思うのだ。
例えば、ダッシュボードとシートの間に挟まれて圧死。
肋骨やら鎖骨やら脛骨やらがぐしゃりとなって、内臓が潰れる。
落下死。落下の衝撃で死ぬってどんな感じなんだろう?
俺は、エレベーターが10階から落ちた際のスイカ映像を思い出した。
ないわー。ないない。一瞬だったとしても、痛すぎるでしょ。
大霊界はどうでもいいわ。まず、そこへ至る過程が重要だわ。
富士急ハイランドの「フジヤマ」で一番最初の最高到達点から落下するときの感覚。
急激な上方向へのGを感じて俺は飛び起きた。
空は晴れ渡り青い空が見えるが、雲がものすごい勢いで上へと飛んでいく。
HALO(超高高度落下)よろしく、トラックは前方へ少し傾いた形でどんどん落下していった。
そうか、死ぬのか。
俺は冷静を装った。ほんとは泣き叫びたい気分である。
ふと頭の上をみると、イグアナが俺の頭の上にその四本の足でどっしりとかまえ、前を見つめている。
良い面構えだった。
思い残すことはない。精一杯生きてきたらこんな顔になるのだろう。
一方俺は、墜落死について考えてみた。
航空機事故などで高度1万メートル辺りから落下して生還した人はこれまで40人ほどいるらしい。色々な条件があるらしいが、雪や樹木の上に落ちたり、クッションになるものに挟まれていたりといったことで助かるみたいだ。例えば他の乗客とか。衝撃吸収剤として人の体というのは優秀らしい。なんか嫌なこと思い出しちゃったな。
物体は、地面に近づくほど重力に引っ張られるので加速度は増すが、空気抵抗も高まるので加速は止まるとかなんとか。
バニラトラックはフロントをやや下に向ける形で落下している。
トラックのフレームとかが緩衝材になってくれれば助かるかもな。
更に落下した場所が樹木の上なら生還率が高まる気が。
とかなんとか考えている内に、一面の緑に覆われた深い森がどんどんと近づいてくる。
やっぱ怖い!夢なら覚めろ!!!コンチクショウ!!!
と思うのだが、この落下感はどう考えもリアルだ。
トラックは大森林にアプローチするように車体をやや斜め下に向けて落下していく。
目を閉じたいのだが、どうしても目を閉じられない俺。
そして、突然、またあのイグアナやろうが俺の頭の上で鳴き叫び始めた。
と、同時に、歌い出すバニラトラック。
な、なんでだよぉ!!!
まっすぐに首を上に向け、俺の頭の上でけたたましくイグアナが鳴き叫ぶ。
デスマーチよろしく、陽気に歌うバニラトラック。
どんどん近づいてくる森の木々。
そして、俺たち(たち?)は、森の中にある道に向かってまっすぐ落ちていった。
あ、死んだ。
木の上ならまだ助かるかなーなんて思っていたが、これは確実にアウトだな。
黄色い地面が一気に、俺の視界を一杯にして迫った。
くるべく衝撃に備える俺。
鳴き叫ぶイグアナ。
歌うバニラトラック。
「ムキぃーッ!死ぬるぅうぅ!」
変な雄叫びが口をついて出た。なぜ?漫画太郎風?!
ドスンッ!!!
と言う音とも、トラックは道にランディングした。
サスが思いっきり沈み込み、地面にのめり込むようにフロントを突っ込むと、そのまま道をものすごい勢いで走り出す。
「ムキ?!」
あれ、痛くないぞ、ってか、死なないぞ、ってか、どういうことだ?!
トラックはそのまま猛然と走り出した。
ぶ、ブレーキ、ブレーキ!
そのまま走るトラックに驚く間もなく、突然、道に人影が!
「や、やばい!やばい!」
俺はとっさにブレーキペダルを踏み、ハンドブレーキを引いたが、トラックは思い切り、バカンッ!と人影を跳ね飛ばし、しかも、さらにそいつをガクンと前輪でしっかり牽いて、木に突っ込む形で停止した。
死の恐怖から一転。
人をはねた上に牽いてしまった嫌な感覚が、背筋から全身を襲う。
「うわー…」
しかも俺、さっき飲酒してなかったっけ?
最悪だ。
人としてやってはいけないことをしてしまった。
危険運転致死傷罪。
構成要件バッチリ該当。
あー、死ぬかと思ったら、今度は人生が終わった。
エンジンを切って、ドアをはねのけるように開けると、外に飛び出す。
生きているわけはないが、それでも、生きていることを祈りつつ、トラックの下をのぞき込む。
黒いタイツに複雑な銀の文様の赤いブーツを履いた脚が、にょっきり二本、トラックの間から生えるように飛び出している。
土と木片と落葉で胴体の部分が見えない。
トラックの下から出して、救命活動をしようと俺が、瓦礫をのけようと手を出したところ、
「な、なんということでしょう!」
突然、背後から女性の声がした。
「うわ、あ、あ、うんと、トラックが飛んで!い、い、イグアナが歌って、トラックが叫んで、それで、それで、えっと、えっと」
俺は、史上類を見ないくらいパニクった。
男子校(中学)の頃、カロリーメイトの液体を、ゲロを吐く真似をしながら、教室の三階の窓から外へばらまいた友人を見てバカ笑いしていたら、教室に飛び込んできた先生にいきなり殴られたときくらいパニクった。
振り向くと、白いロングドレスをまとった女性が、目を見開いてこちらをみつめていた。
頭には先の尖ったツバの広い帽子、地面につくほど長いキラキラと光る白いロングドレス。手には背丈ほどもある長く白い杖を持っている。
背丈は俺と同じくらい。薄いドレスの布越しに、かなりのスタイルの良さが伺える。
大きくあいた胸元からは、存在感の大きい巨大な膨らみがのぞいている。
メロンだな…
その豊満な胸に注目して、落ち着きを取り戻すなさけない俺。
中学高校を男子校一貫教育で過ごした6年間。懲役6年とかいいながら登校していたあの頃…
って、現実?に戻ろう。
長いまつげの奥のブルーの瞳が、ひたとこちらを見つめている。
「あなたが、やったのですか?!」
美しい透き通るような顔貌を驚きに染めている。
「はい…わ、わたしが、わたしがやりました…」
美人刑事の前で、犯罪をゲロする心境の俺。
いつの間にか、俺と美人を中心として人間とおぼしき人垣ができはじめている。
うん、ちょっと待てよ。
なんか、様子がおかしいぞ。だいたい、なんだこの女の格好は。
ホビットが「怖いなー、怖いなー、指輪こわいなー、早く捨てたいよー、怖いなー、怖いなー」(稲川淳二風)と、ひたすらうなされながら、ただただ指輪を捨てに行くだけのとてつもなく長ったらしい話に出てくるエルフの魔女みたいな格好だぞ。(うそです、大好きな作品です)
まわりを取り囲む住人?達も、妙ちくりんなかっこうをしているし。
改めて周りをよく見回そうとしたところ、白い魔女が突然、俺の前に跪いた。
それに合わせて、まわりの妙ちくりんな連中も膝をつく。
「偉大な魔法使いよ。マンチキン族を長い間奴隷として苦しめてきた、我が宿敵、復活した東の悪い魔女を倒した、素晴らしきお方よ。私たちはあなたの行いを永遠に忘れないでしょう」
潤んだ瞳でこちらを見上げる白い魔女。
その眼差しには尊敬以上のものが含まれているようだ。
えーとどういうことだ。なんか、頭の片隅に思い当たることはあるのだが。
「あの、す、すいません。どういうことでしょうか?東の魔女?」
「隠さなくてもけっこうですわ。あなたが使役するその鉄の獣の下で息絶えているのを見れば、すぐに分かることですし」
俺はもう一度、派手なバニラトラックの下からにょっきりと飛び出している足と、銀装飾の赤いブーツを見た。
まだ、信じられないが、思い当たる節はある。
「あ、あなたは?」
俺は、ドギマギしながら、その白く美しい魔女に尋ねた。
「申し遅れました。私は北の魔女。偉大なるオズの王の命により、この世界の四分の一を統治しております。」
でたよ、オズだよ。足下の黄色い道、妙に美しい森と空。マンチキンと呼ばれた人達の山高帽に青いニットで作ったかわいらしいジャケットとちりばめられた星の様に美しい宝石。
俺は信じたくない一心で、どこかにカメラのレンズか何かがみえないか
と、もう一度周りを見渡した。
壮大なドッキリであって欲しいと思った。
だって、そうじゃん?!
これ完全にオズの国とかだったら、俺はたぶん死んで霊界かなんかにいるよね。それか、精神だけよくわからん世界に入り込んでしまったか、瀕死の重傷で夢をみているかでしょ。
あ、職場のストレスで頭にお花咲いちゃったってパターンもあるな。
転生か?転生なのか?最近やたらみんな転生したがるよね。あれってそんなに面白い?スライムのやつは面白かったけど。
オズの魔法使いは確かに好きだよ。
意外と知られていないけど、色々な続編が色々な作家の手によって書かれていて、中にはほんと感動する話もあるし。
いやいや、やっぱないわー。ないない。
あれだな。五反田で台風19号さんに巻き上げられたタイミングで死んでたんだな。結局、俺はロスジェネ世代の苦しみだけを味わって、ろくでもない死に方をしたんだな。
バニラトラックの中から死体が見つかって、両親はどう思うんだろう?
「どうしました?偉大なお方?」
ちょっとうつむき加減でブツブツ言い出した俺を、北の魔女が下からのぞき込む。
「あ、いえいえ、こっちの話で。えっと、ドロシーさんは先に来なかったのかな」
しかたない、この際ちょっと乗っかってみるか。ノリの良さは男子校出の特権かな。
「ドロシーを存知なのですか?!やはり、あの子と同じ国から竜巻にのっていらしたのですね」
「え、いや、同じ、なのか?」
俺は、オズの国にやってきたドロシーが住んでいた、アメリカにあるカンザスが、日本と同じなのか考えてみた。
向こうはアメリカ人、俺は日本人。
いや、がんばれ、俺。それ以前に、ドロシーは実在の人ではないだろうに。
「まあ、知らないことはないかな。本で読んだし。あの子、3回くらい来てるよね?」
「はい、始めて会ったとき、ドロシーはやはり偉大な魔法で東の悪い魔女を家の下敷きにして葬りました。その後、オズの国が危機に陥る度に、彼女は現れ、救ってくれました」
北の魔女はそう言って立ち上がると、俺の前で一礼して、杖の高々と掲げる。
白い杖から美しい光の粒がひろがり、やがて地面に落ちると、そこには瀟洒な白いテーブルと椅子が現れた。
冷静に実況してみたけどね。やっぱ、どうにかなってるわ。
促されるまま、北の魔女とともにテーブルに座る。
マンチキン達によってどこからともなく、カップとティーポットが運ばれ、良い香りのするお茶と、白い粉砂糖のたっぷりかかったケーキが置かれる。
「召し上がって下さい。ロックイーター達の守る山でとれる砂糖石でつくった銀砂糖のケーキです」
お茶は赤いルビーを溶かしたような色合いで一口すすると、この世の物とは思えない良い香りがする。砂糖石というのが気になるが、ケーキも上品な甘さで、バターの香りのするスポンジは口の中で綿菓子のようにとろけていく。
なんとなく人心地ついた俺は、なるべく、北の魔女の大きく開いた胸元を見ないようにして話始めた。
「今回は、ドロシーでは無かったんだね。なんで俺なのかな」
「さあ、なんででしょうね。ドロシーももはや、80を超えたおばあさん。とても竜巻にのってオズまでこれないでしょう」
長いまつげの奥にあるブルーの瞳が一瞬いたずらっぽく輝く。
なんか隠してんな。この女。
本物の魔女の迫力と巨乳に気圧されないように目を見つめ返す。
「オズは今、危機なのかな?」
「オズ王の力が弱まっています。東の魔女の復活も気になります。彼女はもともと復活の魔法を自分にかけていたとは思いますが、それにしても力が強くなって蘇りました」
まあ、また下敷きになって圧死したけどね。圧死好きな魔法使いだな。
「ところで」
北の魔女はティーカップを置くと、俺のことをまじまじと見つめた。
長いまつげに装飾された大きな蒼い瞳に見つめられると、心臓の鼓動がはやくなるのがわかる。
これで頼まれごとでもされた日には、すぐに請け負ってしまいそうだ。
俺がそんなことを思いながら警戒していると、
「その頭の上に置かれているドラゴンの名前はなんと言うのですか?」
ん?ドラゴン?
「力の強いあなた様なら簡単なことかもしれませんが、ドラゴンを使役する魔法使いはなかなかおりません」
あ、と言って、俺は頭に手をやろうとした。
すると、鋭い鳴き声ともに、手に激痛が走る。
なんだ?!
手を見るとやけどしたように赤くなっていた。あと、なんだか髪の燃えたような臭いが…
あわてて、尻尾の方からつかむと、そのまま無理矢理引っぺがす。
イグアナは俺の目の前で”翼”をはためかせて体制を整えると、ふわりとテーブルの上に着地した。
そこには、全長50センチメートルほどのイグアナではなく、緑と赤の美しい模様をまとった、一匹のドラゴンがにらみ付けるように俺を見上げていた。
ダンジョン&ドラゴンズ(分かる人は昭和40年代生まれだね)の表紙に書かれていたような、あの鋭く尖った凜々しい顔立ちと鋭い眼光、美しい竜鱗、鋭いかぎ爪、そしてこれまた美しい蝙蝠を模した透き通る翼。
「ど、どうした、おまえ?!」
なぜ、俺の頭の上に、ミニドラゴンがのっている!?
イグアナはどうした?!
戸惑う俺を無視して、スルメイカと酒の臭いのゲップを俺にむかって一発おみまいすると、イグアナ、いやもといドラゴンは、俺のティーカップからお茶をすすると、砂糖石のケーキをさもうまそうに食べ始めた。
これ、たぶんあのイグアナだよな。オズの国ではイグアナはミニドラゴンになるのか。このまま持って帰っては虫類専門店に見せたら幾らになるだろう。
なんて考えていると、ドラゴンは見透かしたように、白い目を俺に向けてくる。
「ずいぶんと手懐けているようですね」
どこがだよ。
北の魔女はこれまた美しい微笑みを俺に向ける。
「ああ、まあね。ところで、俺もドロシーと同じで自分の国に帰りたいんだけど、やっぱりオズ王に会わなきゃならないかな。あ、今は、王でなくて王女か」
俺は、小さい頃に読んだうろ覚えの記憶から、今のオズが、頭にわらのつまった”かかし”ではなく、オズの正当な王女だったことを思い出した。
「あ、そういえば、東の魔女の履いていた靴で帰れるんだっけ?」
その時、
「おお!」
とバニラトラックの方でマンチキン達のどよめきが起こった。
ビックリして振り返ると、バニラトラックの下の東の魔女の死体が消失して、地面に人型の黒く濡れた影を残している。
銀装飾の赤いブーツはそのままだ。
俺はあわててバニラトラックのもとにかけよると、ブーツを取り上げた。
赤色に染められた上品な革のブーツに銀細工で細かな装飾が施されている。
これないと五反田に帰れないし。
早く五反田に帰って、名店「とりの炭家」のつくねで日本酒を一杯やろう。
若干気持ち悪いが、確か魔法でどんなサイズにもなるはずだ。
俺はお気に入りの鬼塚タイガーのスニーカーを脱ぐと、恐る恐る履いてみた。
ブーツは生き物のように俺の足首までの部分を包み込む。ジーンズの裾を降ろして立ち上がると、軽くステップを踏んでみた。
素晴らしい履き心地。トリッカーズも真っ青って感じ。
確か、かかとを3回打ち合わせて、なんか言うんだったよな。
なんだっけ?
「えーと、すいません」
俺は北の白い魔女の方を振り返った。
「どうぞ、私のことは、エリザベスとお呼び下さい」
女王かよ。アイマム!って感じか。
「では、エリザベスさん。こいつの使い方知ってます?」
キラキラと光る豪奢な瞳がいたずらっぽく微笑んだ。
「知りません。東の魔女のことなんて知りたくもない」
え、なにそれ。急にどうしたおい。
「魔女が他の魔女に自分の秘術について打ち明けることはめったにありません」
とってつけたように言い訳する。知ってるなーこいつ。
「教えてもらうわけにはいかないですかね?」
俺は、語気を強めて言ってみた。
「だーかーらー、知らないんだって」
茶目っ気一杯で言い返してくる。しまった、かわいいなこいつ。
「ところで」
すっと白い魔女が近づくと、俺の耳元で
「あなたのお名前はなんと仰るのですか?」
甘やかの吐息ともささやいた。
途端に頭がクラクラとまわり、俺は名字からフルネームで答えようとする。
すると、凄まじい、雄叫び。
テーブルでケーキとお茶を堪能していたはずのドラゴンが俺に向かって猛烈な勢いで飛んでくる。
頭の上に無理矢理止まると、凄まじい声で鳴き続けた。
あまりのけたたましさに、北の白い魔女も、マンチキン達も耳を塞いでうずくまる。
俺はと言うと意外と平気だ。
これが世に言う、ドラゴンボイスって奴か。スカイリムでは世界を救う勇者の証だよな。失神、混乱、逃亡とかの効果有り。
名前かぁ。そういえば、魔女に安易に名前を明かすのは良くないよな。確か記憶を奪われたり、使役されたりするんだっけ。某超有名アニメ監督の湯宿の女主人の顔を思い出す。
俺は、とっさに、もっとも好きなアニメの主人公の名前を思い浮かべた。
あんな生き方をしてみたい。
かっこよくも、さびしさを抱え、傷つきやすい心を軽いノリの中に秘めたあいつの名前。
ドラゴンが鳴き止むと、北の白い魔女とマンチキンは、フラフラと立ち上がった。
「失礼いたしました。偉大な魔法使いに、名を聞くなど、愚かな行為をお許し下さい」
北の白い魔女が再び膝をついた。
「ああ、まあ、気をつけるようにな。エリザベス」
俺も調子を合わせることにする。
「俺のことは、スパイクと呼べ」
「スパイク様。それでは、ウィッチスレイヤー・スパイクと我々はお呼びしましょう」
北の白い魔女がそう言うと、マンチキン達も俺に向かって膝をついて頭を垂れた。
こういうことされると、なんか偉くなった気分になるよね。
「で、オズの国はどうやって向かえば良いんだっけ?」
黄色い石畳の道のどちらに向かえば良いかと見回す。
「この黄色い道をまず東に、次に西に向かえばエメラルドの国にたどり着きます」
エリザベスが立ち上がり、片方の道を指さした。
「まず北を目指して下さい。オズ王のエメラルドの国はこの世界の中心にあります」
エメラルドの国ね。確か、目がおかしくならないように、専用のめがねをかけるんだよな。
「途中、大きな河が横切っています。昔、ドロシー達がブリキ王の作った筏で渡った河です。今は河を覆うように、東の魔女の配下が納める城塞都市があります」
ん、配下?東の魔女の配下だと。
「はい。東の魔女には、4人の弟子がおりました。それぞれの弟子に、自分の国、ガーネットの国を分割して統治させています。その一つが城塞都市カーレ。ガーネットの国を流れる大河の中心、河の上の橋が発展した都市です」
おいおい、なんか、レベル感と世界観が変わってないか?
めんどくせーから、あんた連れてってくれよと思うと、顔に出たのか、
「申し訳ございません。魔女同士はお互いに不干渉なのです。オズの女王によって、争いを防ぐための魔法がかけれており、私はこの国に干渉できないのです」
なんだかなぁー。完全にロールプレイングの作り方だよね。設定で進む方向は決めさせちゃうパターン。オープンワールドにしてくんないかね。
しかし、カーレは気になるな。他の作品が入っちゃってる気もするが興味はある。レッドアイとかスライムイーターとか、二度と生きては出られない死の城塞都市だよな。
「東の魔女の4人の配下は、あなたを襲うかもしれません。くれぐれも、お気を付けてください」
大きなメロンを揺らしながら、北の白い魔女は俺に向かって頭を垂れた。
み、見えそうで見えない、胸元ドレス絶対防御ラインに目が釘付けになる。だって、すごいんだもん。
あ、そうだ!北の魔女のキスを受けると、襲われなくなるんじゃなかったっけ?確かドロシーはおでこにキスしてもらってたよね。
俺のキモイ視線に気がついたのか、魔女はそっと目を背けた。
「チッ」
舌打ちする俺。手でもいいからしてくんないかな。
「それでは、スパイク様。道中のご武運をお祈りしております」
言うが早いか、北の白い魔女が杖を掲げると、全身が白い光包まれ、あっという間に消えてしまった。
マンチキン達も、旅の無事を祈りながら、解散していく。
最後にマンチキンのかわいらしい女の子が一人近づいてくると、小さな紙袋と胡椒瓶を差し出した。
「胡椒瓶は、東の魔女が倒れていたあたりに落ちていたわ」
紙袋には、さっきのお菓子とお茶のはいった水筒、そして、胡椒瓶は銀色に光る粉末が入っている。瓶には黄色い紙が貼ってあり、何か書かれているが残念なことに文字は多分ルーン文字だ。読めるわけがない。
「なんだろうこれ?」
俺が訪ねると、マンチキンの女の子が首をかしげ、
「文字が読めないの?"生命の粉"って書いてあるわ」
生命の粉!確か、カボチャ頭のジャックに振りかける奴だよね。
俺が礼を言うと、女の子はかわいらしくお辞儀をして、お母さんの方へとかけていった。
さて、何はともあれ、出発しますか。
俺が体を上に伸ばして首を回すと、軽やかな羽音共に、ドラゴンが飛んできて頭にとまり、一声鳴いた。
なぜ、そこが定位置なのかね。
また、炎を吐いたり、叫んだりするとやっかいなので、ドラゴンは頭にのせたまま、俺はバニラトラックへと歩き出した。
To be continued.
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