オレたちゃ、ワル
山狩りに参加した大半はあのクサレ代議士のことも好きではなかったが、俺たちの眼の前にぶら下げられた報奨金のせいで熱が入っている。
さりげなく周囲の連中から離れ、俺は秘密の場所へと向かう。
俺とこんが昔よく遊んでいたあの場所へ。
こんは偶に人に化けることはあるが、悪い狐ではなかった。
それどころか、こんにいつも野菜やら釣った魚やらを分ける村人には、畑仕事を手伝うこともあった。
こんが年を重ね、化ける姿が少女から大人の女へと変わると、下衆な妄想に取り憑かれた男に追われることもあったが、いつも見事に逃げおおせて、俺たちに酒の肴となる笑い話を提供した。
こんに恥をかかされた男の中にはこんを逆恨みする恥の上塗り野郎もいたが、こんの味方をする村人も少なくなく、こんが傷つくことはなかった。
しばらく見なかったこんの噂が再び出回るようになってすぐだった。あのクサレのバカ息子が死んだのは。
バカの車にこんがよく化ける女によく似た美女が乗るのを見たという目撃証言や、命と一緒に人の尊厳も失くしたバカの死に様現場に残っていた狐の足跡のせいで、バカの死因はこんのせいにされた。
で、怒り狂ったクサレが山狩りを依頼した。懸賞金をかけて。
「こん!」
あの場所の近く、雨のときによく一緒に遊んだ洞穴に、傷ついたこんがいた。
素人目にも助からない傷だった。
こんは息も絶え絶えに、事の顛末を語る。
こんの夫狐がバカに轢き殺されたこと。
その仇を取ろうとバカを誘い出したこと。
ただ、バカに恐らくスタンガンを当てられて、何もできなかったこと。
同じ化け狐である夫の怨念がバカを取り殺したこと。
バカが尻もちをついたその場所に筍が育ち、結果的に串刺しとなったのは偶然だったこと。
そしてこんは最期に俺にこう頼んだ。
「こどもたちを、たのみます」
そんな願いを聞き入れないわけにはいかないじゃないか。初恋の相手だったんだからさ。
遠いあの日、人と狐は
こんに夫ができていたのは軽くショックではあったけど、それでもその子供たちを俺に託してくれたことは純粋に嬉しかった。
俺はこんを秘密の場所に埋めて丁寧に弔い、こんの子供たちを見守りながら生活する――そんなめでたしめでたしで終わるはずだった。
俺がもっと賢ければ。
こんが全く見つからないことに腹を立てたあのクサレが、やり方を変えていたのだ。
こんと親しくしていた連中がこんを匿っていると決めつけ、こんに恥をかかされた連中に金を握らせ、俺たちのようなこん派の村人を見張らせていたのだ。
山狩りなんてもうとうに解散し、すっかり油断していた俺はその日もいつも通りにこんの墓参りとこんの子供たちの様子を見に山へと登った。
自分がつけられているだなどと考えもせず。
そして、こんの墓の前で手を合わせている所を取り押さえられた。
金に目がくらんだ連中ってのは人を捨てる。
俺はそこで動けなくなるほど殴られ、こんの墓を掘り返され、こんの亡骸は持ち去られてしまった。
意識を取り戻したとき、頬に夜露が落ちたと感じたのは、こんの子供たちが舐めた舌だった。
不幸中の幸いは、俺が最初に墓参りをしたおかげでこんの子供たちの存在に気づかれず、彼らが無事だったこと。
俺はこんの子供たちにしばらくは身を隠すようにと、人里にも近づかないようにと伝えた。
それからなんとか自力で下山し、救急車を呼んで入院した。
金に目がくらんでこんの墓を暴いた連中全員の面を、俺は決して忘れない。
退院した俺は体を鍛え、そのスジの知り合いを作り、作戦を練った。
そしてこんの子供たちを迎えに行く。
人の武器の使い方と、そして人の急所とを教える。
それからさらに訓練と準備とを重ねて今夜、俺たちは決行する。
「いいか野郎ども!」
「おうっ!」
「はいっ!」
「あいっ!」
「俺たちゃ悪だ! 繰り返せ!」
「「「オレたちゃ、ワルだ!」」」
「情け容赦かけるんじゃねぇ!」
「「「ナサケ、ヨウシャ、かけるんじゃねぇ!」」」
「絶対仇を取るぞ!」
「「「ゼッタイ、カタキをとるぞ!」」」
「よしっ行くぞ!」
「おうっ!」
「はいっ!」
「あいっ!」
さあ、今夜はゴミ掃除だ。
<終>
化け狐
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