五限と六限の間
「ネット通販ってあるじゃないですか」
流石にこうも休み時間に、毎度毎度絡んでいると藤ヶ谷君にも疲れが出ているようで、視線だけで「なんだ」と私に問いかけた
ここまでバッチリアイコンタクトが取れるとは、たとえあまり歓迎されていない視線でもうれしいものですね
それはさておき
「あれって便利ですけど、私とは相容れないんですよね」
「俺はそれなりに使っているが、かなり便利だぞ。家から出なくて買い物ができるのはかなり楽だ」
「うーん、便利なのはわかるんですけど、欲しいものは現物を見て買いたい派なんですよ」
「まぁ一定層はいるな、そういう人たち。あと現物見ないと不安とかな。俺も慣れるまではそうだったし」
「分かってくれますか。あと、便利すぎて苦手なんですよ」
「…悪い、そこは分からない。昔の方がよかった、みたいなニュアンスか?」
それならギリギリ理解できるが、と疲れを隠そうともしない目で見る。そんな目になりながらも付き合ってくれる藤ヶ谷君は、私のことやっぱり好きなんじゃないのでしょうか
「何と言いますか、ちょっと不便なくらいが良くないですか?」
「良くないから便利になったんだろ」
「便利すぎると味気ないと思いません?ゲームとかで、バグ技使ってクリアしても虚しいだけじゃないですか。それと同じですよ」
「多分同じじゃ無い気がするがな。娯楽と買い物は別だろ」
「同じですよ。私にとって買い物って、お店に行って商品を見て回ってあれこれ想像してレジに並んでお金を払って袋を提げて家に帰る、この一連の行動すべて含めて買い物という娯楽なんですよ」
「…あー、ショッピング自体が好きな人種か。無駄遣いが多そうだな」
「否定はしません。ネット通販はその買い物という娯楽から楽しさを何割か差し引いているんです。例えるならそう、登山、頑張って歩いて上った時の達成感と移り変わる景色、それが醍醐味じゃないですか、でもネット通販はヘリコプターで山頂までひとっとびして景色だけ見るって感じですよ」
「俺はヘリの方が良いな」
「まぁ歩きとヘリの二択だったら私もヘリですけど」
「主張ブレてるな。まぁ言わんとすることはやっとわかった、その不便さも醍醐味、という話だろ」
「そうなんです。ほら見てください、このアジの開きのキーホルダーだって、なんとなく買い物に出かけた時に見つけたお店で買ったんです。こういう想いもよらなかった可愛いものとの出会いは、通販では味わえませんよ」
「アジの開き…」
「あ、そうだ忘れてました。藤ヶ谷君にも買ってあるんです。ほら、カレイの煮つけのストラップ」
「カレイの煮つけ…」
「藤ヶ谷君は普段からムスッとしてますから、こういう可愛いものを身につけて、少し柔らかくするといいと思いまして」
「俺のためを思ってくれたことは感謝するが、どこからツッコめばいいのか」
私の今のやり取りにツッコミを入れる箇所なんてありましたっけ
笑いながら藤ヶ谷君にストラップを渡して、早速つけるよう促した
「やっぱり想像通りです。なんの変哲も可愛げもない藤ヶ谷君の筆箱が、カレイの煮つけによって華やかさが増しましたね」
「茶色なんだが」
私はストラップを指で弄りながら頬を綻ばせる
「こういう買い物のセンスを磨くのも通販じゃできませんよね」
「…今度から通販を使いなさい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます