Section11『リミット・オーバー』~時系列『現在』~

――499――


 バーンズは三人に銃を向けられた状態でも余裕の態度で、むしろ表情には笑みさえ浮かべている。


「ドールズが揃ったか」


 フィオラはすかさずスタームルガーP95拳銃を抜き、かばうようにバーンズの前に立った。


「完全にバーンズのモノに成り下がったか! フィオラ・ウィリアムズ!」

 専用武器の拳銃を構えながらハーヴが吐き捨てる。


 フィオラは沈黙を返事にした。

 バーンズは自分を守護するフィオラとそれに対峙するドールズの面々を交互に見てはぁと息を吐いた。


「ウィリアムズくんはまだ、わかりやすいな。この子の望んでいることはカイルくんとの個人的な決着。……むしろ不思議でたまらないのは君たちの方だ、ドールズ」


 バーンズは前のフィオラに割り込むようにしてドールズの前に立った。向けられた銃口には意にも介せないように。

 フィオラの銃口が渋々といった感じに下ろされることを確認すると、バーンズは続けた。


「私にはね、まぁあれを起こした張本人が言うのも恐れ多いが、あの現状になってもなお、アメリカに忠誠を誓う君たちの心情が理解できないのだよ」


「よせ、耳を傾けるな! ハーヴ!」


 ベッドに繋がれているカイルが何かを察し、口を挟む。


「そう言うなカイルくん。私は至極当然の事を言っている」


 バーンズは微笑みながら優しく諭すと続けた。


「私が思うに、君たちデザイナー・ベイビーは遺伝子レベルに「愛国心」が刻まれているようにも窺えるが、どうだね? 私と敵対していることも、アメリカを守っているのも、すべて操作されている……そうは思わないか?」


 ハーヴの銃口はガクガクと揺らいでいた。それは共にバーンズに銃口を向けているジェーンやレイもそうだった。

 恐怖心によるものか? ハーヴはそう思ったがそれ以前の話だ。自分の存在意義アイデンティティがもろく崩れ去ろうとしている。そんな漠然とした不安に囚われた。



「さて、君たちが連合国リ・アメリカを守る理由はなんだ?」


 かちり、と撃鉄を倒す鋭い音がハーブの背後に響き渡った。


「貴様たちはここで最後だ」


 ジャック・フリンのしわがれた声が後ろから聞こえる。


「それでは私はこれにて失礼するよ、諸君らと遊んでいる暇もそんなにないのでね」


 まるで少しばかり席を外すよろしくバーンズは手に持っていた回転式拳銃リボルバーをホルスターに収め、出入り口のドールズの三人の横を通り過ぎた。


「フリン、後は頼むぞ」


 その三人に銃を向ける使いにそう言うと部屋を出る。


――400――


 カイルは焦りを隠せないでいた。ジョンが戦意喪失、ハーヴとジェーン、レイもだ。残るは手錠で繋がれたおれとミラだけ。


 そこで動きがある。ごんという鈍い音が聞こえた後、フリンが突っ伏して倒れていた。見るとクレア・ヘンドリクスが鉄パイプを持って佇んでいた。


 すかさずミラはフィオラの持つ拳銃を捻じり取り、顔面に一発お見舞いした。

 フィオラが倒れる。


 クレアが「ああ、やっちゃった!」と鉄パイプを取り落した。


「あんたなんなんだよ?」


 カイルが困惑気味に叫ぶ。


「ASFの潜入工作員よ! ほら、こいつらが倒れている間にとっとと行くよ!」


――299――


 アンジェリカ・クラーク司令の乗せたVTOL機は急速に島に近づいていた。


 島に近づく度に機内はがたがたと振動が来る。


「もっと近づけないの?」


 司令がそううながす。パイロットは、


「やってみせますぜ……!」


 と歯をぎりぎりと噛み、機体を近づけた。


――199――


 カイル一同はマップを頼りに脱出ポイントまで急いでいた。


 カイルはハーヴに肩を貸して歩くのがやっとで、ジェーンとレイ、ミラが背後に追従している。


 ジョンとクレアは先頭を歩いていた。


 敵兵と呼べる者は不気味なほど居らず、ただ薄暗い空間を陣を組んで走っている。


 ジョンがヘリポートに繋がるドアを蹴り開ける。


 大雨が一同を襲った。


「VTOL機は……!」


 ジョンは発煙筒フレアを擦り、辺りを見渡す。


「おやおや……! どこに逃げると言うんだね? ドールズ諸君」


 背後からねっとりとした声が聞こえる。


 ヴィクター・バーンズだった。


 ジェーンが地面を蹴り、専用武器パーソナル・ウェポンであるNナックル・ブラスターを構えながら、バーンズに突進した。


 この武器は拳を突き出すと弾が射出される仕組みの銃だ。


 バーンズは背を屈め、拳を躱すと、ジェーンの首を掴む。


「ジェーンを離せ!」


 ミラがガバメント・カスタムを構えながら言う。


「ああ、そうしよう」


 バーンズはそう言うと、ジェーンの首を締め上げへし折った。


 力を無くしたジェーンの骸がへたりと地面に倒れる。


「ほら? 離してやったぞ」


 ミラが叫びながらガバメントをバーンズに連射した。


 バーンズも弾道をかわしつつ、M500回転式拳銃を一発、二発、三発と連射した。


 三発目でミラの心臓部に弾丸が直撃する。


 ミラは「ぐぅ!」と言い、地面に倒れた。


「ミラ!」カイルとジョンが同時に叫ぶ。


 その時、雨の中に銃声が聞こえバーンズの回転式拳銃リボルバーが弾け飛んだ。


 バーンズがその方を見ると、VTOL機が頭上を飛んでいく。


〈私の子に手を出さないでくれる?〉


 クラーク司令の鋭い声がスピーカーを通じ響き渡った。


 救援が来たのだ。


「『私の子』か……、なるほど」


 バーンズはそう独り言ち、ミラの骸の首を持ち上げた。


 そして何を思ったか、カイルを担いでいるハーヴの元に凄まじいスピードで来ると掌打(しょうだ)でハーヴを突き飛ばし、カイルを担ぎ上げる。



「アンジェリカ、この子が欲しいと言うならば、私を追いに来い!」


 そしてジョンが先刻蹴り開けた脱出口に消えていった。


 VTOL機のハッチが開かれ、クラーク司令がPSG-1狙撃銃を持って出迎える。


「ヒビキ少尉、マークス上等兵、スピード二等兵、ヘンドリクス、無事ね?」


「カイルが……!」


 ジョンが言う。


「これ以上はこの機体が持たないの、脱出するわ」


 クラーク司令がそう告げて、機体のハッチを閉めた。


 ジョンはぐったりと疲労感が蝕むのを実感した。


 おそらく、あの局面で最も勇気のある啖呵を切ったカイルと……そしてミラ。


 ミラが死んだ? バーンズの放った凶弾はたしかにミラの心臓部に着弾していた。


 嘘だ、そんなはずはない。彼女が死ぬわけがない。


 カイルもだ、狙撃手たる彼の安否は……?


 深い絶望感に囚われたままジョンの乗るVTOL機は本国へ帰還しようとしていた。



――000――


 生存者――3/8人。

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