第4話 きっかけから繋がる世界の危機
「クリード殿下から、世界を守る……とは、何でしょうか……」
わたしの必死の問いに、ふむ、と陛下は手を顎に当てて思案した。
どこから話したものか、みたいな顔をしている。
「クリードは、稀有な魔力量を持っていてな。全属性の魔法適正があり、数多の妖精の寵愛を得ている」
「そ、そうなのですか……」
魔法を使うには2つ方法がある。
1つは自身の魔力を使うこと。
火や水、風や土など各々扱える属性がある程度決められており、全属性の魔法を使える人間はとても重宝される。
もう1つは、妖精の力を借りること。
契約することもできるし、好かれていれば勝手に魔法で助けてくれることもある。
大体は1つの種族の妖精しか契約できないし、好かれない。
種族関係なく寵愛を受ける人は滅多におらず、時代のよってばらつきはあるものの、たいてい1000年に1人いるかどうかと言われている。
つまりクリード殿下の恵まれっぷりは異常だ。
いっそ物語の設定と言ってしまったらすんなりと信じられますね!
なんて言えずにわたしは相槌を繰り返した。
「だからか、クリードの感情に対して妖精たちが過敏に反応してしまう。
笑顔であれば空は晴れ渡り、悲しめば大雨となる」
「は、はあ……」
「今後クリードがおぬしと関わってしまえば、薬師の仕事にも、クリード自身の将来の婚姻にも影響が出る。
だから、クリードには『彼女と会ってはいけない』と言ったのだが……」
「……はい」
「伝えたその晩、メーメラ火山が噴火してしまった」
「……え?」
確かメーメラ火山はミリステア魔王国 南部の休火山。
最後に噴火してから1500年以上休止しており、登山すれば絶景が見られると有名な山だったはず。
その火山が予兆なく噴火?
「火山の麓には街があったはずです。被害はないのですか……?」
「……うむ、風向きや溶岩が海側だったことが幸いして火山灰が降り始める前にほとんどの民が隣街に避難できたからな、今のところ死者はいない」
「そう……ですか」
「おそらくクリードの怒りに反応したのだろう。怒りは火の妖精が強く反応するからな」
「…………」
「万一心を病んでしまうようなことがあれば、すべての妖精が反応するだろう。
そうすればこの国どころか、最悪世界中が未曽有の危機に瀕する」
何て面倒な人なんだ……。
でも、陛下が言わんとしていることはやっと理解ができた。
「つまり、わたしはクリード殿下の精神状態を良好に保てるよう努めて交流させていただく、ということでしょうか」
「ああ、そうだ。やってくれるな」
「……はい」
拒否権なんてないじゃないか。
断って国を追い出されるようなことだけは絶対に嫌だったわたしは、できるかぎり感情を表にださないように了承した。
「ああ見えて奴は、少し癖があるからな……。
困ったことがあれば必ず周りに相談してくれ、わしの耳にも入れるよう命じている」
「ありがとうございます」
「苦労させるが、これからよろしく頼む」
そう言い残して出ていく姿を見送り、わたしは侍従と薬師院に戻る。
そこには既に、恐ろしい光景が広がっていた。
「メイシィ!待っていたよ」
「……………クリード殿下!?」
カチカチに固まるマリウスと、ひたすら困った顔をするミカルガさん。
その間に挟まれて優雅にお茶を飲むのは、煌びやかな顔を振りまくクリード殿下だった。
「ああ、やっと会えたねメイシィ」
「あ、え、っと、」
「私の名前はクリード・ファン・ミリステア。君にどうしてもお礼が言いたかったんだ」
「わたしはメイシィと申します。お礼、でございますか?」
「ああ、君が看病してくれたおかげでこうして熱が下がった。
君はわたしの女神だ、メイシィ!」
うわあああ。
あの言葉、寝ぼけたんじゃなかったのか。
わたしの両手を握って、にっこりと笑う。
それが初めて見た王族スマイル、というやつだった。
っというか看病してない。
ただ機器で首元つんつんしてただけだから、ぶっちゃけ安眠を阻害してたから。
「はあ……」
「何か欲しいものはあるかい?食べたいものはあるかな?」
「え、いや……特には……お気持ちだけで充分です」
「え……ないのかい……?」
突然変わる淀んだ空気。
わたしの手を握ったまま震えだすクリード殿下。
後ろに見える侍女、クレアの顔色が変わる。
ガタリと音がして振り向くと、ミカルゲさんが老体にしては素早い動きで立ち上がった。
「クリード殿下、メイシィは突然のことで驚いているのです」
「そ、そうだったか、確かに突然訪問してしまったから……」
ふわっと空気が元に戻った。
そう、その後わたしは知ったのだ。
この空気の違いが、彼の『病み』スイッチであると。
「すまないね。次に会うときにお礼の品を考えてくれないかい?楽しみにしているよ」
「殿下、そろそろお時間です」
「そうだね、じゃあ私は失礼するよ。またね、メイシィ」
「は、はい」
そう言い残して、クリード殿下とクレアは去っていった。
颯爽と歩いていく姿、大股でなんだか陛下と似ている。
やっぱり親子なんだなーと思っていると。
「「はあああ」」
ため息をつく同僚と上司がいた。
「ミカルガさん、わたし」
「みなまで言う必要はない」
「……すみません」
「謝る必要もない……むしろ、謝るのはわたしの方だ」
君を同行させなければ、こんなことには。
ミカルガさんの言葉は、珍しく静かな執務室に響いていった。
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