全ては悪魔の掌の上
沢丸 和希
第一章
とある新月の夜、少女は紋章を描く。
新月の夜は、闇だけでなく、静けさも深さを増す。
寂れた村からも、広がる田畑からも、近くの森からも、生き物の気配が薄くなった。息を潜め、身を縮め、太陽が現れる時を只管待ち侘びる。
そんな中で、村はずれのあばら屋からだけは、薄っすらと灯りが漏れていた。
蝋燭の炎は、狭く埃だらけの屋根裏部屋を、ぼんやりと照らし出す。至る所に大量のキャンバスが置かれ、机の上には筆や鉛筆、絵の具などが散乱していた。天井に張り巡らされた麻紐には、モノクロ写真がいくつも吊してある。
部屋の真ん中には、十三・四歳程の少女が座っていた。
適当に纏めた髪を背中へ流し、体に合わぬ大きなエプロンを纏っている。
吊り上がり気味の目は、イーゼルに乗せたキャンバスへ向けられていた。描き途中の風景画をしばし見つめ、かと思えば、握っていた筆を、徐に画面へ置く。
赤い絵の具で、大きな円を描いた。
更に、逆五芒星や古代文字を、膝に置いた本のページを何度も確認しながら、描き込んでいく。
本には、どこか禍々しい紋章が載っていた。
紋章の下には、こう書かれている。
『悪魔を召喚する方法』、と。
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