第7話 王都アイデン

ソウが目を覚ました時、視線の先は見知らぬ天井だった。


「ん?ここはどこだ、たしかフォレストベアとの戦いで、あっ、マインは??」


ソウが思い出したかのように言う。


「起きたのか、ソウ。」


ソウに返事をしたのは、良く門にいた騎士だった。


「こっちもよく状況はわかってなくてな。こっちの報告によれば、フォレストベアの死体と男の子の死体があり、その横にソウが倒れたっていう報告だった。お前の反応からするにあれはやはりマインだったのか。ソウ、大丈夫か?」


毎日一緒に外に狩りに出ていた姿から相当仲が良かった2人だ。ショックは相当なものだろう。そんなソウを少しでも気遣うように言った。


「大丈夫ではないが、俺にはやらなきゃならないことがあるんだ。」

「そうか、まああまり思い詰めたりするなよ。あと、もう夜だ。宿まで送って行こう。」


門の詰所から宿までを暗い中歩く。大丈夫だとは口で言ったが、まだあまり喋る気にはならなかった。


次の日の朝になり。いつも通りトレーニングをして、朝食を取る。いつもと同じはず。ただこの2ヶ月はマインが一緒だっただけ。


「あれ今日はマインくんいないの?」


宿の娘にそんなことを聞かれる。

「ああ、マインは、死んだんだ。」

「え、、すいません、そんなこと聞いて」


自分で言っておきながら、自分の言葉でそれをまた実感してしまう。もういないのだと、しかしこれを超えなければならない。

普段より全く気分は乗らなかったが魔物狩り以外のトレーニングはしっかり行った。さすがに、昨日の今日では街の外には行けない。しかし、いくら気分が乗らなくても、トレーニングはやらなければならない努力をやめてはならない。もうソウ1人の野望ではなくなってしまったから。その気持ちがなかったら、心が折れてしまいそうな気すら感じられた。ソウはその日の布団の中で少し昨日のことを考えていた。


「でも、昨日はどうやってフォレストベアを倒したんだろ」


ソウは少しフォレストベアを倒した部分の記憶が曖昧だった。倒したことをぼんやりとは覚えているが、鮮明ではない。ただ、何かすごい力を放っていたのは覚えている。


「もしや、気魔法なのか」


その仮説が立つのは極めて自然な流れであった。自分では理解できない力で強敵を倒せた。そして、ソウにはついこの前理解できない、知らないギフトをもらったのだ。ただ、その直後に気絶するくらいに無理をした使い方だったため、よく覚えていないんだろう。しかし、これは案外良いギフトなのかもしれない、そんなことを考えながら、眠りについた。


「いでよ、気魔法、いでよ、気魔法」

「んーー、なんで発動しないんだ。」


ソウは早速裏庭で気魔法を出すため試行錯誤していた。しかし、全く気魔法なんてものは出なかった。発動しない魔法をいくらやっても埒があかないため、普段のトレーニングに戻ることにした。


そして、1ヶ月の月日が流れた。


「おーー、ここが王都か、物凄い広さだ」

ソウは、フィエルテ魔法騎士学校の入学試験を受けるため、王都アイデンに来ていた。

「まずは、宿でも探すか」

ソウが王都の街並みを眺めていると、後ろから何やら大層な行列が来ているのが見えた。以前儀式でみたローザの街を治めている伯爵のご令嬢だった。


「あー、あれは、確か、アルフレッド伯爵の令嬢とか言ったっけ」


馬車がソウの前を過ぎ去る時、一瞬見えた。

その一瞬だけで、令嬢のもつ気品や美しさを理解するのには十分だった。


「あれで、ギフトが上級火魔法、上級風魔法、光魔法っていうんだから、どれだけ前世で徳を積んだんだか」


ソウは、ご令嬢のもらったギフトを覚えていた。何せあの時の儀式で確実に一番良いギフトだったのだから、あの場にいた人は皆覚えているだろう。


「まあいい、とりあえず入学試験に集中だ。10日後には試験だ、現地の確認でもしておくか」


ソウは、その後フィエルテ魔法騎士学校を見に来ていた。王都の南門から歩いて1時間ほどの時間を要した。


「これが街の中か、遠すぎて逆に不便だな、それにしてもこれがフィエルテ魔法騎士学校か」


そこには、フィエルテの制服を着ている人が何人か見られた。そして、学校の領地を表す広大な土地、侵入者を拒む巨大な壁、開け閉めにも何人も必要なんじゃないかと想像されるほど大きな門、そこに掲げられている旗。まさに、その中は一つの国家であるかのような。そんな印象を抱かせる。


「よっしゃ、より一層やる気が湧いてきた」


試験を約1週間後に控え、実際のフィエルテ魔法騎士学校を見たことで試験に向け気持ちを高まらせるそうであった。


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