死人に口無
斎藤遥
2016年9月21日
個室のドアを開けると、鼻チューブを付けたハル……
黒々とした髪と黄色く染まった痩せ細った顔を葉が枯れて落ちた木と煌々と輝く月が見える外へと向けている。
「ハル……?」
僕……
「コウ、待ってたよ」
僕を愛おしそうな瞳で見るハルは胸に抱えていたラッピングされた箱を僕に渡す。
今日は2016年9月21日……僕の誕生日でもないし、付き合った記念日とも関係ない、何でもない日のはず。
むしろ、退院祝いに僕がプレゼントを持ってきたくらいなんだけど。
「じゃあ、僕からも」
ハルから受け取った後、僕は静かにハルの膝にプレゼントを置く。
脇に置いてあるパイプ椅子に座ってから、ラッピングを解き、箱を慎重に開けた。
中には金色に光る十字架のペンダントが入っていた。
「わぁ、俺の欲しかったやつ!」
ふふっと笑うハルは銀色に光るケルベロスのブレスレットを興奮ぎみに付ける。
「こんなの、僕が付けたって」
箱にしまいそうになる僕の手を細い手が止めた。
「コウは可愛いよ……俺が魔法をかけてあげる」
優しく微笑むハルに僕は見惚れてしまう。
僕は引き寄せられるようにハルへと近づいていくと、ハルの手は僕の首の後ろへと回る。
くすぐったくて目を閉じると、額に柔らかい感触を覚えた。
びっくりして目を開けたら、ハルはキラキラな瞳を僕に向けていた。
「ほら、より可愛くなった」
僕は一気に顔が熱くなったんだ。
「コウ……僕、とっても幸せなんだ」
またハルは大きい前歯を見せて笑う。
なんで?と聞く前に早とちりのハルはもう口を開く。
「だってね、コウとつながってるから」
ハルは僕の金色の十字架のペンダントとハルのケルベロスのブレスレットを指さした。
「あとね、気持ちも……ね?」
僕の胸に手を当て、目が無くなるくらい笑うハルに、思わずうなずいてしまう。
「はなればなれになっても、いつも一緒だから」
胸にあったはずの手が、今度は僕の頭を撫でる。
このまま、帰れなくなってしまえばいい。
ハルとずっといられるなら、死んでもいいんだ。
「ねぇ、コウ」
優しく呼びかけてくれるカフェラテのような声に引き寄せられて顔を見ると、陽だまりの瞳に照らされる。
「愛してるよ」
ああ、溶けてしまいそうだ。
身体も心も熱くてたまらないよ。
「コウ、コウ、コウ……」
ハルに名前を呼ばれるたびに僕は本当に溶けてしまったのか、まばゆい光に包まれるように目の前が白くなっていった。
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