蠱毒

@siroutousagi

第1話 ワタシと彼

彼のことは、いつも教室の後ろから見るだけでだったが

どこか目の離せない

そんな雰囲気を持つ人だった。


---------------------------------------------------------------------------------------------------


昼休みが近づくにつれて活気ずく教室

4時限目の授業が終わる頃には、すでに教室の男子達は誰が一番早く

体育館に行くかを頭の中で競っているのである。

しかし、そんな騒がしい中でも

彼の周りだけは、空気が違っているのように感じるのは私だけではないだろう


「ねえねえ」

声の方向へ振り向くと、ニヤケ顔の同級生がこちらを見ていた

「あんた、いっつもアイツのこと見てない?」

「ひょっとしてー好きなの?」


彼女は、澤田 未来

入学時から、私によく話しかけてくる

多少、不良っぽい見た目だが

特に避ける理由もないので、話していると

いわゆる友達のような関係になった。


「ちがうよ。」

「ただ、何となく、、さ、、」

私は、少し口を紡いでしまった。

未来は、そんな私の姿を見て

飴玉をもらった幼稚園児のように瞳を輝かせていた。

「えー!!なになに?

照れなくていいじゃんか〜〜」

「恋ー?恋なのかー?」


どうしてか、最近はなんでも恋に結びつけたがることが流行っているらしい

誰かが異性を見るたびに、クラス中がそのような話になっていることに

未来も当てられたのだろう。

「違うの。ただ、、さ」

「彼ってなんか、いつも一人じゃない?」

そんな私の疑問を聞いて、一瞬未来の顔が曇る

そして、私の耳元に顔を近づけてささやいたのだった。


「あいつさー。クラスの男子にいじめられてるらしいよ」


賑やかな教室で、彼のどこか寂しげな瞳が

妙に私の脳に焼き付くのであった。



「はい。それでは今日のクラブはここまで」

教卓の先生が終了の一声をかけると同時に、生徒は蜘蛛の子が散るように

教室から飛び出て行った。

『生徒の社会生活の助けになるため』そんな名目で、毎週金曜日に

生徒達は、科目を一つ選択して参加することになっている。

ただ私たちのような学生に、社会生活に対しての学習意欲など皆無で

結果、睡眠時間として生徒達に有効利用されている。


私も、一足遅れて教室から出ようとした時

他の生徒と入れ替わるように、彼が入ってきた。

彼は教室の机の中に一つずつ手を入れて

何かを探している様子だった。

「ねえ、何か探しているの?」

彼は、探している手を止め

私の方をただ見つめていた。


「っあ!ごめんね。急に話しかけて」

「机の中見て回っていたから、何かあったのかなって、、」

彼は、私の足元に目を落とし小さな声で話し出した

「人間はさ、、」

「面白い生き物だとは思わない?」


私は、唐突な質問に唖然とした。

もしかしたら、無意識に変な質問をしてしまったのかと考えたが

明らかに私の質問とは趣向の違った内容だった。

「どういうこと?」

私は、困惑しながらも聞き返した。

そんな戸惑っている私を見て、彼は私の目を真っ直ぐ見つめて

話し出した。


「僕はね。人間の奥底には何か、、」

「すごく恐ろしいものが隠れていると思うんだ。」

「君はこの学校は好きかい?」


私は、なぜ自分が質問されているのか疑問に思いつつ

彼の質問に答えた。

「学校は好きだよ。」

「友達と会えるし、勉強もそこまで嫌いじゃないから」

彼は、少し驚いたような顔をして、また話し出した

「僕もね、この学校のこと好きなんだ」

「クラスメイトも先生も、みんな大好きなんだ」


窓から差し込む夕焼けが、彼の頬を照らす

そのせいか、彼が少し楽しそうに話しているようにも見えるが

私は彼の目の奥にある、真っ暗な瞳が

同級生が冗談を話すそれとは、全く違う種類のものと感じた。


「でもね、誰もがみんな一応に毒を募らせて生きている。」

「それって、どういうことかわかる?」


私は、少し考え頭を整理して答えた。

「人間はみんな負の感情を持っているってこと?」

「誰かを恨んだり、憎んだりするってことだよね?」


私の答えを聞いて彼は、続けた。

「その通り!」

「僕は、人間の本質は、、、だと思う」


彼の声は教室に入り込む風の音でうまく聞き取れなかった。

私はすぐに聞き返したが、彼はしばらく黙った後で


「僕は昔から、人の奥底にあるものを見抜くのが得意なんだ」

「きっと、君は僕と同じだよ」


彼は、そう言って教室から出て行ってしまった。

きっと、彼は人と離さないから、言葉のキャッチボールを忘れてしまったのかもしれない。

そんなことを考えながら、誰もいない教室の窓を閉めて私も教室を後にした。


帰り道

”きっと、君は僕と同じだよ”

彼の最後に言ったその言葉が妙に頭から離れないのであった。

「もう、彼と話すのはやめよう」

そう呟きながら、無駄に長い学校まえの急斜面を

重い足取りで降っていくのだった。



次の週の朝、教室に入り席につく

クラスメイト同士が相変わらず、何かの話で盛り上がっているようであったが

私はどこか違和感を覚えた。

”いつもと何か違う”

騒がしいのは騒がしいが、何かヒソヒソと小言でも話しているかのような

教室の空気が少し重たい

そんな印象を持った。


「おはよー」

そんなことを考えていると未来が気怠そうな顔をして

登校してきた。

「未来おはよ」

私は、未来に聞いてみることにした。

「ねえ、未来」

「なんか朝、クラスのみんな変じゃない?」

「いつもと様子が違うっていうか」


そう話すと

未来は少し驚いたような顔をして言った。

「え!あんた知らないの?」

「そりゃ騒がしくもなるでしょう」

「あんたがこないだ熱い視線で見つめていた彼、、」

「”亡くなったんだよ”」












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

蠱毒 @siroutousagi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る