旦那様は魔王様1 イケニエになりました!?

狭山ひびき

17歳の誕生日

 十七歳の誕生日の朝。

 わたしは、なぜ両親から愛してもらえなかったかを知りました。

 でも、それでよかったのかもしれません。

 氷のように冷たい目をした、氷のように美しいこの人に、同じく氷のように冷ややかに見下ろされても、わたしはつらくありませんでした。

 愛されないことに、慣れていたから。



 ただ―――



 ほんのちょっとだけ。

 本当にちょっとだけですが。



 悲しいと思ってしまったことだけは、許してください―――



     ※     ※     ※



 誕生日の朝、沙良さらはいつもよりも早く目が覚めた。

 ぼんやりと目を開けてまず視界に飛び込んできたのは、見慣れた暗い天井だった。

 沙良の部屋に、窓はない。

 いや、窓だったものは存在するが、外から板が打ち付けられ、決して開かないようになっている。

 部屋の中はとてもとても広い。

 それは、沙良の家がとても裕福であることに関係があるけれど、他と比べるすべを知らない沙良にとっては、特に何の感慨も持てないことだった。

 広い部屋の壁には、大きな本棚がいくつも並び、ぎっしりと本で埋め尽くされている。

 ベッドがあり、机とソファがあり、一人暮らしの社会人が使うような小さな冷蔵庫と電子レンジがあった。

 さらに続きの部屋にはバスルームとトイレがある。

 沙良は物心ついてからこの方、この部屋から外に出たことはほとんどなかった。

 学校も行ったことはない。

 その代わり、知識はたくさんの本で養った。

 そのせいか、沙良の知識は偏っていて、小学生がするような簡単な計算しかできない。

 そのかわり、歴史や古典は必要以上に詳しかった。

 沙良はベッドボードにあるリモコンで部屋の電気をつけると、ゆっくりと起き上がった。

 今日は十七歳の誕生日だ。

 だが、祝ってくれる人は誰もいない。

 お昼前にお手伝いさんが、小さなケーキを部屋の入口においてくれる。

 今年もおそらく、それだけだろう。




 沙良は、両親から愛されていなかった。

 幸いなことに、両親の顔だけは知っている。

 だが、生まれてこの方、両親とまともに会話をした記憶はなく、優しい瞳で見つめられたこともなかった。

 沙良は、愛が何なのかを知っている。

 部屋にあるいくつもの小説で学んだからだ。

 だが、愛を実感したことは一度もない。




 沙良はベッドから出て、さて今日は何をしようかなと考えた。

 部屋の壁掛け時計の針は、朝の六時を指している。

 昨日お風呂に入る前にうとうとしてしまったから、まずお風呂に入ろうと、沙良は着替えを片手に続き部屋のバスルームに行った。

 バスルームにたくさんある入浴剤のうち、薔薇の香りのバスボムを手に取り、湯を張ったお風呂の中に入れる。

 両親には愛されていないが、モノを与えるのは義務だと思っているのか、こういった女の子らしい小物はたくさん与えられた。

 もちろん、直接手渡してくれるわけではなく、お手伝いさんが部屋の入口の大きな箱の中に、ポンポンと届けくれるだけだが。

 しゅわしゅわとバスボムがとけると、薄いピンク色になったお湯の中に沙良は肩まで使って、ふぅと息を吐きだす。

 今日は誕生日だから、大好きな恋愛小説を読んで、お手伝いさんが届けてくれるだろうケーキを食べて、それから―――

 考えて、沙良の心はしぼんでいく。

 結局、そこにケーキがあるかないかの違いだけで、いつもと何も変わらない。

 沙良はお湯に浮かぶ、自分の長い黒髪をなんとなく指に巻き付けた。

 一年に一度―――誕生日の翌日に、両親が雇った美容師が髪を切りに来る。

 それ以外は伸ばしっぱなしのため、今は背中の半分くらいの長さまで髪が伸びていた。

(あ、新しく届いた小説があった!)

 沙良は、続き物の恋愛小説の最新刊が、昨日、部屋の前の箱に届けられていたことを思い出した。

 そうだ、今日はそれを読もう!

 沈んでいた気持ちがふと浮上して、沙良は鼻歌を歌いながら髪を洗う。

 別に淋しくなんてない。

 ずっと一人だから、慣れている。

 髪を洗い終わりお風呂を出ると、洗面台で髪を乾かす。

 洗面台の鏡に映る自分の顔は、日に当たらないせいか、真っ白だった。

 真っ白な肌に、黒い髪。丸く大きな目に、小さな口。

 この顔は、昔見たことがある母の顔にちょっとだけ似ている。

 この顔が美人なのかそうではないのか、判断基準を持たない沙良にはわからないが、沙良は自分のこの顔が嫌いではなかった。

 沙良は髪を乾かし、櫛で軽く整えると、バスルームから出て、さっそく小説を取りに行こうとした。

 だが、バスルームから一歩出たところで、思わす足を止めた。

 沙良の大きな目が、さらに大きく見開かれる。

 誰もいないはずの部屋の真ん中に、背の高い男が立っていたからだ。

 全身黒衣服を着ていて、ほんの少し長めの髪の先が肩にかかっている。

 沙良が茫然と立ち尽くしていると、男がゆっくりと沙良の方を向いた。

「―――っ」

 沙良は思わず息を呑んだ。

 男は、恐ろしく綺麗だった。

 綺麗、という言葉しか思い浮かばなかった。

 目も、鼻も、口も、すべてが絶妙なバランスで配置され、少し眉間にしわを寄せた神経質そうな眉さえも、その配置だからこそ美しいと思ってしまう。

 だが、綺麗と思うと同時に、背筋が凍りそうなほど冷たいと思った。

「……だ、れ……」

 普段言葉を発する機会がほとんどないため、たったそれだけの言葉を絞り出すのもやっとだった。

 男は大股で沙良に近寄ってくると、茫然としている沙良の左手首をつかんで乱暴に引き寄せた。

 ぐらりと体が前のめりになって、男の胸元にぽすっと顔をうずめてしまう。

 慌てて顔を上げると、氷のような冷たい双眸が見下ろしていた。

 男はじっと沙良を見下ろして、

「貧相だな」

 ぼそりと、特に興味も無さそうに吐き捨てた。

「まあいい、来い」

 ぐいっとまた腕を引かれる。

 後ろ手に沙良の腕を引きながら男が歩きだしたから、沙良は足がもつれて転びそうになった。

「ま、まっ…て」

 必死に沙良が声を絞り出すと、男が足を止めて振り返る。

 止まってくれたことにほっとして、沙良は男を見上げた。

「あなた、誰?」

 訊ねると、男が少し驚いたように目を見開いた。

「聞いていないのか?」

「なに、を?」

 首をかしげると、男はあからさまに面倒そうな顔をして、チッと舌打ちする。

 それから、相変わらず冷たい瞳で沙良を見下ろしてから、告げた。



「お前は俺の生贄だ―――」



     ※     ※     ※



 それは、わたしが産まれる前のことだったそうです。

 あとひと月もしたらわたしが産まれる、そんなとき。

 お母さんは、交通事故にあったらしいです。

 それは夜。

 月がとてもきれいな夜。

 お父さんと、夜、近所の公園までお散歩に出かけていた時のこと。

 急に飛び出してきた一台の車にはねられて、お母さんは、血だらけで、もう意識もなく、このまま息を引き取る―――、そんなとき。

 悪魔と契約、したんだそうです。

 それは、夢のような、本当のお話―――



     ※     ※     ※



 沙良は自分のおかれている状況が理解できず、ぐるぐる回る思考回路を持て余していた。

 ―――ここは、沙良がいた部屋ではない。

 天蓋のついた広いベッド。

真っ黒いソファに、真っ黒い机。

広い部屋。

そして窓の外には、真っ赤な月がぽっかりと浮かんでいた。

沙良はベッドの端にちょこんと座って、もう一時間も、ぐるぐると頭を悩ませていた。

あの、冷たい目をしたあの人は、シヴァと名乗った。

ここはあの人の世界で、あの人の家――城――、らしい。

シヴァは沙良を「生贄」と呼び、問答無用でここに連れてきた。

そして、沙良をこの部屋に押し込め、そのままどこかに消えてしまった。

ここは、沙良のいた「日本」ではないらしい。

日本どころか、沙良のいた世界とも違うそうだ。

何も知らない沙良に、シヴァはイライラしながら、こう告げた。

生贄、だと。

昔、沙良が産まれる前、沙良の両親がシヴァと「契約」したそうだ。

沙良の母親の命を助ける代わりに、沙良を生贄に、と。

沙良が十七になったら、迎えに来ると。

それを聞いて、沙良は驚くより先に、「ああ」と納得してしまった。

(だから、お母さんとお父さんは、わたしを愛してくれなかったんだ……)

 長年、ずっと悩んでいた疑問に、答えが出た。

 悲しくはなかった。

 生まれて十七年、一度も与えてもらえなかった愛情だ。

 いまさら、悲しいとは思わなかった。

 ただ、ちょっとだけ寂しくなって、うつむいた沙良の腕を引き、彼は沙良をこの場所に連れてきた。

 正直、どうやってたどり着いたのか、沙良にはわからない。

 目の前を真っ暗な闇が覆ったかと思えば、次の瞬間にはここにいた。

「生贄……か」

 沙良はぽつんとつぶやいた。

 生贄って何だろう。

 小説の中だったら、殺されて、バリバリ食べられたり、豊穣祈願のため神様にささげられるのだけど、沙良も、そんな扱いなのだろうか?

 よくわからなかったけれど、唯一なんとなくわかっていることは、きっと自分は死ぬんだな、ということだ。

 生贄だから、殺されるのだろう。

 だが、沙良は不思議と怖いとは思わなかった。

 実感がないことも理由なのかもしれないが、生まれてこのから「生きたい」と思ったことがないからだ。

 だからと言って、死にたい、と思ったこともないのだが。

 このまま生きていても意味があるのかな、と漠然と思ったことは何度もある。

 殺されるのなら、できれば、痛くも怖くもないといいな―――、沙良がそう考えたとき、コンコンと部屋の扉が叩かれた。

 返事をしてもいいのか悩んでいると、

「入ってもいいでしょうかぁ」

 少し間延びした明るい声が聞こえてきて、沙良は声を絞り出した。

「は、はい」

 まだ、喋ることには慣れない。舌を噛みそうになる。

「失礼しまぁす」

 そう言って扉から入ってきたのは、真っ赤な髪をツインテールにした十二歳くらいの女の子だった。

 ふっくらした頬がピンク色に染まっていて、とてもかわいい。

 女の子は沙良を見るとにっこり笑った。

「はじめましてぇ! 沙良様のお世話を言いつかりました、ミリーといいまぁす!」

 沙良「様」と言われて、沙良は目を丸くした。

 それと同時に、好意的な笑顔を向けられたのははじめてで、どうしたらいいのかわからなくなる。

 おろおろしていると、ミリーがとことこ近づいてきて、沙良の顔を覗き込んだ。

「どうしましたぁ? 沙良様ぁ」

 かわいい。

 まるでお人形のようなミリーに、思わず沙良は抱きしめたくなるような衝動を覚えた。

 ついさっきまで暮らしていた部屋においてあったテディベアを抱きしめたくなるのと同じ心境だ。

「あ、あの、ミリーさん」

「ミリーでいいですよぉ」

「は、はい。ミリー。あの……、わたしの、お世話というのは……?」

 喋り慣れないから、ゆっくりと、たどたどしく話す沙良にも、ミリーは嫌な顔をしなかった。

「身の回りのお世話ですよぉ? あ、お茶煎れますね」

 ミリーはパタパタと部屋の隅の棚まで駆けていって、備え付けてあった茶葉とティーポットを取り出した。

 水差しを取ると、ティーポットに茶葉を入れ、水差しから直接水を注ぎはじめた。

 水で入れるお茶なのだろうか、と少し不思議に思って、沙良はミリーの動作を見つめる。

 やがてティーカップを持ってミリーが戻ってくると、差し出されたカップを見て、沙良は愕然とした。

 湯気が立っている。

 カップが温かい。

「え?」

 自分用のカップを持って、沙良の隣に腰を下ろしたミリーを見て、また手元のカップを見て、沙良は首をひねった。

「どうしましたぁ?」

 琥珀色のお茶を飲みながら、ミリーが不思議そうな顔をする。

「紅茶、嫌いでしたかぁ?」

「う、ううん、嫌いじゃないです……けど」

「けど?」

「どうして、暖かいんでしょうか……」

「え? 冷たい方がよかったですかぁ?」

「あ、そういうことじゃ、ないんですけど……」

 うまく伝えられなくて、どうしよう、と悩んでいると、ミリーが「ああ」と何かに気が付いたように頷いた。

「そっかぁ、魔法、はじめてですか?」

「まほう?」

 それはあれだ。

 小説の中に出てきた、手品みたいなすごい技だ。

 だが、言葉は聞いたことがあるが、実際に見たことはもちろんない。

「お水、沸かしただけですよ。ティーポットにそそぐときに、お湯に変えたんですぅ」

「お湯に……」

「この世界じゃ、当たり前のことなので、慣れてくださいね?」

「あ……、はい」

 慣れろと言われて、すぐに順応できるとは思えないが、沙良は、とりあえず頷いた。

(よくわかんないけど……、きっと、ここではこれが普通?)

 恐る恐るティーカップに口をつけて、沙良は入れてもらった紅茶を飲む。ほんのり甘くて、ほっとする味だった。

 いろいろあって緊張していた体が、少しだけ落ち着く。

「あとで、お昼ごはんももってきますね? 今日、お誕生日って聞いてますんで、すっごい大きなケーキも用意しますぅ」

「え?」

 大きなケーキ。

 それはとても魅力的だが、沙良はそれよりも別のことに驚いた。

「おひる、ごはん……?」

 窓の外には月が昇っていた。

 すごく大きな真っ赤な月で、あたりはかなり明るいが、あれは月だ。

「夜、ごはんじゃなく、て?」

「ん? 今、お昼ですよ? 明るいでしょ?」

 いやいやいや―――

 ここでは、お昼に月が昇るのだろうか?

 では、夜に太陽が昇る?

 どうしても気になったので沙良が聞いてみると、ミリーはクスクスと笑い出した。

「あー、違いますぅ。ここには太陽はありませんよぉ。月が昇ったら朝で、沈んだら夜です」

 ―――いろいろ、頭がおかしくなりそうだ。

「大丈夫ですよぉ、慣れてしまえば不思議じゃないです!」

 可愛い顔をしてミリーがにっこり笑うから、沙良は少しほっとして頷いた。

 慣れるまで、沙良が生きていられるかは別として、深く考える必要もないのかもしれない。

 沙良は生贄で、どうやっても元の世界に帰ることはできないのだろうから。

 沙良が少しだけ悲しくなってうつむいたとき、ミリーが「そういえば!」と明るい声をだした。

「シヴァ様に会いましたよね? どうでした? どう思いました?」

 キラキラした目で見つめられて沙良は戸惑った。

(どう……?)

 シヴァの顔を思い出す。

 黒い髪に黒い瞳を持った、びっくりするくらい綺麗な男の人だった。

 だが、同時に恐ろしく冷たい空気をまとっていて、氷みたいな冷たい瞳をしていた。

 沙良はちらりとミリーを見た。

 ここは、正直に言ったら怒られるのだろうか?

 何を言うのが正解だろうか?

 困っていると、ミリーがぷっと吹き出す。

「困らないでくださいぃ。正直に言っていいですよ。どうせ、こぉーんな仏頂面だったんじゃないですか~?」

 ぷっくりした小さな手で自分の眉間を寄せて怖い顔を作るミリーに、沙良は思わず笑ってしまった。

「やっぱりねぇ。ニコリともしないのは紳士じゃないですよねぇ」

「あの、シヴァ、様って、どんな人なんですか?」

「あ、シヴァ様に興味持ってくれました?」

「えと、興味、というか……」

「あー、いいんですいいんです、あんな仏頂面じゃぁ興味なんて持てませんよねぇ。どうせまともに自己紹介もしなかったんでしょうし。シヴァ様は簡単に言うと、魔王様ですよ」

「へ?」

「だから、魔王様ですぅ。この世界の王様ですよぉ」

 魔王。

 あれだろうか。小説の中とかで世界征服を企てる悪の親玉?

 いや、でも王様なら、すでに征服しているのだから、もう征服するとこはどこにもないだろう。

 ―――そんなことよりも。

「魔王、様……」

 もしかしなくても、とんでもない人の「生贄」なのだろうか。

(もしかして、とんでもなく酷いことされたり、するのかな……)

 ぼんやりしていた生贄という言葉が、急に現実味を帯びてきて、沙良は青くなった。

 生贄という立場を疑っていたわけではない。

 だが、祭壇とかにささげられたり、泉に沈められたり、そんな生易しいものではなさそうな気がしてきて、途端に怖くなってくる。

(本当に、頭からバリバリ食べられたり、切り刻まれたり、しちゃうのかな……)

 できれば痛くしないでほしい。

 そういう希望も、相手が魔王様なら、聞き入れられないかもしれない。

 沙良が顔を青くしていると、ミリーが訝しそうな顔になった。

「どうしましたぁ?」

 沙良はすがるようにミリーを見た。

 聞いたら教えてくれるだろうか?

「あの、ミリー、生贄って、どんな殺され方、するんでしょうか……?」

「はぁ?」

 ミリーは素っ頓狂な声を上げた。

「なんですかぁ、突然」

「あ、だから、生贄……」

「沙良様って生贄に興味あるんですかぁ?」

「や、そうじゃなくて……、あ、そうなんだけど……えっと、心構えというか、知っておいた方が、いいのかな、とか思ったり。あ、でも、逆に聞かない方が、いいのかな……」

 ミリーはぐっと眉間にしわを寄せた。

「あのぉ、まさかとは思いますけど、生贄って、自分のことですかぁ?」

 沙良はコクリと頷いた。

「シヴァ様の生贄でしょ……?」

「それは、シヴァ様が?」

 コクリ、ともう一度頷くと、ミリーはポカンとした。

 そのあと、しばらくして、突然にんまりと口端を持ち上げる。

「あぁー、なるほどなるほど」

 ミリーはベッドサイドのテーブルにティーカップをおくと、沙良の肩にぽんっと手をおいた、

「いいですか、沙良様。生贄というのは」

「生贄というの、は?」

 ミリーはふと真面目な顔を作って声を落とした。

「シヴァ様に、『食べ』られちゃうんです!」

(やっぱり!)

 ピシッと沙良は凍り付いた。

 その様子を見てミリーがぷくくくと小さく笑っていたが、あまりのショックに沙良は気が付かない。

 ミリーは沙良の耳元に口を寄せて、こう告げた。

「いいですか、シヴァ様が『食べ』に来たら、こう言うんですよ。―――」

 沙良はごくりと息を呑んでから、悄然と頷く。



 そのあと、ミリーの宣言通り、昼食後に結婚式に登場しそうな何段もあるタワーみたいなケーキが運ばれてきたが、ショックを受けていた沙良は、結局一口も食べられなかったのだった。


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