第62話 影護衛

 学校での環境は、エリカ・グライス伯爵令嬢と遭遇してから、若干変わった。

 彼女はすでに卒業していて学校にはいないのに、どうも彼女の友人の妹や弟といった世代がいるらしい。派閥がどれだけなのかまで把握はしていなかったけれど、思った以上に多いのか、そんな彼らの視線が、非常にウザい。

 視線だけでも嫌なのに、質が悪いのだと、足を引っかけて来たり、荷物を隠されたり。

 さすがにオルドン王国の学校で、そんなことをされたことがなかっただけに驚いた。もしかして、私が知らないだけで、貴族の女子の間ではあったのだろうか。ヴェリーニ侯爵令嬢あたりにでも聞けば知っていそう……いや、やっていそう、かな。

 これが大人しい性格の女の子とかだったら、泣き寝入りするのだろうけれど、私は違う。

 使える力は、使うに限る。

 元平民、なめんなよ。


「馬鹿ですね。私が1人でいるからって、護衛がついてないとでも思ってらっしゃる?」


 授業の教室移動からたまたま1人で戻っているところで、3人の男子生徒に連れ込まれかけた私。

 その3人は、あっという間に制圧されてる。たった1人の影護衛によって。


「苛められたからって、大人しくしてるとでも思ってるのでしょうか……あなた方の家にはすぐに連絡がいくでしょうね。お疲れ様でした」


 にっこり笑って部屋を後にする。

 お義母様にお茶会の話をして早々、すぐに影護衛がついた。それも、王家直轄の。もう、エルドおじさんのところまで話がいっちゃってるっていう。


『彼女のことだから、何かしかけてきてもおかしくない』


 というのが、お義母様の考え。

 さすがに、子供の間でのこと、ここは断るべきなのか、と思ったけれど、あのエリカ嬢の目つきを思ったら、素直に頼るべきだと思った。

 結局、その判断は間違いではなかったわけだが。


「……自業自得だけど、ちょっとばかり、お気の毒かしら」


 そう呟いて、肩をすくめる。

 彼らのことよりも、自分のことだ。

 少し遅れて教室に戻ったら、なぜか驚き青ざめる数人の女子たち。


 ――あー、この人達も、そうなのか。


 思わず、にっこり笑ってあげたら、そそくさと自分の席に戻っていく。

 正直、このクラスにそんなに仲のいい友達がいるわけでもない。むしろ、エリザベス様たちとのほうが仲がいいくらいだ。

 時々、ベイスがクラスに来ることもあって、私が『バーンズ伯爵』の家、ひいては王妃殿下と繋がりがあるというのを知っているはず。

 なのにこれって、彼らはエリカ嬢の家に弱みでも握られているのかしら、とか思ってしまう。

 

「早く学校終わらないかなぁ」


 自分の席について窓の外を見ながら、そう呟いた私なのであった。

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