第61話 エリカ・グライス伯爵令嬢

 バーンズ伯爵家に戻り、さっそくお義母様に報告。お茶会に行く前に、何かあったら報告するように言われてたから、そこはちゃんとしないと。


「まぁ」


 そう声をあげながらも、顔は驚いた風でもないお義母様。もしや、想定内だったのだろうか。


「お名前は伺ってないの?」

「エリカ様というのだけ。少し、私よりも年上に見うけられましたが……」


 テーブルに案内されただけで、どなたが上位貴族の方なのかわからなかったので、挨拶する間もなかった。あちらでは私のことがわかってたようだけど。


「エリカ、エリカ、エリカ……ああ、もしかして彼女かしら」


 ――エリカ・グライス伯爵令嬢。


「……有名人なんですか?」

「そうねぇ……」


 少し考えた後、お義母様は真剣な顔で私の方を見る。


「レイは、カイル殿下の実母についてご存知かしら?」

「いえ、存じません」


 ご落胤説でゴタゴタがあったので、王妃殿下が実母ではないことくらいしか知らない。


「カイル様は先代国王陛下のお子様で、今の国王陛下のところにご養子に入られたのだけれど……実母となる方が、元は異国の下級貴族の方だったの」

「それって、側妃のお子様、ということですか」


 国王となる方の正妃が、下級貴族の出というのはありえない。それが他国ともなれば、もっとだ。


「いいえ。愛人の1人だったのよ」


 本来ならば、そのような血筋の子供が王太子になることなどありえないのだそうだ。

 実際、カイルが10歳になるまでは、離宮の方で乳母によって育てられていたらしい。そんな年の離れた弟を不憫に思ったのが、すでに王妃殿下と結婚していたエルドおじさんだったそうだ。

 一方で、カイルが生まれてすぐに、愛人はとある貴族へと下賜され、その後に、また別の貴族のところへと後妻として嫁いでしまったかららしい。


「それが、グライス伯爵家…件のエリカ嬢の家よ」

「え、それじゃ、そのエリカ様とカイル様って兄妹ってことですか!?」

「彼女は前妻の子供だったはずだから、血は繋がってないわ」


 それにしたって、あの性格悪そうな人が、カイルとの関係者にあたるとか思うと、微妙な気分になる。


「ちなみに、面倒なことに、グライス伯爵はコヴェリ公爵の弟にあたるわ」

「コヴェリ公爵?」

「うちと対立する派閥の長よ。うちが王族派、あちらは貴族派、という感じかしらね」


 おう……。

 貴族の派閥とか、複雑すぎて私にはまだ難しいんですけれど。

 とりあえず、派閥関係なく、エリカ様はカイルのことが好きってことでいいんだろうか。血は繋がっていないわけだし、再婚する問題はないはず。


 ……カイルが再婚?


 自分で思ったその言葉に、胸がドキッとした。

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