第39話 再び、サカエラおじさんに相談する

「……レイ?」


 向かい側に座るショーンさんが、私の顔を覗き込んできた。


「あ、はい」

「……やっぱり、何かあったんじゃない?」


 ――意外に鋭いな。


「……まぁ、ちょっと」


 馬車の外に視線を向ける。

 これは、ショーンさんよりも、おじさんに相談をしたいこと。


「何、俺には話ができないの?」


 チラリと目の端に見えるショーンさんは、少し寂しそうな顔で、なんか、叱られた大型犬みたい。年上の人に言う言葉じゃないけれど、かわいいと思ってしまう。

 だけど、そんな風に言われても、この話はやっぱりおじさんとしたほうがいいと思う。


「……後で、おじさんと話をするので、その時に」

「……」


 無言で反対側の窓のほうを見るショーンさんは、やっぱり子供かも。拗ねた顔をしてるのが、わかりやすくて、音もなく私は微笑んでしまった。




 家に着いても、当然、おじさんはまだ帰ってきていなかった。


「レイ、着替えたら、勉強みてあげようか」

「あ、はい」


 ショーンさんは、さっきまでの拗ねた顔が嘘のように、ニコニコした顔をしてる。不機嫌な顔で相手をされるのは、私としても、嫌だけど。

 そして、私はサロンでショーンさんに勉強を見てもらっていた。平民とはいえ、大きな商会の跡取り息子のショーンさん。さすがに未婚の男女が私室で二人きりになるわけにもいかない。

 意外にも、ショーンさんは、思っていたより人に勉強を教えるのが上手いと思った。

 辛抱強いし、私がわからないところがあって躓いても、どうやったらわかるか、一緒に考えてくれる。もしお兄さんがいたなら、こんな感じだったのだろうか。


「ショーン様、レイ様、お食事の用意が出来ました」


 ギヨームさんが私たちを呼んでくれたことで、今日の勉強は終了。私たちは勉強道具を片付けると、食堂に向かった。

 サカエラのおじさんもすでに帰ってきていたようで、席に座って待っていた。


「もう帰られていたんですね」

「ああ。たまたま今日は早くに終わってね」


 おじさんは、かなり疲れた顔でテーブルについていた。その表情からも、だいぶ忙しいんだろうことは想像できたのだけれど、私は私で話をしないといけない。


「おじさんにお話しておきたいことがあるんだけれど」


 食事をしながらではあったけれど、私はおじさんに今日会ったマイア―ル男爵のことを話した。その間、おじさんもショーンさんも、不機嫌そうな顔を隠しもしない。


「レイは、会いたいと思うわけ?」


 細くカットした肉をフォークで差しながらショーンさんが、私の顔を見ずに不機嫌そうに聞いてきた。


「……いいえ。今更って思うし」

「それなら、会わなきゃいいじゃん」


 これで解決、みたいにショーンさんは、肉を口に放り込む。


「そう簡単に済めばいいんだけどな」


 おじさんが深刻そうに言い出す。


「今回の話、どうもあちらの家の相続が絡んでるらしい」


 男爵からは、そんな話は全く出なかったんだけど。

 それを調べ上げてきたサカエラのおじさんの情報力はさすがだ。


「具体的にどうする、とかいう話になるのかもしれない。しかし、一度はあちらときちんと話をしたほうがいいとは思う」

「今更、私みたいのが現れても、男爵家だって迷惑なんじゃ」

「しかし、当主本人がわざわざ学校まで来たわけだしね」


 相手は男爵とはいえ、貴族様。もっと強引に連れて帰ることもできたはず。それをしなかったのは、保護者でもあるサカエラのおじさんの存在もあるのだろう。


「でしたら、おじさんが一緒に来てくれますか」

「もちろんだよ。レイ一人で行かせたら、エルドに殺される」


 怒り狂うエルドおじさんの姿を想像して、ちょっとだけ笑ってしまった。

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