オルドン王国 マイア―ル男爵家編

第37話 マイア―ル男爵襲来(1)

「レイ!」


 なぜだかショーンさんが、学校まで私を迎えに来てくれる馬車とともに待つようになった。そして、「さん」が取っ払われている。「さん」付きで呼ばれる方が、居心地悪かったから、構わないといえば、構わないけど、場所柄を考えて欲しいとは思う。


「……ただいまです」


 徒歩通学の制服姿の学生たちが流れていく中、カジュアルな格好のショーンさんが馬車の前に立って待っている。嬉しそうに微笑んで、私に手を上げて声をかけてくるから、私自身が悪目立ちしてしまう。チラチラ見てくる視線が痛い。

 馬車に乗り込むと、ショーンさんが「今日はどうだった?」と聞いてくるのは、日課になっていた。


「いつも通りですよ」


 なんとか笑みを浮かべて返事はしたものの、それは実際、正確ではない。

 なぜなら、学校に、あのマイア―ル男爵がやってきたから。



 なんで本人が直接学校になんかやってきたのか、理解に苦しむけど、先生方はあの人がいう『親戚』という言葉を信じたらしい。それは『マイア―ル男爵家』というのが、そこそこ信用のある家柄、ということなんだろうか。


「ほう。お前が、レイか。私が聞いている姿とは、ずいぶんと印象が違うな」


 学校の中の応接室で、少し古くなった革のソファに座っているマイア―ル男爵。

 たぶん、母よりも少し年上だろうか。白髪交じりの髪に、無表情な顔。親戚っていうから、どこか母と似たような感じを想像してたけど、全然違った。

 初めて会う『親戚』だというマイア―ル男爵は……なんだか爬虫類っぽい感じの人だな、と思った。その上、偉そう。貴族だし、偉いんだろうけど。

 彼の背後には、男爵同様、無表情な執事のような人が立っている。その人の目つきも嫌な感じだ。


「……はじめまして」


 私は、無理に笑みを浮かべることもなく、挨拶だけをして、その場に立っていた。私の隣には、担任の先生が立っている。


 最初、身内だけで話がしたい、という男爵の要望があったらしい。一応、校長が王家に繋がりのある伯爵位をお持ちの方でもあってか、さすがに学校側は了解は得られなかったし、それ以上、強引な話も出来なかったようだ。


「ご用件はなんなんでしょう」


 爬虫類っぽい眼差しのせいだろうか。この人に見られてると、なんだか居心地が悪いので、さっさと要件を聞いてしまえ、と思う私。


「ああ……わかっているとは思うが、私がマイア―ル男爵だ」


 そう言うと、私が知っていた通り、母と男爵は従兄妹の関係にあることを告げた。


「メリンダの父親、君の祖父が、私の母の兄にあたるんだが、駆け落ちして家を出ていった。だから、私の母が婿をとって、家を継いだ」


 その間、僕をジッと見つめる男爵の眼差しは、ものすごく冷ややかだった。


「そういう話を、君の母親からは聞いていないか?」

「全然聞いてません」


 私が生まれた頃には、祖父母も亡くなっていたし、母からだって、聞いたことがなかった。


「一応、こちらでは、ずっと君たち家族の動向は把握してたんだがな」


 知ってたなら、なんで、母が一人で苦労してた時に、身内として助けてくれなかったのか。酷薄そうなマイア―ル男爵を睨みつけそうになった。

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