<カイル>(7)

 街中でもハイクラスの宿屋の、ロイヤルスイート。

 大きなテーブルに書類を広げながら、何やらチェックしていたユージンが、ドアの開く音で目を上げる。


『ユージン、戻ったよ』


 私の言葉にユージンが立ち上がり、ドア近くまでやってくる。


『お帰りなさいませ。お食事は』

『まだだ』

『では、ルームサービスを』

『頼む』


 上着を脱ぎ捨てると、ベッドに体を沈める。この国に来て直ぐにでも、レイに会いに行きたかったが、着いて早々にユージンに捕まったおかげで、一日無駄にしてしまった。

 しかし、ユージンの情報のお陰で、直ぐに会えたのも事実。


『いかがでしたか』


 控えの間にいたメイドに食事の指示をしたユージンは、すぐに戻ってくると、そう問いかけてきた。無表情のままだが、瞳には好奇心の炎が揺れている。彼の珍しい様子に、少し揶揄いたくなる。

 体を起こし、そんなユージンを見つめる。


『どうだったと思う?』

『カイル様』


 遊んでいる暇はない、という冷ややかな眼差しに、思わず笑ってしまう。


『彼女は義父の子供じゃないよ』

『その根拠は』


 ムッとした顔で私を見つめる。


『サカエラ氏に確認をとった。そして、彼女から、自分の両親の絵姿も見させていただいたよ』

『それだけですか』

『それだけで、十分じゃないか?』

『しかし、サカエラ氏は国王陛下の親友でもあります。いくらでも、嘘をつくことも出来ましょう』

『……ユージン、貴方は彼女の瞳は見たか?』

『瞳ですか? 眼鏡をかけていたのでよく見えませんでしたが』

『彼女の瞳は、義母と同じ金色だったよ』

『!? それこそ、王家の印では!?』

『フッ……そんなに、義父の子供を期待しているのか』


 つい、苛立たしく言葉を放ってしまったのは、少しだけレイへの嫉妬があったかもしれない。自分が、今さらながら、王太子として認められていない、そんな気持ちになったのもある。


『そんなことは!』

『あるいは、義母への同情?』

『……』


 いつもは無表情で何があっても動じないユージンが、珍しく動揺している。図星、ということか。私は軽く鼻で笑うと、ユージンが知らない事実を告げる。


『まぁ、いい。彼女は、レオン・バーンズ、義母の従弟の娘だそうだ』

『なんですって……』


 呆然としているユージンをよそに、私は立ち上がり、窓の外にある夜の街の風景に目を向ける。賑やかな繁華街から離れている宿だけに、周囲を歩く人の姿はない。

 私は外を見ながら、言葉を続ける。


『レイをアストリアに連れて行く』

『!?』

『義母にも義父にも、秘密だ。いいな』

『なぜ?』

『私からのサプライズプレゼントだよ』


 戸惑った表情のユージン。


『といっても、彼女も学校がある。もう少しで夏休みらしいから、その時はお前に任せる。ちゃんとレイを連れて来てくれ。食事をしたら、私はこのまま転移陣を使って帰国する。頼んだぞ』

『……わかりました』


 タイミングよく、部屋のドアがノックされた。食事の準備が出来たのだろう。


 ――そういえば、あの金色の瞳を隠している理由を聞くのを忘れたな。


 レイの美しい瞳と頬を染めた顔を思い出して、私はひっそりと微笑んだ。

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