<カイル>(2)

 その後まもなく、ユージン・サージェントが国を離れた。

 そして時を同じくして、カイルの部下の調査報告が上がってくる。


 レイ・マイアール  十六歳。王立学院高等部の二年生。


 調査員が調べた限り、三つ編みの黒髪に、眼鏡をかけた小柄な女性、という印象のようだ。長い前髪と眼鏡のせいで、目の色は確認出来ていない。


 ――義父、エルド六世と似たところは、黒髪だけ。


 黒髪自体、多くはいないものの、二人の共通点とは言い難い。

 去年母親を亡くし、母親の友人のサカエラ氏のところに住んでいるらしい。


 ……サカエラ?


 もしかして、義父の親友のサカエラ氏か!?

 その名前だけで、少しだけ信憑性があがってくる。


 義父が大のオルドン王国贔屓になった原因のサカエラ氏。

 まだ王太子であった学生時代からの友人で、毎年、お忍びでオルドン王国に旅行に行っているのは、公然の秘密。行く場所は決まってサカエラ氏のところで、そのうち、サカエラ氏の個人の邸宅に転移陣でも置いてしまいそうだ、と言われていたくらいだ。


 ……もしかして、義父は、サカエラ氏にではなく、レイ・マイアールに会いに行っていたのか?


 そのことに気づくと、やはり、レイ・マイアール本人に直接会ってみなくては、と思えてくる。

 そして、なんとか予定を調整し、無理なものは影に仕事を押し付けて、カイルはこうしてオルドン王国にまで、やってきたのだった。


『カイル様』


 愛馬フラムを撫でながら街道を進んでいると、名前を呼ばれ、カイルはつい、振り向いてしまった。


『……ユージン』

『馬車をご用意してあります』

『……はぁ』


 せっかく一人で来たというのに、さっそく見つかってしまった。

 思わず眉間にシワをよせるが、彼に逆らってもいいことはない。ユージンは義母の友人と同時に、カイルのかつての養育係でもあったのだ。

 仕方なく、ユージンの従者の一人にフラムの手綱を預けると、そのまま後をついてく。無紋の大き目な黒い馬車のドアを開かれれば、素直に乗り込むしかない。


『……もう会ったのかい?』

『……どなたにでしょう』

『レイ・マイアールだよ』


 向かい側に座るユージンが、ビクリと身体を動かす。

 仕事上では、めったに表情を変えることがない冷静沈着なユージンが、珍しく反応した。


 ……面白い。


『……彼女は、なかなか面白い子でしたよ』


 それでも、言葉はいつも通りに冷静だ。


『ほお……私も会ってみたいものだね』


 会って確かめたい。


 ――本当に義父の子供なのか。


 ジッと考えこんでいるカイルを乗せ、馬車はゆっくりと動き出した。

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