第2話

 貴族の自慢大会こと、お披露目会はマリファーナ王国の王城にて催される。

 

 今年、6歳になった貴族の子供たちが本来ならば主役となるはずなのだが、貴族というものは腹黒いとまでは言わないが、少しでも出世するため、そして、その地位を長いこと維持するためには手段を厭わない、という狡猾を兼ね備えている。


 だから、このお披露目会の主役はというとどちらかというと大人たちが主役にと化してしまっているらしき。


 まぁ、そんなことを聞いたら、俺はお披露目会というものは、パーティというキラキラした楽しいものなんかではなく、少しばかり面倒くさいものだなぁと思ってしまうのである。


「はぁ……父上……お披露目会はどうしても強制参加なのですか? なんだか、とても面倒くさいなぁと思ってしまうのですけど……」


 俺が面倒臭さなお披露目会に行かなければならないことに憂鬱にしていると、


「まぁ、こればかりは仕方ないんじゃないか? それに王女様はお前と同い年だし、運が良ければお近づきになれるんじないか?」


 父さんがそう言うのなら、まぁ仕方がない。

 これでも貴族の端くれであるので、そういった社交もしていかなければならない。


 それに、この国の王女様にはまだ一度もあったことがないし、どんな人なのか正直興味がある。


「はぁ……王女様に免じて今回は出席することにしますね」


 俺が冗談交じりに、諦めてお披露目会に参加することを宣言すると、


「はっはっは。まぁ、カインなら王女様くらいコロッと落とせるんじゃないか? 純白の髪に金色の神眼に魔法陣の紋様なんてそうそう滅多にないからな。普通なら不気味だが、カインのはもはや芸術品みたいだな! 神々しさを感じるよ! ってかカインは神だったな! はっはっは!」


 父さんが愉快そうに笑う。

 確かに俺の容姿はナルシストではない俺もが自分の容姿を認めれるほどの一級品だ。

 

「あっ、父上! ステータスのことは絶対に内緒ですよ!? もし、言ったらもう神界に帰っちゃいますからね!?」


 まぁ、父さんが言うはずもないだろうけど、いちよ口を滑らさないように釘を刺しておいた。


 俺の恩恵は余りにもヤバいということで、それについて家族内で相談して、俺が洗礼の儀でもらった恩恵は魔眼ということにしている。


 神眼のせいで、人とはもはや思えない目を常時しているが、それをあえて隠すのではなく、魔眼ということにして、それ以上の秘密を隠すためのカモフラージュに使っている。


 家族の皆はこれが神眼だということは知ってるが……


「わかっている! じゃあ、いくとするか」


 俺と父さんは馬車に乗り込み、王都の屋敷から王城へと向かって進んでいく。


 しばらくして、王城へと到着した。


 王城の前には巨漢の門番が待ち構えていて、俺たちの馬車に止まるように促す。


「グロービル伯爵様でしたか。確認が取れましたのでどうぞ中へとお入りください」

 

 俺たちは検問のようなものを受けてから中へと入って行った。


 王城は母さんが言った通り、教会よりも遥かに大きくて、もはや一つの山のような大きさをしていた。

 

 馬車が中央広場らしき場所に止まり、俺たちは馬車から降りた。


 その後は父さんの跡を追うようにして王城内を歩いて行く。


 それにしてもあのおばちゃん、余りにも化粧が濃いと思うんだけど、もはや肌はカピカピなんじゃないか? それになにあの服!? 派手すぎて、もはやクジャクみたいだ! 誰かに威嚇しているの?

 

 うわっ! あんなところに豚さんが!?

 意味は違うけど、豚に真珠みたいな感じだ! あそこまで腹に脂肪をたっぷりと蓄えていると、どんなに綺麗に着飾っていても、どうしてか下品に見えてしまうのは仕方ないことだろう。なんたって豚さんだし……本人は気付いていないようだが、


 凄く醜い人もいたけれど、パーティの参加者には、気品があって、とても美しい白鳥のような人たちが中にはいた。

 そして、俺には神眼があるのでパーティの参加者の真意が完全に透けて見えてしまう。


 俺の神眼の集積結果は豪華絢爛に身を包んだ豚さん、および、厚化粧のおばさんは考えていることが醜いものだった。


 その思考が遺伝してしまっているのか、育った環境のせいなのか、その子供たちも6歳でありながら、かなり性格歪んでしまっているようだった。


 逆に、外見にそれほど頓着することなく、質素でも小綺麗な服に身を包んでいた気品ある人は善意が内面から溢れ出ていた。


 後々になって、俺は知らぬ間にそう言った心意を読み取った上で、その人たちを美しいと判断していたということがわかった。


 俺は父さんの後ろをついて歩いているのだが、俺に向かってくる視線、及び思念ががすごく鬱陶しい

 神眼のせいで、思考が全て読み取れてしまうので、


「「「「あの子とても美しいわ」」」」


 言った感じに俺に伝わってくる。それくらいならまだいいのだが、


「あの眼をくり抜いて競売でもしたら幾らになるだろうか……」


 考えている豚さんがいた。

 なんてことをあの豚さんは考えているんだ……

 もしやろうとしてきたら、俺がお前のでっぷりとしたお肉を挽肉にしてハンバーグにしてから魔物の餌にしてやる!

 

 俺は父さんに、あの豚さんについて聞いたところ、その豚さんはなんと、この王国の侯爵あたる人でワルサック・ガイス・デビュートというらしい。


 伯爵家よりも家格が高いらしい……なんか、解せないのだが……


 そして、デビュート侯爵家とうちのグロービル伯爵家とはかなり仲が悪い。

 それにはデブ侯爵様の妬み、嫉みがあったらしい。


 まぁ、俺ら伯爵家と関係性が悪いならまだしも、このデブ豚侯爵様はいろいろと不正をして、自らの私服を肥やしているという噂があった。


 けれど、侯爵家という家格だけあって、決定的な証拠が上がらないとこの国の国王であっても処罰することが難しいらしい。

 

 俺は流石にあの思考には、かなり引いてしまったので、今度何かしてきたら徹底的に懲らしめてやる。


 まぁ、今は俺も面倒くさいことには巻き込まれたくないので、


(チユキ、とりあえず神眼の効果はパッシブからアクティブにしておいて! それと今はoffにしといてくれる?)


『はい、かしこまりました! マスターの気分を害するなど万死に値します! わたしがあやつの寿命をあと1日にしときましょうか?』


(それも良さそうだけど、この力はそのために使ってはダメだからね! チユキもありがとね)


『マスターがそう言うならやめときます』


 そして、あーだこーだ父さんが社交的な挨拶をしている時に、突如、その場に管弦による音楽が鳴り響いた。


 同時に大きな扉の先から、頭に私が王だと言わんばかりの金の王冠を被った40くらいのおじさん? と、その後ろに銀髪で翡翠色の瞳をした、女の子が登場した。

 おそらく王冠を被ったおじさんはこの国の王、マリファーナ王国国王であり、銀髪の少女は父さんが言っていた第二王女なのだろう。


 登場の際に、父さんを含めて参加した貴族たちが跪いたのをみて、俺も見よう見真似で跪いたところ、予期せぬところで神の恩恵が働いてしまった。


『礼儀作法EX取得しました』


 ど、どうしてだ? こんな場面で……

 俺は無機質なアナウンスさんに少々腹を立てていると、だんだん音楽の音量が小さくなり、そして音楽が鳴り止んだ。


「皆のもの、面をあげよ。今日は我が娘、ルイーゼの誕生日パーティ、およびお披露目会に来てくれたこと心より感謝する。今宵は子供たちが主役であることをゆめゆめわすれることのないように。それでは、我、アラルド・フォン・マリファーナの名の下に、お披露目会の開始を宣言する」


 国王の宣言の下、パーティが開始になった。


 給仕の方がずらっと出てきて、次々にパーティ会場にはものすごいご馳走が並べられた。


 ビュッフェ形式で、豪華な食べ物が用意されていて、さらには見たことのないようなジュースが沢山あった。

 それだけでも今日は来た甲斐があると言えた。


 国王のもとには次々に貴族の人たちが挨拶しているのだが、父さん曰くこれにもしっかりと順番があり、爵位が高ければ高いほど、先に陛下に挨拶できるらしい。


 貴族の社会の順番はというと、


 公爵>侯爵>=辺境伯>伯爵>子爵>男爵>準男爵>騎士爵


 という感じらしい。


 先程、俺の瞳をくり抜いたらとか考えていた脂ギッシュな太っちょさんは俺たちの前に国王に挨拶していた。

 デビュート侯爵の息子も息子みたいで、王女様のことを下心満載な目で見ていた。


 どうしたら6歳にして女の子をそんな目で見れるのだろうか。


 親の顔が見てみたいものだと、一人考えていると、とうとう俺たちの番になったようで。


「陛下、本日はお招き頂き誠にありがとうございま———」


「よいよい、バランよ。今日は儂らが主役ではないのだからな。儂らの挨拶は別に良いだろう? 今日の主役は子供達だよ。で、そちらがバランの」


 俺は陛下の意図を察して、


「はじめまして、国王陛下、そして、王女殿下。私はグロビール伯爵の三男、カイン・グロビールと申します。今宵は豪華な食事に加えて、精霊のように美しい女性に巡り合えたことに感謝いたします」


 俺は社交的な挨拶であるが、王女様に向かって飛びっきりの笑顔を向ける。


 王女様は俺の顔を見て、恥ずかしくなったのか顔を真っ赤にして目を背けてしまった。


「………わ、わたくしはマリファーナ王国第二王女、ルイーゼ・マリファーナです。よ、よろしくお願いします、です」


 王女様は6歳らしい感じでワタワタとタジタジになっていたところ、


「はっはっは。初々しいのー。それにしても、どうしたらバランからこんな子が生まれるのだ?」


 国王陛下は威厳などはトイレに流してきたのか、どこか近所のおじさんみたいな感じになって、愉快そうに笑っていた。


「いやぁ、陛下。それが俺にもわからないですわ。どうしたら俺からこんな子が生まれてくるのか」


「はっはっは! まぁ、奥方のリーファ殿の方に似たのだろう。それにしてもその眼はなんなのだ?」


 国王様もやはり俺の眼のことが気になるようで、


「これは、僕が神様から抱いた恩恵の魔眼ですよ」


 手筈通りに魔眼ということにして、自分の情報を隠した。

 その答えに陛下も満足したようで、その後は恩恵についてではなく、たわいのない会話をしていた。


 そんなこんなで時間は過ぎ去り、他の貴族たちの国王への挨拶はまだまだ続くので、会話はいいところで切り上げて、陛下のもとをら去っていった。


 ちょっとだけ不満があったとするならば、王女様との会話が自己紹介の他全くできなかったことである。

 

 おそらく王女様はかなりの人見知りなのだろう。


 立ち去る際に後ろから王女様の視線をすごく感じるのであったが、今はどうしようもないので、俺は振り返らずそのまま腹をまた満たすために会場へと溶け込んでいった。


 この際、俺はここのパーティを存分に楽しもうと、パーティで出されている料理を一通り食べて、全種のジュースを飲み干して、満足顔で人気のないソファで鼻歌を歌っていた。


「はぁ……美味しかったなぁ……」



 そんな俺のところになぜか王女様がスタスタと歩いてきて、そして俺の隣にピタッと座った。


「…………」


 突如、俺の頭の中がホワイトアウトしてしまう。


 あれ!? この王女様、人見知りなんじゃなかったっけ?


 流石に王女様との距離が近すぎると思ったので、距離を取るべく離れようとすると、不思議なことにその距離がすぐに縮まって、なんと結局、初期位置にまで戻ってしまった。


「お、王女様!? どうされたんですか?」


「……………」


 聞いても顔を逸らすばかりでこちらを向いてくれない。

 耳の先から顔が真っ赤になっていて、体もどことなく熱くなっている。

 

 どうしたものかと考えていると、そういえば今日は王女様の誕生日でもあったことを思い出した。


(ねぇ、チユキ! 女の子の誕生日はやっぱりアクセサリーとかがいいのかな?)


『王女様への誕生日プレゼントですね? そうですね。王女様ならどんなものでも喜んでくれると思いますが、アクセサリーが無難でいいんじゃないでしょうか?』


(うん。じゃあ、アクセサリーにしようかな? で、相談なんだけど、俺のスキルの万物創生で作れるかな?)


『はい、問題ないですよ? 材料も一から創り出せますし、別に材料から作らなくともイメージだけでどうにでもなりますので』


(了解! ありがとう、じゃあ、さっそく始めようかな?)



 あのおばさんたちみたいにギラギラと派手たものじゃなくていい。

 けれど、それでも材質にはとことんこだわろう。

 そして、やっぱりアクセサリーだけだと俺としたら物足りないので、何かしらの機能が付与されているもの。


 まだ試したことはないけど、一回やってみるか。

 材質には神銀と呼ばれるミスリルを使って、宝石は眼の色に合わせてエメラルドでいかな、と思ったんだけど。


 どうせなら、見る角度で色が変わるようにしたいなとイメージしたらイメージ通りできたみたいで、角度によって虹色に変わるという宝石が俺の手によって産み出された。


(ねぇ、チユキ! この宝石ってこの世界に現存するもの? それとも、今俺が産み出したもの?)


『えーっとですね。これはこの世界にあるものですね』


 よかった……なんとか、この世界にあるもので収まったみたいだ。

 俺が1人安心していると、


『まぁ、この鉱石は幻の宝石と言われていて1000年に1つ見つかるか見つからないかというくらいの宝石なので、新たな宝石を産み出すのとたいして変わらないですけどね』


 な、なんてことだ……

 イメージとしてはアレキサンドライトの上位互換をイメージしてみたのだが……


 まぁ、いい。せっかく作ったのだから。


 正面から見るときは瞳の色とピッタリ合うようにして、ただ単に宝石を埋め込むだけではなく、細部も緻密に鮮やかに、彫刻をして、さりげない感じ。

 

 細工が細かすぎて、他の人には質素に見えるけれど、付けている人と同じくらい近くで見れば、その細工がどれだけ精密なものかわかるくらいに丁寧に隅々までこだわって、


 イメージを思い浮かべて、

『万物創造EX』で俺は一つのネックレスを作った。


————————————————————

 幻玉の幸運ネックレス


等級 夢幻級ファンタシズマ

効果 <幸運+10000><絶対防御障壁><状態異常完全無効><不壊><清潔><個人認証:ルイーゼ・マリファーナ>


————————————————————


 俺が王女様のためにネックレスを創り終わると、俺が手に持っているネックレスに興味を引かれているのか、さっきまでお黙りだった王女様が口を開けて、


「……それはなんなのですか?」


「これは僕の恩恵で作ったものだよ……今日は王女様の誕生日だって聞いたから、創ってみたんだけどいるかな?」


 と俺はいちよ王女様に聞いてみると、


「……ルイーゼ……わ、わたしはルイーゼ……王女様って呼ばないで!」


 王女様の言いたいことを察した俺は


「じゃあルイーゼ、せっかく創ったからさ、これ貰ってくれるかな? 初めて創ったんだけど、これを付けてれば、ルイーゼを守ってくれるし、それに幸せになれるよ!」


 俺がそういうと、ルイーゼは顔を真っ赤にして、口には出さないものの嬉しいようで頭をこくこくと縦に振った。


 ルイーゼは言葉には出さないが、ネックレスをつけて欲しいようで、頭を俺の方に突き出してくる。


 俺もその意図を察してルイーゼの首筋に手を回し、ルイーゼにネックレスをつけてあげた。


 うん、初めてには良くできた方だよな。

 

「うん。とっても似合ってるよ。瞳の色とあっててとっても綺麗だよ!」


 俺がそういうとルイーゼは顔をさらに真っ赤にして、頭から湯気を上げそうな感じだった。


 それでも、ルイーゼは落ち着きを取り戻し我に返ったのか。


「……あ、ありがと、か、カイン……」


 ルイーゼもかなり喜んでくれたので、俺としてもかなり満足だった。


「じゃあ、ルイーゼ、また今度ね! バイバイ」


「……うん……」



 俺はそろそろいい時間なので、家に帰るべく、父さんを探しに回った。


 俺が立ち去ったあと、ソファのところで王女様が顔を真っ赤にして、悶えていたのだが、俺はは気付かなかったことにして立ち去った。


 こうして、無事お披露目会という名の貴族たちの自慢大会は無事に終わりを告げた。


 ネックレスをあげたせいで、王城へ呼び出されるとは知らずに……


『マスター、大変申し上げ辛いのですが、この世界で相手にアクセサリーをあげるならまだしも、付けてあげるというのは所謂、告白やプロポーズに当たるんですけど、お伝えするのを忘れておりました。てへぺろ』



「それを先に言わんかーーーい!」


 ⭐︎⭐︎


 お披露目会の数日後。

 俺の予想は実際のものとなった。

 

 俺は部屋でチユキと念話をして話していると、誰かが近づいてくる気配がした。


『マスター、とうとうバレてしまいましたね。もう、観念しましょうよ』


(まぁ、そうだね。別に俺にとって不利益でもないから、諦めよう…… って、お前のせいだろ?)


 俺の部屋の扉がドカンと勢いよく開いて、


「おいっ! カイン! 今、陛下から手紙が届いたのだが、これはいったいどういうことだ! お前が王者様にプロポーズした、と書いてあるのだが、どういうことか説明しろ!」


「せ、説明しますから、どうか落ち着いてください!」


「この事に落ち着けるわけがないだろう! 早く説明しろ」


 父さんは俺にすごい剣幕で、説明するように促す。


 俺は観念を決めたので、特に反抗などせず真実をそのまま伝えた。


・王女様と2人きりになったこと

・王女様にネックレスを創ったこと

・しかも、幻の宝石を使ったこと

・さらに、細工をこだわりすぎて付与をたくさんしたこと。

・慣習など知らずに王女様にネックレスを付けてあげたこと


 説明したところ、父さんはもう驚き疲れたしまったのか、ある結論へと至った。


 それは、


「まぁ……カインなら仕方ないか……なんたって神だからな、はははは」


 父さんの乾いた笑いが俺の部屋に響き渡る。


「で、父上。この後、僕はどうすればいいんですか? 何か陛下から指示は来てないのですか?」


 俺が尋ねるとようやく、我に帰ったようで、


「そうだ! 直ちに王城に参上するようにとのことだ! だから、すぐ用意しろ! 今から王城へ向かう」


「は、はい。わかりました……」


 俺が王女様にネックレスを上げた行為は王女様との婚約を意味するとのことで、予想通りにすぐに王城へと呼び出されたのであった。

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