プログラマー

夢美瑠瑠

プログラマー


  掌編小説・『プログラマー』



私は富呂・久羅麻(プログラマ)といって、以前にも登場した高校生の女の子なんですけどー以前にも書いたように、「リアルワールド」という、世界をシミュレーションして自分がその造物主になる物語をハッカーに破壊された後で本当に今度は「宇宙」を創造して、自分がその造物主、大文字のクリエイターになるシミュレーションゲームを製作中なんです…


当然まず「ビッグ・バン」があってー数限りない天体とかブラックホールとかスーパーノヴァとか、赤色巨星とかクエーサーとか、無数の、宇宙の創造に付随する事象が生滅していってーそういう歴史が前振りで、やがてまた無数の、生命が存在する、文明というものが繁栄している星々が無数の島宇宙に、点在しているという構図になって、そういう壮大なイメージの中にオリジナルなストーリーの複雑多岐なユニークな文明や生物の絡み合いを精緻に描き出して、一つのクロニクルみたいにロマンチックで多彩な曼荼羅絵巻?を構築しているんです。

 それはもうイマジネーションが焼き切れそうになるほど大変な作業でもあって、

ゼロには何を掛けてもゼロになる、考える手掛かりがゼロだから、答えが寧ろ無限大になる、そういう中で自分にとって意味があって、納得のいくイメージを組み合わせて物語にしていく、それは考えるということの醍醐味でもあるけど、気が遠くなるほどに困難な道程でもあるんです。


 自分という存在の全てをそこに投影するということに、結局はなっていくかもしれない、大きな真っ白なキャンバスに、何を描いてもいい、そういう条件下で、精一杯の模範解答を描き出す…

 物語を作るということは極限まで自分を表現することに他ならない、それは当たり前だろうが、その楽しさと苦しさ、両方を私はこの「リアルユニヴァース」というゲームを作ることで味わっているのです…


 イマジネーションというのは本当に不思議なもので、今までにいろいろなSFとかも読んできましたが、思いもよらない視点がある。生きた星だとか、5つの性だとか、多元宇宙だとか、異世界のファンタジーワールドだとか…

 どのアイデアを採用するのも自分次第なのですが、何かそこに全体を貫くテーマが欲しい。

 一応それを「多様性こそが宇宙の本質」つまり、みんな違ってみんないい、そういうテーマに物語が収斂していくようにしようというそういう発想を持っているのですが、そうすると、限りなく「変」な生物や存在を想像力を振り絞って創造する必要がある。

 そういうことで、生き物とは、人間とはこうあるべきだ、そうした固定観念を脱構築?する必要がある。

 限りなく「変」な存在それぞれに意義や尊厳を持たせるという、そうした世界観を、偽善的ではなしに宇宙というものの本質として描かなければならない。

 人間よりもはるかに知性の高いアリ、そのアリはどういう社会を構成するだろうか?

 気体である生命体があった場合は、どういう存在形態だろうか?

 そういう数限りない「IF」を、私なりの思想、宇宙観、生命観、倫理観、そうしたものに則って、出鱈目にではなく、理想的にアポロ的に構成配置したいのです。

 「多様性」というものを至上とした場合、その逆の発想、ちっぽけで偏頗な差別やら戦争やらエスノセントリズムそうしたものが駆逐されていく、そういうエピソードも必要になる。

 そうしてやがて宇宙というものが、生命というものが、そもそもなぜ存在するのか、どういう意味があるのか、どうなっていくのか、そうした根源的な問いを真っ向から追求していく、そうした方向に物語が進んでいって、そのための究極的な秘密、答えが開示されていく…そういう展開にしたいと思っていたのです。

 宇宙の創造神である「私」の実存も当然そこに織り込まれる予定でした。


 ところが、またしても、或る日に、おどろおどろしい音楽が流れるとともに、画面が真っ黒に塗りこめられて、こういうメッセージが現れて、私のプログラムは全て破壊されてしまったのです。

 「可愛いお嬢さん、宇宙なんてものにはそもそも何にも意味はないのさ。せいぜい混沌と暴力と空虚な生存闘争の残骸、自分勝手な欲望と他人を苦しめるのが好きな悪魔が跋扈しているだけというのが宇宙の実状さ。

 綺麗事はやめておくことだな。けけけけけけけ」


… …


…かなり落胆しましたが、それでも私はめげません。

 今度はプロテクトを頑丈にして、まず「理想の彼」と私が素朴に恋愛に落ちる…

 そういうラブストーリーでも作ろうかと思っています。


<終>

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プログラマー 夢美瑠瑠 @joeyasushi

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