62.女王救出作戦2

 武器を置き両手を頭にして地面に伏せるフレデリックとパトリック。

 高梨と藤木も同じようにして地面に伏せた。

 木々の間に黒々と広がる土のむせ返るような臭いが、藤木達の鼻をついた。

 トリガーを半分押し込んだ状態でライフルを構えた革命軍の兵士達が、藤木達の武器を接収して、結束バンドで4人の親指を拘束していく。

 全員、顔に真っ黒な袋をかぶさせられると乱暴に立たされ、森の中を連行されていった四人。

 アメリカ陸軍を経て、長年こういった仕事に従事しているフレデリックは慣れたもので、

「軍の依頼でやってる仕事だぜ。ちゃんとジュネーブ条約は守ってくれるんだろうな」

 と革命軍の兵士相手に軽口を聞いている。

 森の中を暫く歩いたところで、指揮官らしき男が片手を上げて全員の動きを止めた。

 耳のインカムに手をやり何か指示を仰いでいるようだ。

「了解しました」

 インカムを切ると部下に向かって指示を出す。

 四人は乱暴に地面に膝をつかされると、兵士達に背をむけて並ばされた。

 兵士達がその数メートル後について、ライフルを構えた。

 エメトリア語で「構え!」の指示が飛ぶ。

「やべぇ、大脱走でこういうシーンみたことあるぞ」

 と悔しそうな藤木の声。

「せっかく昨年生きて帰ったのに、こんなとこで童貞のまま死ぬのは嫌だ-」

 この後に及んでふざけているのか、高梨の声が袋の中からする。

「あれ、そうなんだっけ?」

 藤木がとぼけた声で言った。

「どうせあっという間さ」

 顔に被された袋の中できつく眼をつぶる。

 昨年、砂漠の街でイラク軍に処刑されていく人達の情景が思い浮かび、来るべき発射音に身を固くした。

 指揮官が手を上げ、そしていとも簡単に振り下ろした。

 それぞれが死を覚悟したその瞬間。

 銃声はならなかった。

 その変わり後で兵士達がドサリと倒れる音がする。

「うんっと、な、なんだ?」

 首をすくめて藤木が振り返ってみるが、顔を覆われているため見ることができない。

 誰かが近寄り、

「少し待って」

 耳元で聞き慣れた声が囁き、親指を結んでいた結束バンドが着られて外される。

「ぶはっ」

 外の空気を求めるように高梨が頭に被された袋を両手で外す。

 かすむ目で見ると、そこにいたのは市内で取材をしているはずの大江だった。

「へ、編集長?!」

 その向こうで、藤木やフレデリックの拘束をマユミや智子が外している。

「ばかっ!なんで来たんだ!」

 高梨が大江にめずらしくため口で怒鳴った。

「だって、通信聞いていたらなんだかやばそうだったから」

 大江が眼を潤ませて、安堵した表情で高梨を見つめる。

「危ないでしょって、どうやって?」

 大江が振り返った先にいる人物を見て、

「あんたは病院にいたはずじゃ?」

 そこにいたのは吉川に眉間を撃ち抜かれて死んだと思われていたソビエト連邦の魔女、カーラだった。

 吉川の放った弾丸はその異能の力で、カーラの眉間をかすめただけで、他の標的へと飛翔していた。

 しかし、額の傷はまだ癒えないらしく、頭には包帯が巻かれていた。

「あんたは回復したら自分の娘の救出に向かうはずだったろ?」

 カーラの魔法で失神した兵士達から無線機と装備を奪って、持っていた結束バンドで拘束しながら藤木が言った。

「城に向かう途中で、沖田から連絡があった。私の娘は無事だと」

 冷静なカーラが珍しく顔を紅潮させて微笑んだ。

「ほんとよかったよね」

 マユミと智子が嬉しそうにカーラに声をかける。

「で、急遽こちらに来援してくれたわけか。助かったよ」

 フレデリックがカーラに礼を言った。

「で、どうするよ?」

 藤木がAK-74Mを構えて周囲を警戒する。

「カーラねーさんが来てくれたなら百人力だな」

 とこれは高梨。

「はじめまして。こんな美しい方と共に戦えるなんて光栄です」

 パトリックがまともなロシア語でカーラに挨拶する。

「時間がない、行くぞ!」

 フレデリックがノクトビジョンをつけて先行する。

「おまえらも来んのかよ?!」

 マユミや大江、智子といったメンバーもそれぞれライフルを持って進み出す。

「この際、人数が多い方がいいでしょ?」

「大丈夫、私が守るよ」

 カーラがこれまで見たことのないような笑顔でこたえた。 


To be continued.

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