58.マルコ・フォスター大佐

 お互いがお互いの親を演じて教員室へ電話をかけ、あらゆる親族の危篤を理由に一週間程度の休学を申請するという荒技で、なんとか学校を抜け出すことに成功した、大江、智子とアマチュア無線部、ハイテク部、自動車部等々のムサノ生一行。おばあちゃんがエリザベス女王という王位継承権保持者、パトリックことパトの手配した超音速旅客機「コンコルド」で、成田からドイツへと向かった。

 超音速旅客機は当時最高速度の旅客機として、その性能をフルに発揮して数時間のフライトでベルリン国際空港へ到着。

 そこで一旦、先駆けしたマユミを張っていると案の定、内戦状態のエメトリアへの渡航方法が見つからずに足止めをくらっていたマユミの発見確保に成功する。

 再会を喜ぶのもつかの間、今度は空港脇のプライベートエリアに用意された王室専用のヘリ、ウェストランド リンクスに搭乗して、一路エメトリア国境を目指すことになった。

 ヘリにワイワイと乗り込んできた一行を迎えたのは、昨年クウェートから脱出してきた長島達ムサノ男子メンバーにとっては命の恩人でもあり、一方で怨嗟の対象でもある人物だった。

「マ、マルコ大佐?!」

 青くなって後ずさり、

「やべぇ!逃げろ!逃げろ!」

 とヘリから飛び出そうとした長島や長谷川、藤木、高梨といったメンバーを、今度は二メートル軽く超える巨体が後から塞いだ。

「フ、フレデリック?!」

 驚いて振り返った一番の後の長谷川に、フレデリックと呼ばれた黒人が真っ白な歯を浮かべてニヤリと笑った。

「久しぶりだな。モンキーども」

 大佐に目顔でヘリの側面に設置された横並びの席に座るように促され、しぶしぶメンバーが席に着いた。

 還暦を超えているはずの大佐は、中東の砂漠で見たときと変わらず、いかにも鍛え上げられた軍人然とした態度で、長島達を見回した。

「ごめんねぇ。大佐がいたらみんなついて来ないと思ったあるよ」

 パトリックがすまなそうに謝った。

 ヘリが発進準備を整え、次第にローター音が大きくなっていく。

「閣下。ハリヤーが先行して警戒にあたっていますが、何があるかわかりません。準備をお願いします」

 ヘリの乗員がパトリックに報告すると迷彩服とヘルメット、ボディアーマー、パラシュートを渡す。他のメンバーにも乗員から同じ物が配られた。

「閣下だぁ?」

 驚いたメンバーがパトリックの方を向いた。

「そうあるよぉ。まあ名誉職でみたいなものね。今は海軍准将あるよ」

 相変わらず間違ったイメージの中国人のしゃべり方でパトリックが答えた。

「お前らにはやってもらうことがある」

 葉巻に火を付けながら、マルコ大佐が年齢を感じさせない張りのある声をあげた。

 全員が一斉に嫌な顔をする。大江、マユミ、智子は事情を知らないためポカンとしている。

「状況が変わった。先行させた沖田達でカタが付くかと考えていたが、手が足りない。そこでだ」

 煙を吐き出すと、サングラスの奥でその年齢に似合わない鋭利な眼が光った。

「なんだってぇっ!?」

 話を聞いた、長島、長谷川、藤木、高梨の4人が騒ぎ出す。

「俺らは戦闘向きじゃないって知ってんでしょうに」

「冗談じゃねぇぞ、俺たちにまた人殺しさせようってのか、このじじい!」

「極めて遺憾な状態にしてやるぞ!この野郎!」

「CQBかよ。来るんじゃなかったわー」

 騒ぐ4人の前に、フレデリックが嬉しそうに巨体をすくめてやってくると、サイレンサー付きのサブマシンガンMP5とハンドガンGlock17と弾倉の入ったベストを配り出す。

「Shut up!」

 ヘリ内に有無を言わさないマルコの強制認識音声が響き、次の内容を聞いた長島達の罵声がピタリとやんだ。

「まったく、あいかわらずやり方が汚いですな。大佐」

 苦々しさを隠そうともせず、長島が吐き捨てる。

「せっかく訓練してやったんだ。有効利用しないとな」

 暗い機内に浮いている見えるフレデリックの白い目と歯がチェシャネコのように笑った。


To be continued.

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