37.カーラの叫び

 ハインドから降り立った革命軍の精鋭兵と連携して、他の兵士達の攻撃が復活すると、レジスタンスの子ども達を一気に追い詰め始めた。

 倒れた仲間を必死に引きずって森へと撤退しようとする中、その子らにすら、カーラの容赦ない攻撃が加えられ、糸の切れた人形のようにして次々と地面に倒れ込む。

 倒れた子ども達にアサルトライフルを撃ち込もうとした兵士の頭が吹き飛んだ。

 吉川が重いコッキングレバーを瞬く間に引き構えた瞬間に、次の兵士の頭が吹き飛ぶ。

 兵達の注意がこちらに向いたのを確認すると、ライフルを抱え吉川が身をかがめて移動を開始した。

 最後に倒れた小坂の方を横目で見ると、

「早く起きろバカ」

 と呟く。

 すると、広場に倒れこんだ小坂にうっすらと薄い水の影が取りつき、その体がむっくりと起き上がった。

 緩慢な動作で少女を背負うと、まるで水面を滑るようにして走り出す。

 四肢外傷程度のレジスタンス達は森へと逃げ込み、腹や胸、頭部を撃たれて助かる見込みのない負傷者と死体は、広場に残されていく。

 膝から下が吹き飛んだ少年が血だまりを作りながら、必死にこちらへと這いずってくる。

 その背中に容赦なくアサルトライフルの弾が撃ち込まれ、衝撃の後に眼が焦点を失った。

 部隊の中心に立ち、こちらに向かってくるカーラの、その仮面の奧の表情をうかがい知ることはできない。

「なんであの女が…」

 場所を移動した吉川が、スコープの照準にカーラの頭部を納めて呻いた。

 引き金を引き絞ろうとして、引くことができない。

 そんな吉川を見過ごすようにして、カーラが吉川の方を見た。

 いや、数百メートル離れたこの距離でアンブッシュしている吉川を発見することは不可能なはずだ。

 しかし、カーラは吉川をしっかりと見据えるようにして、スコープの中にたたずんでいる。

 仮面を少しだけ上にずらした。

 見えたその唇が一瞬だけ動き、

「タスケテ」

 耳元でそう囁かれたように、吉川にははっきりとカーラの言ったことが分かった。

 カーラの手がすっとあがり、人差し指で眉間を指した。

「ウッテ」

 巨大な威力を持つ対物ライフル、バレットM107の弾頭はカーラの頭を霧散して消し去るだろう。

 逡巡する吉川の額に汗が流れた。

 その間にも、革命軍の兵士達は確実にレジスタンスの子ども達を撃ち殺し、負傷させていった。

「チッ」

 舌打ちした吉川が、コッキングレバーを引いて薬室に入っていた弾丸を取り出すと、ポケットから別の弾を取り出して薬室に押し込みレバーを戻す。

 息を細く細く吐きながら、吉川が照準をカーラの眉間に合わせた。

 周囲に風が巻いた。

 弾頭は貫通弾。チタン合金のフルメタルジャケット。

 今度は迷わず引き金が絞られた。

 音速を超えた弾頭が、カーラの眉間へと吸い込まれ、カーラが吹き飛ぶ。

 しかし、その弾頭は陽光を受けてキラリと光ると、そのままの速度で急激なカーブを描いて周囲にいた精鋭の兵士達を次々となぎ倒す。

 数名の兵士をあっという間に肉塊へと変えると、上空からタレットとミサイルでレジスタンス達を蹂躙しているハインドに向かって光を弾いて走っていった。

 ハインドのその戦車砲の直撃にも耐えられる装甲にいとも簡単に穴を穿ちコクピットへと飛び込むと、ガンナーとパイロットを縫うようにして飛翔する。あっという間に操縦席の二人が赤い死体へと変貌する。

 低空で地上掃討を行っていたハインドが回転しながら森へと墜落する中、鈍い破裂音と共に放たれた次弾は、上空から警戒していた2機目のハインドへと呻りを生じて直進していった。

 まるで生き物のようにコクピットに飛び込むと、嵐のように飛び回ってコクピット内の二人をそれこそミンチへと変える。

 スティンガーの直撃でも落とすことが難しいハインドがあっけなく二機とも地上へとたたき落とされた。

 レジスタンスから歓声が上がった。

 虚のような真っ黒な目をして見つめる吉川の視線の先には、倒れたカーラの姿だけが映し出されている。

 覗き込んだ者は狂気に捕らわれるであろうその瞳の奥から、人外の叫びが聞こえるようだった。


To be continued.

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